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「私が新しいアクセサリーをあげる予定だったのに……」

「それでは、振り分け試験を行います。一種目終わるごとに、渡した紙に結果を記入してくださいませ」


 翌日、私たちは再び工房に来ていた。

 どうやらミーシャは半日で術式を分解したらしく、昨日の今日で制作に着手することになった。


 半日で解明したミーシャもすごいが、サリアが根気強く付き合ってくれたおかげでもあるだろう。

 聖女様を訪ねた後、二人でずっと研究室にこもっていたし。

 あまり仲が良いとは言えない相手と一緒に研究していたのに、よく投げ出さなかったな。

 サリアにしては珍しいというか。

 それだけ歩み寄ろうとしている証拠なのかもしれない。


 とはいえ、折り合いの悪い人間との共同作業だから、疲労感は溜まるようで。

 よほど疲れたのか、サリアはぐでっとテーブルに顔を押し付けている。

 その姿が可愛くて、衝動的に彼女の頭を撫でた。

 

「よく頑張りましたね」

「……もっと褒めて」


 おねだりさんめ。偉いから応えちゃう。


「サリアは、天才の上に努力家で、友達思いのいい子ですね」

「それほどでもある」


 にへらと破顔して、ふにゃふにゃになるサリア。

 普段の様子からは想像できない姿で、なんだか役得感がある。

 ミーシャもリリアナも、試験の方にかかりきりだから、こっちにはいないし。

 私だけが見られる特別な顔だ。

 

 そんな風にのほほんとしている間にも、試験は進行していく。


 どうやら、術式理解や魔力量などにより、工程の適正を見分ける試験らしい。あとは、装飾技術なども見るのだとか。

 私はなんとなくしか理解できていないが、とりあえず、難しいところは優秀な人が担当して、それ以外のところは試験結果に合わせて適材適所に振り分けるみたいだ。

 

 例えば、術式理解が乏しくても魔力量が多い場合は、魔石に魔力を込める役に割り振るのだと。

 今回はもう魔力が入っているから、その役割は追加注文分かららしいけど。


 どんな適性でも余すところなく割り振るのが凄いと思う。


 しばらくして試験が終わり、ミーシャによって、適切と思われる工程に振り分けられていく。

 親方はサポートで、振り分けられた人員に、詳しい工程の説明をしていた。


 ミーシャが親方より上の立ち位置にいて、全権を握っているような形だ。

 工房全体が彼女の指示に従って、統率された兵のように動いている。

 

 外部から来たぽっと出の小娘に指示を出されるなど、本来なら反発がありそうなものだけど、術式解明を半日でやってのけたのが効いているらしい。

 普通の人から見れば、それだけ凄い術式だったということだ。


 そもそもその術式を作ったサリアは言わずもがな、複雑な術式を紐解いて、分かりやすく細分化したミーシャも、天才と思われているのだろう。


 彼女の場合は天性のものというより、努力の賜物である気がするけど。

 その辺は本人にしか分からないが。


 そうこうしているうちに振り分けも済んで、作業が始まった。

 製造ラインが生き物のようにうねりだし、魔道具が作り出される。

 とりあえず試作で数十個ほどだが、ラインがきちんと機能するかを見るらしい。


 ただ、初めての作業だからか、よく止まる。

 その度に、ミーシャが説明をしに行っていた。


「ここは全体指定ではなく単体指定ですわね。全体指定にしてしまうと、必要魔力が多くなり、術式が崩壊してしまいます」

「ですが、単体指定だと、きちんと攻撃を防げないのではないですか?」

「使い切り想定なので、ここの術式は単体指定でいいのです。攻撃の無力化は別の術式が担うので、連絡部であるここは、単体指定で支障はないのですよ」

「……なるほど。理解できました。ありがとうございます」


 私には、魔法の効果範囲を指定していることくらいしか分からないが、ミーシャがきちんと理解して指示していることだけは伝わってきた。


 詰まるたびにミーシャが的確に指示を出して、原因を解消していく。

 初めての作業だから時間はかかっていたが、全体の理解が進んだ後半は、かなりスムーズだった。

 さすが『統率者』の適職というべきか。

 人をまとめるのが上手い。


 そうして出来上がったのは、魔石があしらわれたペンダント。

 リングやブレスレットなどのバリエーションも作るらしいが、とりあえず試作品で単一種類だけらしい。


 魔石も丁寧に削られていて、芸術品のような趣がある。

 あまりにも良くできているものだから、思わず感心してしまった。


「本当に綺麗ですね。これが魔道具だとは信じられませんよ」

「そこは工房の方が頑張ってくださいましたから。術式までは解明できても、私に装飾は分かりませんし」

「でも、それを振り分けたのはミーシャではないですか」

「そこは親方様に判別していただきましたわ。商品である以上、見栄えも大事ですからね」

「とても素敵な形です。魔道具の機能がなくても、欲しいくらいですよ」


 そんな風に話していると、親方が近寄って来て、ペンダントを四つ取り、こちらに寄せて来た。


「一人一個ずつ持っていきな」

「いいんですか?」

「あぁ。試作品だから売り物にはできないし、工房の連中に配っても余っちまう量だ」

「それならお言葉に甘えて……」


 譲って貰ったペンダントを、早速首にかける。


「どうですか?」

「魔石が映えて、とても良いと思いますわ」


 ミーシャからお褒めの言葉を貰うも、サリアはなんだか不服そうだった。ぷくっと頬を膨らませている。

 今日はなんだか可愛らしい仕草が多いな。

 でも、理由はさっぱりだ。


「どうしてサリアは不機嫌そうなのですか」

「私が新しいアクセサリーをあげる予定だったのに……」


 そういえばそうだったな。

 ミーシャが奴隷になったりで買いに行けなかったから、忘れていた。


「ごめんなさい。でも、これもサリアが作ったようなものではありませんか? それに、皆とお揃いですし」


 そう言うと、サリアは無言で近づいて来て、以前のように魔石へ口付けをした。

 ぱあっと魔石が光り、サリアは満足そうに頷いた。


「これで大丈夫」

「何をしたんですか?」

「こんなおもちゃみたいな術式じゃ不安だから、少し弄って機能を追加しておいた」

「……今の一瞬で?」

「元はと言えば自分で作った術式。手直しすることくらい訳ない」


 まぁそうか。

 前のことがあったからか、心配してくれているみたいだ。

 けど、私だけというのもなぁ。

 

「ありがとうございます。ちなみに……皆の分はやってくれないのですか?」


 サリアは少し悩ましげな態度を見せた後、まだ身に付けられていない三つのアクセサリーを手に取った。

 

「……わかった。疲れるけどやる」


 順番に口付けをして、出来上がったものを、リリアナとミーシャに、むんずと押し付けるように渡す。残った一つは自分の首に掛けていた。

 

 受け取った二人は、性格を表すような仕草で、それぞれお礼を言った。


「ありがとうございます。皆様とお揃いのアクセサリー、大切にいたします」

「わ、私も大切にします! ありがとうございます!」


 ミーシャは丁寧にお辞儀。リリアナはペンダントを掲げて、しげしげと眺めている。

 二人とも嬉しそうで何よりだ。


 それにしても、お揃いか。

 見た目は他の魔道具と変わらないけど、サリアが魔法をかけてくれた特別な逸品。

 世界で四つしかない、四人だけの宝物。

 これは、絆の証と言ってもいいのではないだろうか?


「友情の証みたいでいいですね」

「友情……レイナ様がそう感じてくれているなら嬉しく思います」

「レイナが恥ずかしいこと言ってる」

「そんなことをおっしゃいますが、サリア様も、レイナ様とお揃いで嬉しいのでしょう?」

「当たり前」


 三人でわいわいしていると、リリアナが遠慮がちに手を挙げた。

 

「あのー、わ、私もお揃いでいいのでしょうか?」

「リリアナ様がいなければ、皆でお揃いというのもありませんでしたから。これから一緒に頑張る仲ですし、徐々に関係を深めていけばいいと思います」

「ありがとうございます! 私も皆さんと仲良くなりたいです!」


 リリアナも健気で可愛いなぁ。気遣い屋で好感が持てる。

 

 ほんわかしたやりとりに和んでいたら、サリアが私の背中に回って来た。なんだと思っているうちに、背中に重みがかかる。どうやら、しなだれかかって来てるらしい。


「今ので疲れたからおんぶ」

 

 そのまま両手を肩から首に回して来て、がっちりホールドされた。

 今しがた仕事をさせたのに、振り解くのも可哀想だ。

 仕方ないので、そのまま運んでやることにした。

 やってくれたことのお礼にしては、ずいぶん軽いものだけどな。


「今日だけですよ」

「やった」


 そのまま持ち上げてやるけれど、背負っている感覚がないほど軽い。

 なんだか病弱な感じがして心配になった。


「ずいぶん軽いですが、きちんと食べてますか?」

「……研究に熱中していると忘れる。昨日も忘れた」


 昨日? 昨日はミーシャも一緒だったはずだけど……まさか。


「……ミーシャ? まさか夕食を食べていないなんてことはありませんよね?」

「あー……そうですわね。昨日は霞をいただきました」

「それは食べなかったって言うんですよ、おバカ」


 どうりで朝にあんな食べていたはずだ。二人ともいつもより食べるからおかしいと思ったんだ。


「今日いっぱい食べたから大丈夫」

「そんな食べ方してると、変な太り方しますよ」

「……みすぼらしい姿にならぬよう、気をつけます」

「別に太ってもいい」

「すごく太ったら、二度とおんぶしてあげませんからね」

「じゃああんまり食べない」

「それもダメです。きちんと健康的な食事をしてください」

「……わかった」


 はぁ。私はサリアのお母さんじゃないぞ?

 でも、娘を持ったらこんな気分になりそう。

 今のところそんな相手はいないけど。

 男とまぐわうのも少し抵抗があるしな。


 今は皆といる方が楽しいから、結婚とかは考えられない。

 そう言う点で見ると、はっきり結婚願望があるリリアナはしっかりしていて偉いなぁ。

 

 まぁ、彼女が結婚できるかは、この商売にかかっているのだけど。

 下ごしらえは手を尽くした。あとはうまく行くのを祈るのみだ。

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