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今はこれくらいが精一杯、ということだろう。

「……今日も全然売れなかったですね」


 リリアナと共に魔石を売り始めてもう三日。

 ほとんど成果がなく、週末が近づいて来ている。


 なんでこんなに売れないんだろうな。

 生活必需品と言ってもいいほどなのに。


「まぁ、大体の貴族はご自身の家で販路開拓したりしていますからね。人脈がない人しか買わないかと思われますよ」


 ミーシャの言葉に、私たちは一斉に反応した。

 

「実家に戻れば販路くらいある」

「そうなんですか!?」

「ミーシャ! そういうのはもっと早く言ってください!」


 サリア、リリアナ、私と、ほぼ同時に喋った。


 人脈ないのを否定しようとしてるけど、あんまり意味ないぞ、サリアよ。

 それはお前じゃなくて、親に人脈があるだけだからな。

 

 というか、リリアナは『そうなんですか!?』じゃないよ!

 お前は知ってないとダメだろ!

 本当に『商人』の適職なのか?

 嗅覚というか、センスが鈍ってるんじゃないのか。


「なんでリリアナさんが知らないんですか?」

「私は領地経営に関わっていなかったので……もう少ししたら教えて貰うこともあったと思いますが、その前に没落してしまいましたから」

「あ……ごめんなさい」

「いえ、大丈夫です。それより、その話が本当なら、これはどこで売ったら……」

「あー……街に出て一般市民に売るとか?」

「単価が下がって利益が薄くなるのもありますが、それ以前に、市外での露店販売の許可を得ていないのです。学園には取ったので、こうしてここで商売はしていますが……」


 あ、ここで売ってたのってそういう理由なんだ。

 しかし、それだと手詰まりじゃないか?

 閉塞感が漂う中、ミーシャがぽつりと言った。


「こういう時こそサリア様の出番ではないのですか?」

「私?」

「元々、魔道具にするつもりで買っていたのでしょう? でしたら、この魔石全て、サリア様に魔道具にして頂けばよろしいのではないですか?」

「は? 殺す気?」


 いい案だなと思ったら、一瞬でサリアが噛みついた。

 そうよな。いくらなんでもサリアの負担が大きすぎるよな。

 でもなぁ。前に一瞬で身代わりのアクセサリー作ったの見ると、いけるんじゃないかという気もするのだけど。


「以前、簡単そうにアクセサリーを魔道具化してましたし、サリアなら実は行けたりしませんか?」

「作れるには作れる。けど、量が無理。手伝って貰ってもしんどい」


 そっかあ。ダメかあ。

 諦めかけていたその時、またもミーシャが提案した。


「でしたら、サリア様の術式を工房などに委託して、量産するのはいかがでしょう?」

「……私の成果を他人に譲れと?」


 わーっ! サリアがまたキレそうになってる!

 ミーシャの言うことは真っ当で納得できるんだけど、たぶんこれ、言う人が気に食わないやつだ。

 わ、私が言ったら和らいだりしないかなあ?

 そう思って、ダメ元でサリアに提案してみた。


「ほ、ほら! 私にくれたアクセサリーの廉価版というか! 一回攻撃が防げるだけのモノを作るとかはダメですか!?」

「……それなら別にいい。そんなに難しいモノじゃないから、唯一性もないし」


 ミーシャとほぼ同じことを言ったはずなんだけど、承諾されてしまった。

 いくらなんでも二人の仲が悪すぎだろ。なんでだよ。

 ほら、ミーシャまでなんだか不機嫌になってる。


「魔道具製作の天才と言っても、正論を飲み込めずに感情で動く方なのですね」

「感情に身を任せて魔族に与した人間には言われたくない」


 もう!

 なんで二人とも口が悪いんだ!

 一体何が気に食わないんだか。

 

「喧嘩はやめてくださいよ! なんで友達同士の喧嘩を見なくちゃいけないんですか?」

「……申し訳ありません。ついカッとなってしまいましたわ」


 ミーシャは素直に謝って来たけど、サリアはぶすっとしている。

 

「……私は悪くない」


 はぁ。二人の仲が悪い原因が分かれば解決のしようもあるのだけど。


「一応聞いておきますが、なんで二人とも相手に突っかかるんですか?」


 私が会話の糸口を差し向けると、ミーシャはゆっくりと語り出した。

 

「……自惚れでなければ、レイナ様は命をかけてくださるほど、私のことを思ってくださっています。これまでの出来事を経て、私も、その思いに応えたいと思うようになりました。ですが、どうにもレイナ様の一番は、私ではないのではないか、とも感じてしまうのです。所詮は奴隷の嫉妬心ですが、私は対等でいられなくなってしまったので、肩を並べられるサリア様が羨ましいのですよ」


 ミーシャが思いを述べると、サリアははんっと鼻を鳴らして、彼女を挑発した。

 

「そう。私が一番の友達。奴隷の出る幕はない」


 いくらなんでも口が過ぎる。

 これはダメだろ。


「サリア。今はそういう場面じゃなかったでしょう? そういう風に強く言うから、人脈が広がらないのですよ」

「でも……」

「でもじゃないです。私のことを思ってくれるのは嬉しいですが、大切な人たちがいがみ合っているのを見なければいけない私の気持ちも、考えてくださいませんか?」


 そう説得しても、サリアは黙ったままだ。

 代わりに、ミーシャの方が動き出した。


「……そうですわね。レイナ様のためとはいえ、私はサリア様にも救っていただいていますから。恩人に対する態度ではなかったと思います。申し訳ありません」


 ミーシャがお辞儀をして謝罪すると、サリアはぶっきらぼうに返答した。

 

「……別に、お前のためじゃない。レイナが悲しむからやっただけ」

「承知しております。ですが、同じレイナ様を思う者同士、分かりあうことはできませんか?」


 それから、少しの沈黙。

 さすがに間へ入ろうかと思った時、ようやくサリアが口を開いた。

 

「…………わかった。善処はする」


 不満そうではあるけれど、言ったからにはやるだろう。

 サリアはそういう子だから。


 そうしているうちに、ミーシャがサリアに向かって右手を差し伸べる。

 意図がわからぬサリアではなかったのか、おずおずと右手を差し出し、指の先っぽを握った。


 今はこれくらいが精一杯、ということだろう。

 なんだか可愛らしい仕草で、笑ってしまった。


 それに釣られて、ミーシャも微笑む。

 きっかけとなったサリアは、瞬時に手を引っ込めて、顔を赤くした。


 三人で盛り上がっていると、仲間はずれになっていたリリアナが、申し訳なさそうに手を挙げながら声を発した。


「あのー……結局この魔石はどうするのでしょう?」


 ……ごめん。普通に忘れてた。

 やっぱり外部委託かなぁ。

 


 


 

 

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