このヒロインとは、深い関係にならないはずだ。
ミーシャの沙汰が下されてから、少し経った。
そろそろ日常の味に慣れ始めたところだが、やはり、以前と変わったこともあって。
学園の生徒たちと、ほとんど話さなくなった。
話す相手は、もっぱらミーシャとサリアのみ。
他の人間は、全くと言っていいほど近づいてこない。
一度やらかしているミーシャを、連れて歩いているからだろうか?
最初はミリアルドが私に声をかけて来ていたものの、ミーシャとサリアに睨まれたまま話すのが嫌だったのか、はたまた私がそっけなくしすぎたか。
なんにせよ、奴はほとんど関わってこなくなった。
それ以外の人間も、遠巻きに見てくるだけ。
用事があって話しかけたら応答はしてくれるものの、向こうから来ることはない。
他の生徒と関わりがないのは不便な部分もあるけれど、気が楽ではある。
こっちもミーシャを見下すようなやつらとは一緒にいたくないしな。
悪い噂はされているみたいだが、今の所、実害はなかった。
私は三人でも幸せだから、言いたい奴は言わせておけばいい。
下手に人と関わる方がめんどくさいから。
なので、今日も三人固まっての登校だ。
ミーシャとサリアは、相変わらず仲が良いとは言い難いけれど、これも一種の友情の形だと思う。
たぶん。きっと。おそらく。
いつかはちゃんと仲良くなって欲しいけど、今は難しいだろうなぁ。
今日も二人の言い合いを眺めながら登校していると、いつもとは違った雰囲気を感じた。
なんだ? 周りの人間が、そそくさと校舎に入っていく?
まるで、何かを避けているような……。
私たちが嫌われていることも考えたが、早足になっているのは前方にいる人たちだ。
後ろに目がついているのでもなければ、私たちを察知して避けた、とは考えにくい。
理由を考えていると、その原因はすぐに判明した。
「魔道具に実験、用途様々な、魔力入りの魔石ですよー! おひとついかがですかー!」
そんな声が聞こえてそちらを見れば、初対面なのにどこかで見たことがあるような顔。
なんでだろうと考えて思い至ったのが、ゲームヒロインではないかという説だ。
目立つ色合いのピンク髪に、元気いっぱいの声掛け。
おまけに商売人。
その特徴に合致するキャラがいた気がする。
没落しながらも、その持ち前の明るさで家を復興しようとする、没落貴族系の悪役令嬢、だったはず。
果たしてそれは悪役なのか? という疑問はあるが、ゲームでは境遇の似通った私と張り合うことが多かったはずなので、一応そういう括りに入るのだろう。
ゲームの名前だとたしか……リリアナ・シュトルンだっけ?
本人に聞いたわけじゃないから合っているか分からないけど、心の中ではリリアナと呼んでおこう。
正直、今一緒にいる二人しか印象深くなかったから、この子に関してはほとんど覚えていない。
美化委員に入って商売をするトンチキなヤツってことと……あと結構な守銭奴だったくらいしか。
実際、校舎の入り口で商売をしているのだ。
商魂たくましいと言えるだろう。
そうか。皆はこの子を避けていたのか。
貴族ばかりが通う学園で商売するなんて、明らかに訳アリだものな。
近づくと面倒になりそうな気配がぷんぷんする。
そうでなくても、ゲームキャラだ。
ゲームがなんだとはもう言いたくないけど、関わると死ぬかもしれない。
ゲーム感覚は抜けているものの、死を回避することは絶対。
死ぬ可能性があるのなら、関わらないに越したことはない。
そう思って無視しようとしたら、サリアがリリアナの方へ近づいて行った。
なんで?
「魔石をあるだけ全部」
「え?」
「全部買う」
あ、普通に買い物ね。
でも全部はやりすぎだろ。
いきなり過ぎてリリアナもびっくりしてるよ。
「サリア。全部買ったら他のお客さんの分がなくなってしまいますよ」
「売れ残るより得なはず。なにがいけない?」
「多くのお客さんに届けることを目的としている商売人もいるのですよ。他に欲しい人がいたら、その人が困ってしまいます」
まぁ、この様子じゃ他に買う人も少なそうだけど。
私がサリアをたしなめていると、驚いていたリリアナが、慌てて話に入ってきた。
「私はお金のために商売しているので、全部買ってくれた方がありがたいです! なんなら今から魔力入りの魔石をお作りいたします! 素の魔石も残っているので」
「それなら素の魔石も欲しい」
「え。素……? 魔力は込めないんですか?」
「いらない」
ばっさり切られて、しょぼんとするリリアナ。
魔力篭ってないと単価下がっちゃうからな。
お金が一番なら、利益が下がるのは困るはずだ。
仕方ない。迷惑かけたい訳じゃないし、一応口を挟んでおくか。
「サリア。魔力を込めないと、その分だけ安くなってしまいますから。彼女は魔力入りの魔石を売っているのです。無理を言ってはダメですよ」
「……でもレイナの魔力の方が上質だから。素を買った方がお得」
え。まだ私に魔力込めさせるつもりだったの!?
「ダンスパーティーは終わったのですから、あの約束はもう関係ないでしょう?」
「私の方はいつまでとは言ってない」
こいつ……! 確かにその通りだけど、いくらなんでも横暴すぎないか?
私は一生、魔力を搾り取られるのか?
そう思っていると、後ろに控えていたミーシャが、ちくちく刺すように小言を述べた。
「サリア様。お言葉ですが、あまり次期聖女様のお手をわずらわせるモノではありません。釣り合わない取引は、関係を崩します。嫌われたくないのでしたら、線引きはきちんと致すべきかと。もちろん、この商人の方にもそうですよ。今後も魔石を購入したいのなら、無理はおっしゃらないことです」
サリアはしばらく黙ったかと思うと、ぶすっとしながらリリアナに告げた。
「……今ある魔力入りの魔石だけ頂戴。これから魔力込めるのはしなくていい。また今度、魔力入りを売っていたら買う」
「わかりました! お買い上げありがとうございます!」
元気よく接客するリリアナを眺めていると、なんだか穏やかな気持ちになる。
小さな子供がせかせかと動き回っているのを見ているような、そんな感じだ。
関わりを持ってしまったことに一瞬ビビったけれど、客と店員の関係なら、変なことにはならないだろう。
美化委員に入っていたら一緒に商売させられたりするのだけど、今はただの客。
そんなことになるはずがない。
このヒロインとは、深い関係にならないはずだ。
……そう思っていたのだけど。
数日後、なぜか私たちは、リリアナと一緒に商売することになっていた。




