番外編1(後編) こんな日常が永遠に続いたらいいなぁ。
「さて。それじゃあ実際に作ってみましょうか」
食べ終わった後のお皿を水につけたら、ようやく二人の実践タイムだ。
「おいしく作れるように力を尽くしますわ」
「ほどほどに頑張る」
二人の意気込みが対照的でおもしろい。
「怪我だけはしないように気を付けてくださいね」
その他注意事項などを伝え、二人に材料を渡す。
一人ずつ包丁の持ち方を教えながら、みじん切りにしてもらう。
「こう、ですか?」
「そうですね。それでもいいのですが、包丁の先を軸にして切ると、もう少しやりやすいですよ」
「先を軸に、ですか?」
初めての概念だからか、上手く伝わらないみたい。
ミーシャの後ろに回って、背中側から手を伸ばし、彼女の手に添える。
そのまま手をガイドし、感覚を覚えさせた。
「こうです。この感覚でやれば、上手にできると思います」
「なるほど。ありがとうございます」
ミーシャから離れると、サリアがこちらを見ながら声を上げた。
「分からない。教えて」
とは、言うけれど……。
「……できてるじゃないですか」
あきらかに、途中まで切り刻まれている玉ねぎがある。
これで出来ていないと言うのは無理があるだろう。
もうガイドする必要はないと思ったのだけど。
「分からない。教えて」
壊れた機械のように、同じことを繰り返すサリア。
これ、あれだろ。
ミーシャに密着しながら教えていたのを見て、自分もやって貰おうとしてるだろ。
変な意図はなかったけど、今更恥ずかしくなってきた。
もうやらないから、その手には乗らないぞ。
「そうですね。お手本を見せるので、真似してみてください」
サリアから包丁を借りて、みじん切りのコツを交えながら教える。
一通り終わった後、サリアはぽつりと言った。
「分からなかったから、後ろから手を取って、感覚を覚えさせて欲しい」
いやもう、どストレートだな。
いっそのこと清々しいよ。
でもダメ。くっつくのが目的だと思われたくないから。
ここは、対サリア特効の兵器を繰り出すしかない。
「サリアなら見ただけでできると思ったのですが……難しかったですかね?」
自尊心を刺激してやれば、きっと自分から動くはず。
そう思って言ってみると、フリーズしたようにしばらく動かなくなった。
恐らく葛藤しているのだろう。
やがて動き出したかと思ったら、ものすごく手際良く、みじん切りをし始めた。
「見て。一発で覚えた。褒めて」
「すごいですよ。サリアならできると思っていました」
ってか本当にすごいな。初心者とは思えないぞ。
頭を撫でて褒めてやりたいくらいだが、包丁を持っている人にそんなことをするのは危ないから、控えておく。
そんな一幕はあったものの、二人ともつつがなく材料を切り終えた。
それが終わったら、卵とご飯を混ぜ、炒めの工程だ。
ミーシャは入れるタイミングが分からず、逐一こちらに確認していたが、サリアは一人で淡々とやっていた。
もうちょっと聞いて来るかと思ったけど、なにかをぶつぶつ唱えながら、迷うことなく材料を入れていってる。
邪魔しちゃ悪いし、話しかけないでおこう。
サリアは大丈夫そうだったので、危なっかしいミーシャに終始かかりきりだった。
そうこうしているうちに、二人の炒飯が出来上がった。
「できましたわ!」
「こっちもできてる」
ミーシャの炒飯は、もたついたりしていることが多かったので、少し焦げたような色が見える。
とはいえ、私が見ていたから黒焦げではない。
一歩手前の香ばしい茶色だ。
サリアの方は完璧と言っていい出来で、文句のつけようがなかった。
「レイナ様に味を確かめて欲しいのです。食べてもらえませんか?」
「いいですよ」
ミーシャの炒飯をスプーンですくって、一口いただく。
うん。少し香ばしさはあるけど、それが返ってアクセントになっていて、いいと思う。
「おいしくできていますよ」
「ありがとうございます!」
あの粘土味みたいなクッキーを作ったのと同一人物とは思えない。
まぁ、レシピ通りにやれば、変なことにはならないのだ。
これを機に、ミーシャには料理を極めていって欲しい。
彼女の成長に感銘を受けていると、サリアはスプーンですくった炒飯をこちらに向けてきた。
「私のも食べて」
「わかりました。いただきます」
サリアからスプーンを受け取ろうとすると、彼女は私の手を避けて、こちらの口の前に持ってきた。
「このまま食べて」
これは抵抗するだけ無駄かもしれない。
こぼしたら可哀想なので、そのまま流れに任せることにした。
口にいれると、どこか親しみのある味がする。
これは……。
「私の作ったものとそっくり……」
「そう。時間と分量を完璧に真似た」
天才か?
天才だったわ。
料理において、お手本通りに作ること以上に、美味しく作れることはあまりない。
それ以上の味は料理を知り尽くした人のアレンジか、稀に起こる偶然の産物でしか出せないのだ。
前者はまず無理として、後者は再現性がないから当てにするものじゃない。
ミーシャの炒飯が偶然の産物に近しいけど、同じ味を作るのは難しいだろう。
もう一度作れると期待するのは、あまりおすすめできない。
その点で言えば、サリアの炒飯は完璧だ。
同じように作るだけだから、再現性がある。
「……すごいですね。さすがサリアです」
サリアは、続けていればあっという間に料理を習熟しそう。
問題は、彼女にそのやる気があるかどうかだけど。
まぁ、私に食べて欲しいというモチベーションがある間はやってくれそうだ。
サリアの今後に思いを馳せていると、ミーシャが自分の炒飯をすくって、サリアと同じように差し出してきた。
「私のも、同じように食べていただけませんか?」
あー……これは断ると差をつけたみたいになって面倒臭くなるぞ。
……仕方ない。
一度やってしまったから、断るのはやめよう。
そう思って食べると、今度はサリアが二回目を差し出してきた。
これきっと、あれだな……食べるとまたミーシャが出して来るな。
そんな予感がしながらも、乗るしか道はなく。
口に入れると、案の定、ミーシャが待ち構えていた。
うん。もう二人が飽きるまで付き合うか。
――そう思ったのが運の尽きというか。
結局、全部なくなるまで付き合わされた。
美味しかったけど、もうお腹いっぱい……二人分はきついよ……。
というか、サリアは全然食べてないけど大丈夫なのか?
「サリアはほとんど食べていませんが、大丈夫ですか?」
「これがあるから平気」
そうして取り出したのは、糖分盛り盛りのエネルギーバー。
またそんなジャンクなものを持ち出して……。
「……簡単なものを作りますから、待っていてください」
そうして、余ったベーコンと卵で、簡単オムレツ風のなにかを作る。
ミーシャが羨ましそうな目で見ていたけど、元は言えば、ミーシャが欲張ったせいだからな。
ただ、あまりにも物欲しそうな目で見てくるので、仕方ないからちょっと分けてあげることにした。
こんな日常が永遠に続いたらいいなぁ。
そう思わされるのに充分なくらい、穏やかな時間だった。




