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試験は満点、察しの良さは赤点かよ。

 サリアの好意に甘えて、週末に魔道具工房へ赴いたのはいいのだが。


「あー……こりゃ術式が複雑すぎてうちじゃ無理だな。一回切りとはいえ、破城槌並の攻撃を耐える強度……一体なにと戦うつもりだ? 龍か?」


 依頼をお願いした親方の第一声がこれだった。


 サリアさーん? 聞いてた話と違うんですがー?

 あなた、そんなに難しいモノじゃないって言いましたよね?


「サリア? 一体どういうことですか?」

「どういうことって言われても……こっちが聞きたい」


 あ。サリアも分かってないんだ。

 皆で首を傾げていると、ミーシャがぽんと手を叩いた。


「もしかして、その術式、人に見せるの初めてじゃないですか?」

「失礼な。学園長には見せてる」

「他の人には?」

「見せてない」

「……それで? 学園長に見せた時の反応はいかがだったのです?」

「聖女候補のレイナの学園案内をしたら、魔法授業免除で良いって言われた」


 はぁー……それって、学園長が認めるレベルで凄いってことじゃないか。

 なんで天才なのにそこら辺は分からないの?

 試験は満点、察しの良さは赤点かよ。

 あまりの言い草に、思わず突っ込んでしまった。


「それでどうして難しいモノじゃないって思ったんですか」

「他にもないかって言われて、そっちを見せた時に言われたから。こっちは配布用のおもちゃ」


 おもちゃってお前ね……工房の人の顔を見てみろ。

 とんでもない顔してるぞ。

 これはあれだね。頭は十分以上に足りてるんだけど。


「……サリアに足りないのは常識ですね」

「そんなことない」

「あるんですよ。こんな凄いものをおもちゃと言う感覚がおかしいんです」

「この程度ならいっぱいある。人に見せたらダメそうな物くらいは判別できているつもり」


 できてないんだよ、おバカ。


 ……待て。一瞬流したけど、まさかこいつが人に見せちゃいけないと思うレベルのモノがあるのか!?


「その、人に見せたらいけないもの、まさか本当に作ったりしていませんよね?」

「何を言ってるの? 見せられないから見せないって言ってる。もう存在はしている」

「いいですか? それ絶対、人前に出したらダメですからね!」

「最初からそのつもり」

「使うのも無しですよ!?」

「道具は使うものだけど?」

「ダメなものはダメです!」

「……わかった。レイナがそういうなら、どうしてもの時じゃなければ使わない」


 本当かなあ。

 なんか不安だ。

 屁理屈こねて普通に使いそう。

 サリアの魔道具事情を心配していると、ミーシャが工房の親方に尋ねた。


「複雑すぎて難しいとのことでしたが、それは量産化が難しいということですか? それとも、そもそも作るのが難しいですか?」

「量産化の方だな。制作できそうなやつは一応いるが、数が少ない。とてもじゃないが、大量の魔石を加工するのは難しい」


 親方から事情を聞いたミーシャは、一つ頷くと、サリアに話を振った。


「でしたら、サリア様の方で術式を分解していただくのはいかがでしょう? 作業工程を分ければ、一人が突出していなくても制作は可能なはずです」

「……こんな簡単な術式を、更にわかりやすくするの?」

「あなたには簡単でも、他の人には難しいのですよ」

「面倒……」

「術式を説明していただければ、私が分解いたします」

「……お前が?」


 お前にできるのか。なんでそもそもお前なんだ。

 そんな目でサリアがミーシャを見るけれど、彼女は怯まなかった。


「術式を拝見させていただきましたが、一部不明瞭な点があるだけで、それ以外は工程分けができそうです。あとはサリア様のご助力があれば可能だと思うのですが……」


 サリアは戸惑っているのか、遠慮がちにこちらを見た。信頼してもいいのか、といった様子だ。

 ミーシャの力量を完全に把握している訳ではないけれど、彼女も高位貴族だった人だ。

 きっと大丈夫なはず。


「信じてもいいと思いますよ。私は魔法のことは分かりませんが、ミーシャはできそうにないことを提案しないはずです。きっと、サリアが面倒だと思う部分を肩代わりしてくれます」


 サリアは少し口ごもった後、聞き落としそうなほど小さな声で、呟くように言った。


「……わかった。やる」

「ありがとうございます。微力ながら力を尽くさせていただきます」

 

 こちらの話はまとまったけれど、工房とはまだだ。

 話を聞いていた親方が、なんだか言いにくそうに口を挟んだ。


「あー、技術提供はありがたいが……そちらに得はあるのか? 需要がかなりありそうだから、依頼分の魔石だけじゃ流通が追いつかない。そうなると、こちらで販路開拓して売るようになるが、技術だけ掠め取った形になっちまう。それでもいいのか?」

「魔石は追加でお願いすればいい話ですから。こちらが技術提供して魔石を流し、そちらが加工する。こういう形はいかがでしょうか、リリアナさん」

「え、あ、はい! それでいいと思います!」


 急に話を振られたリリアナは、本当に聞いていたのか怪しいくらいに、素直に頷いた。

 なんかこの子、詐欺とかに引っかかりやすそう。商人なのに。

 そんな彼女を置いて、ミーシャはさらに話を進めていた。

 

「と、依頼主も言っておりますので、契約を締結していただけますか?」

「……話だけ聞けば夢のようだが、量産化の手筈は本当に整うんだろうな?」

「そこは任せてください。術式の製作者がいますし、私もある程度は嗜んでおりますので」

「しかし、技術を提供して貰って作るだけとなると、ウチの取り分はかなり少なくなるんじゃないか?」


 どうやら親方は金勘定をしている様子。

 だが、話の主導権はこちらにある。ミーシャもそれが分かっているからか、強気に出た。


「難しいようなら、他の工房にお伺いしなければいけないのですが……」


 少し渋っていたような親方だったが、他の工房の話が出た途端、乗り気になった。


「わかった! ウチが受け持とう! 詳しい利益配分は、このお嬢ちゃんとすればいいのか?」

「私が受けもちますが、こちらのリリアナ様も交えて話を進めていただければありがたく存じます」

「よし、わかった。早速話を詰めていこう」


 そのまま三人で、利益の分配を相談し始めた。


 結局、工房が三、こちらが七、ということで話がまとまった。それだけ技術提供の比重が重いのだと思う。


 ちなみに、こちらが多い分の内訳の一部は、私のネームバリューらしい。

 次期聖女御用達とかで売り出すんだと。


 それ、聖女を祀っている本部に連絡しないとまずいと思うんだけど、大丈夫なのか?

 

 

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