「これ、私が悪いの?」
「はぁ……ここまで売れないと嫌になっちゃいますね」
「嫌ならやめたらいい」
「……そうは言いますが、元はと言えば、サリアがあんな買い方をしたからですよ?」
「必要なものを必要な分だけ買った。何も悪いことはしていない」
「それはそうですが……」
「お二人とも落ち着いてくださいませ。口論しても品物が売れるどころか、人が寄ってこなくなります」
「そういうミーシャが、一番寄り付かれない原因」
「そうは言われても、私はレイナ様の奴隷ですから。離れるわけには行きません」
「腰巾着め」
「あら。あなたが言えた口でしょうか? 私とサリア様、一体どちらが腰巾着に見えるかリリアナ様に尋ねてみますか?」
「え? わ、私ですか!?」
「関係ない人を巻き込むものじゃないですよ。ただでさえ気が重いのですから、これ以上、問題を起こすのはやめてください」
はぁ……なんでこんなことに。
本当なら、私たちはただのお客さんだったはずだ。
それなのに、サリアとミーシャが首を突っ込むから……。
いやまぁ、確実に私も悪いけど?
とはいえ、関わらない方が楽だったのも事実だ。
事の発端は、初めてリリアナから魔石を購入した翌日だった――。
「――また、昨日の魔石売りがいるんですね」
あまり関わりたくない気持ちが、自然と口に出る。
できれば近づきたくない。
どう転ぶか分からないから。
しかし、私の望みは叶わないようで。
「それなら今日も全部買う」
サリアがそんなことを言うものだから、思わずたしなめてしまった。
「一体なに使うつもりですか。そんなに要らないでしょう」
「誰かさんを助けるのに魔道具たくさん使い潰したから。在庫が尽きそう」
あー……それ言われると弱い。
私のわがままで消費させてしまったからな。
ミーシャもなんだか申し訳なさそうな顔をしている。
そんな調子だから、二人とも連行される罪人のように、粛々とサリアの後をついていくしかなかった。
「いらっしゃいませー! あ、沢山買ってくれた人ですね! 昨日はありがとうございました!」
リリアナは今日も元気だ。
見ているとなんだか癒される。
死ぬ可能性がなければ、ちょくちょく会って元気を貰いたいくらいだ。
対するサリアは、素っ気なく応答した。
「今日もあるだけ頂戴」
お前ね、そういうところだぞ。
態度も行動も無遠慮という言葉がぴったりだ。
まぁそういうところも含めてサリアだから、いいんだけどさ。彼女の良さは私だけが知っていればいい。
そんなことを考えていると、リリアナは背後にあった積荷から布を取り去って、元気よく宣言した。
「そうおっしゃると思って……なんと、今日はこれだけ用意しました! これ全部、魔力入りの魔石ですよ!」
「え……こんなには要らない……」
自分で要求しといてそれはないだろ、と言いたくもなるが、これは正直サリアに同情するレベルだ。
なんて言ったって、在庫の箱が、リリアナより高く山積みされている。ざっと見で十箱以上。
いくらサリアと言えど、この量はすぐに使えないだろう。魔石にも魔力の鮮度があるから、あまり古いと価値が下がる。
サリアからすれば想定外の量だったろうが、それはリリアナも同じようで。
渋られるとは思っていなかったという顔で、呆然と言葉をこぼしていた。
「そんな……夜通し魔力を込めたのに……」
いや……いくらなんでもこの量は多すぎるだろ。まさか一人で用意したのか?
「これ全部、昨日の今日で作ったのですか?」
「……そうです。家にあった在庫も持って来ていますが、また今度買ってくれるって言ったので、これは用意しなければと、急いで拵えました。私の勘が、ここでありったけを用意しろ、と囁いてきたのです。今まで外れたことはなかったのですが……」
自分の信じてきたものに従ったとはいえ、いくらなんでもこれはおかしいって気がつきそうなものだけど……こんな量、一人で使い切れるわけがない。
そもそも、用意できたのも奇跡みたいなものだ。
普通、こんなに魔力込めたらぶっ倒れるだろ。
もしかして、販路があるのかな?
それならサリアはただのカモだ。
このままだと毎日魔石を買わされそう。
「サリア……どうするのですか?」
「どうするって言われても、一箱しか要らない。それ以上は消費できなくて魔力が濁る」
だよね。そう言うと思った。要らないものははっきりと言う子だものな。
リリアナは意気消沈しながらも、接客をやり通そうとした。
「そう、ですか……では、お一つお買い、上げ……」
が、唐突に、ふらっ、と倒れ込む。
地面に打ち付けられそうになったリリアナを、ミーシャが危なげなく抱き抱えた。
「ミーシャ! ありがとう、助かりました。でも、なんで急に倒れたのでしょう?」
「私も一度なったから分かりますが、魔力欠乏症かと思われます。気合いでなんとかしていたところ、サリアさんに断られて、気が抜けてしまったのかと」
魔力欠乏症って、ミーシャが魔族に乗っ取られてた時のあれか。確か、魔力を分け与えればいいんだっけ。
「それなら、私が魔力を分け与えます」
「いいえ、それには及びません。今は私も元気ですから、レイナ様のお手は煩わせません」
そう言って、リリアナの素肌に手を当てるミーシャ。
症状が重いのか、すぐには回復しない。
それを見て、サリアはぽつりと呟いた。
「これ、私が悪いの?」
うーん。私も微妙だと思う。
誰が悪いって言ったらリリアナだけど……なんか普通じゃないんだよな。
きっと何かある。
倒れている彼女を放っておくわけにもいかず、魔力を分け与えた後、起きるまで待つことになった。




