……これ、私たちのせいじゃない?
「いらっしゃいませー! 龍の息吹すら防ぐ魔道具ですよー! 使い切りですが、暗殺対策にいかがですかー! 次期聖女のレイナ様も認める効果ですよー!」
工房に依頼してから数日が経った。
全ての魔石は加工されていないが、とりあえず売れ行きを見て欲しいとのことで、魔石三箱分ほどのアクセサリーが渡された。
ペンダント、ブレスレット、指輪で一箱ずつだ。
どのタイプが売れやすいか、調べて来て欲しいらしい。
宣伝文句も過剰ではなく、龍の息吹相当の攻撃を食らっても耐えていたから、物としては悪くない。
親方の想定では爆売れしていて、作る種類を悩むくらいのようだけど……現実は非情だ。
今のところ、一個も売れていない。
それどころか、見に来てもくれない。
……これ、私たちのせいじゃない?
なんか、別のところで待っていた方がよさそう。
「ごめんなさい、リリアナさん。私たちのせいでお客さんが離れているかもしれません。たぶん、一人で売った方が良いと思うのですが……」
「嫌です! 皆さんが手伝ってくれたおかげで、魔道具にできたんですから! 私の勘が、沢山魔石を用意しろと囁いたのは、皆さんと知り合うためだと思ったんです。その関係を手放してまで一人でやろうなんて思いません!」
どうやらリリアナは、私たちに相当思い入れがある様子。
所詮は一時の関係だと考えていたのだけど……向こうがここまで考えてくれているなら、無理に突っぱねる必要もなさそうかな。
別に嫌っている訳じゃないし。
死亡フラグを持ってくる可能性はあるけど。
でもそれは、リリアナやゲームキャラに限った話じゃない。
誰と付き合っていたって、死につながる可能性はある。
結局は、それで後悔しないかどうかだ。
死ぬのだから多少の後悔はもちろんあるだろうけど、この人と関わった結果だと分かっても、まぁ仕方ないと思えるくらいの良い人だったら、別にいいのではないか。
ミーシャとサリアは確実にそういう相手だ。
リリアナは、まだわからないけれども。
ただ、悪い人でもないと思う。
関わりを増やしていかなければ大切な人もできないし、最初はある程度のリスクを背負いながら、人脈を広げていくべきだろう。
打算的なところで言えば、商人と繋がりがあるのは強みだしな。
利害関係で人を選ぶ。
人間関係なんて、最初はそんなモノだと思う。
自分に都合の良い相手と関わるところから始まって、次第に損得を考えない関係となっていくのだ。
リリアナがそうなるかは知らないけれど。
まずは関わってみないことには始まらない。
もうゲームのルートなんてめちゃくちゃになっているのだから、残る二人も忌避しなくていいのかもな。
その娘たちが良い子だったら関わって、悪い人間なら距離を取る。
きっとそんな感じでいいんだと思う。
変なレッテル貼りは、瞳を曇らせる。
サリアと関わったことで、それを痛感した。
最初はこんなに仲良くなるなんて思わなかったしな。
今思えば、あそこまで関わりを避けようとするのは愚かだった。
ラベルを見て、人を見ず。
私たちが今されて嫌なことを、私はしていた。
別に、他の人にやめて欲しい訳じゃない。
けれど、自分はしないようにしよう。
そう思うからこそ、リリアナを突っぱねるのは、よくない気がした。
もう少し、彼女を知るのに近づいてみよう。
向こうが離れていかないのなら、だけど。
……なんて、暇だから、こんなことも考えてしまう。
誰か買ってくれないかなあと思っていると、一人の美青年が近づいて来た。
「やあ。リリアナ。調子はどうかな?」
リリアナの元婚約者の、ニールだ。
顔は整っているのだけど、少し痩せぎすで、頼り甲斐がありそうには見えない。
線の細い、王子様然とした人物だ。
実際の王子はもう少したくましかったけどな。
あれは剣をやっているからだろう。
こっちは、とてもそうは見えない。
ニールに気がついたリリアナは、満面の笑みで彼を出迎えた。
「ニール様! おはようございます! 融通して貰った魔石を魔道具にしたんです! よかったらお一ついかがですか?」
「これはどういう魔道具なんだい?」
「防御魔法がこもったものですよ。龍の息吹にも耐えられちゃうんです! たぶん……」
「はっはっはっ、それは大きく出たな。嘘だとしても、興味は惹かれる」
ニールがそう言った途端、サリアがむっとしながら口を挟んだ。
「嘘じゃない」
「……失礼。あなたはどなたかな?」
「この魔道具の術式を構築した人間」
……きっとそういう意味で聞いた訳じゃないと思うぞ。普通に名前を聞いたんじゃないかな。
なんだか噛み合っていなかったが、ニールは気にしなかったようで、話を続けていた。
「それはすまない。しかし、龍の息吹は言い過ぎだろう? それくらい硬いという意味かもしれないが、リリアナに嘘文句で売らせるのは、未来の婚約者の名声を傷つけるみたいで困るな」
「片手間で作ったおもちゃだけど、効果を疑われるのは心外」
「片手間、か……ますます信頼できない。もう少し、まともな宣伝を頼みたいところだ」
その瞬間、サリアは珍しくも舌打ちした。
あ、やばい。サリアの不機嫌が限界に来ている。
これ絶対、なにかする。
そう思っている間にも、サリアは在庫から指輪を一つ掴み、ニールの指にはめた。
そして、次の瞬間――。
ニールが大炎上した。




