完璧な作戦だな。粗があるということを除けば。
「実はですね――」
リリアナが語ろうとした、その時だった。
「おや、リリアナじゃないか。用意した魔石は売れたかい?」
少し痩せ気味の美青年が、リリアナに話しかけて来た。
ずいぶん親しげだけど、誰だろう。
「あ、ニール様! 昨日は急な申し出にも関わらず、沢山の魔石を用意していただきありがとうございました! 売れ行きは……芳しいとは言えないですが、頑張って売ります!」
「そうか。急がないから、ゆっくり売りなよ」
「本当に、ニール様にはいくら感謝しても足りないです。いつも助かっています!」
「いやいや。君は元婚約者だ。当然の事だよ。できれば早く借金を返済して、名を挙げてほしいところではある。そうすれば、今度こそ君と……あぁ、ゆっくりで良いと言ったのに、これでは矛盾してしまうな。すまない」
「ありがとうございます! 私も早くニール様の元に行きたいので、全力を尽くす所存です!」
「はは、まぁあまり気張りすぎないでね。それじゃあ、頑張って」
そう言って、その場を去る美青年。
今の話を聞いて思い出した。
彼はリリアナルートのヒーローだったはず。
たしか……ニールなんとかウィリアムだった気がする。
ちゃんと名前が出てこないけど仕方ない。
ヒロインたちならまだしも、野郎のフルネームなんて覚えてられるか。
ミリアルドはミーシャルートだったからはっきり覚えていただけだ。
他のルートの男なんざ知らん。
ゲームを知っていたはずの私は情報をほとんど持っていないのだけど、貴族であるサリアと、元貴族のミーシャは知っているかもしれない。
そう思っていたら、サリアが不思議そうに呟いた。
「今の誰?」
「今のはニール様です。お察しの通り、没落前は彼と婚約していました。家を再興出来たら結婚していただけるとのことで、支援なども受けています。とても優しい方で、彼からは商品をたびたび融通して貰っているんですよ」
「不勉強ですわね。サリア様も高位貴族なら、ご挨拶くらいはした事があるのではないですか?」
「知らない。覚えてない」
あぁ、思い出した。
リリアナルートは、稼いだ金額でエンディングが決まるんだっけ。
販路を開拓して商品を売る、シミュレーション的なゲームシステムだった。
改めて思うけど、五人全員遊び方が違うの、モンスターゲームじゃないか?
なんにも疑問を持たずに遊んでいたけど、作った人すごすぎるだろ。こんなに遊びを持たせられるとか、神様か何か?
なんて、今関係ないことはおいておこう。
とにかく、リリアナはお金を稼ぐ事で幸せになれる。
ゲームでも私を巻き込んで商売するのだけど……最終的に、手伝ったはずの私は悲惨なルートを辿った気がするんだよな。途中で敵対とかするんだっけ?
ここ結構重要なはずなのに、なんにも覚えてない。
覚えていれば対策を打てたんだがなぁ。
さすがにもう関係ないと思っていたゲームのことなんて、詳しく覚えているわけもなく。
まぁ、もうゲームとは違うから、あんまり当てにはならないだろうけど。
手伝うのなら十分気をつけないと危ないかもしれない。
もう死にたくないし。
とりあえず、現状をよく知る為にも、情報を集めておこう。
「答えにくかったら答えなくても構わないのですが、どうしてリリアナさんは没落してしまったのですか? 理由によっては、ただお金を稼ぐだけでは、お家復興は難しいと思うのですが」
「父が新しい事業に手を出して、失敗してしまったのです。そんなに大きな家ではなかったので、負債に耐えられなくて。莫大な借金が残ったのですけど、ニール様のお家が肩代わりしてくれて、無利子で返済している最中なのです」
「無利子ですか? ずいぶんと気前が良いのですね」
「ありがたいことに、ニール様は私との婚約を望んでくれているので。吸収された領地の経営なども担ってくれて、いつでも元に戻れるようにと、準備をしてくださっています」
「お金を稼ぐだけで貴族に戻れるようなものなのですか?」
お金を稼ぐだけでいいなら、商人は皆貴族になってそうだけどなぁ。
「本来なら難しいですが、国民の生活に寄与する重大な事業をなし、経営手腕を認められると、一代限りの爵位が貰えます。そんなに効力の強いものではありませんが、爵位があればニール様と結婚できるので、それを目指しています。そのあと、財産分与という形で、元の領地をニール様からいただく手筈になっていますね」
「なるほど。そう言う仕組みだったのですね。商品も彼から融通して貰っているようですが、きちんと利益は出ているのですか?」
「利益、ですか? それはまちまちですが……あ、ふっかけられたりとかはしてないですよ! きちんと適正価格で卸していただいています。おかげでお金も順調に稼げてはいるのですが……」
そこでリリアナの言葉は止まった。
待っていても、続きを話す様子がない。
一体どうしたんだろう。
「何か問題があるのですか?」
「あー……まぁ問題と言えばそうなのですが、どちらにせよ、稼いだ金額がまだ全然足りないので、もっと頑張ろうと思っているところです。国民に寄与する事業もまだ成せていないですしね。これからですよ!」
誤魔化した。
それは明らかなのだけど、この様子だと突っ込んでも教えてくれなさそうだ。
……まぁいい。
結局のところ、リリアナがお金を稼げば、ニールに嫁いで、私との関わりがなくなる。
そうすれば死亡フラグも消え去るはずだ。
元はといえば、サリアが変な魔石の買い方をしたのが、関わる原因だったし。
リリアナの事業をちょっと手伝って、ちょちょいと稼いでおさらばすれば、罪悪感も死亡フラグもどっかに行く。
完璧な作戦だな。粗があるということを除けば。
まぁ、未来なんて不確定だから、完璧な作戦などないのだ。
人生はアドリブの連続。場当たり的に上手く対応していくしかない。
当面の問題は魔石だ。
これをなんとかしなければ、リリアナはお金持ちになれず、罪悪感も晴れないまま。
とりあえず、どうにかする手立てはあるのか聞いてみよう。
「ところで、この魔石はどうするのですか? 明らかに負債になると思いますけど……」
「頑張って売りますよ! 売らないとなくならないですからね!」
どうやら意思は硬いらしい。が、売り捌く目処も無いらしい。気合いだけじゃどうにもならないだろうに。
……仕方ない。
死にそうになったら手を引けばいいし、石を捌くくらいは手伝おう。
手助けはするつもりだったから、安全な範囲で手伝えばいいし。
魔力入りの魔石はよく使うから、簡単に売り切れそうだ。
今日の放課後には売り切れたりしてな。
……なんて考えが甘いと思い知ったのは、実際に売り始めてのことだった。




