番外編1(中編) 「欲張りは馬鹿を見る」
「どうしてサリア様までいるのですか?」
「何? いちゃいけないの?」
翌日。厨房の一角をお借りして、料理を教えることになったのだけど。
話を聞いたサリアが、黙っているはずもなくて。
こうしてついてきてしまった。
「一人が二人に増えてもあまり変わりませんが、サリアは料理を覚えて、作る機会があるのですか?」
「レイナに食べてもらう」
「そうですか。それは嬉しいですね」
上部では愛想良くお礼を言ったけれど、正直顔がひきつる思いだ。初心者の手料理かぁ。
お腹を壊さないといいけど……。
まぁ、来てしまったものは仕方ない。
ミーシャが少し不機嫌そうではあるが、私が許可している手前、嫌とは言いにくいのだろう。
しぶしぶながらも、受け入れている雰囲気だった。
喧嘩しないことを願っておこう。
まぁ、たぶん大丈夫、なはず。
それに、ライバルがいた方が上達も早いだろうし。
二人に教えるのは大変だろうけど、頑張ろう。
「さて。さっそく作っていきますが、あまり難しいものは挫折するだけなので、簡単なものから始めます」
「そうですわね。あまり難しいものは、まだ作れる気がしませんわ」
「私はできる」
「サリアは料理をしたことがあるのですか?」
「ない。初めて」
一体どこからその自信が来るんだよ……。
ミーシャも無謀だと思っているのか、鼻で笑っているような雰囲気だ。
サリアは自信満々にしているが……初心者にありがちな慢心だろう。
現実を知って諦めないといいけど。
「ま、まぁ、初めてでも、レシピ通りに作れば問題はありません。きっと」
「わかった。レシピ通りに作る」
「今日は何を作るのですか?」
作るものは決めてある。
基本の工程が入っていて、応用が効きそうなもの。
「炒飯をつくります」
「炒飯ですか。食べたことはありませんが……どういう料理なのですか?」
「炒める飯と書きますが、その名の通り、ご飯を具材と一緒に炒める料理です」
「初めて聞く料理」
おかしいなぁ。この世界にも存在している料理なんだけど。
お母さんが作っていたし、名前も一緒だった。
だからきっと、ゲームに登場していたはずだ。
ただ、どこで出ていたかは覚えてないんだよな。
あるからには、誰かが作っていた可能性が高い。
そのルートが、誰のものか分からないのだけど。
でもたしかに、貴族が食べるイメージはあまり湧かないかもしれない。
だからこそ、どこで出ていたのかは気になるな。
まぁ、今は考えても仕方ない。
まずは二人に、どういう料理か見せないと。
「では、私が先にお手本として作りますので、よく見ていてください。レシピはそのあとに教えます」
「承知いたしました」
「わかった。よく見る」
二人の了承も得たところで、早速作っていく。
まずは、具材を細かく切るところからだ。
使うのは、人参と玉ねぎ。それからベーコン。
普通の炒飯なら、人参と玉ねぎはいらない具材ではあるけれど、野菜も取れるし、かさましになる。
なにより、切る工程を多く体験させたいからな。
初めてでみじん切りは少し大変かもしれないが、形を気にする必要がないので、適していると思う。
焼豚じゃなくてベーコンを使うのは、手に入りやすいから。今回は工程を覚えるための料理なので、あまりこだわっても仕方ないし。
究極の炒飯は、マスターした後に各々作ればいい。
今は簡単お手軽が目的なので、こだわりは避けるが吉。
ただ、見ている方には難しそうに映るのか、ミーシャが不安そうに言葉をこぼした。
「そんなに細かく切るのですね。できるか不安ですわ」
「大丈夫です。やったら慣れます。それに、本来の炒飯に、これらの野菜は入らないことが多いので。どうしてもできない場合は、抜いても構いません」
「わかりましたわ。できるだけ頑張ってみます」
ミーシャが意気込んでいると、それを見ていたサリアがふんっと笑った。
「こんなの魔法を使えば一瞬」
「ダメですよ。それじゃあ練習になりませんから」
「えー」
えー、じゃないんだよ。
何のために練習すると思っているんだ。
「料理は過程を覚えないと、他のものに応用が効きませんから。具材が切れていればいいと言うわけでもないのです」
「……わかった」
サリアが納得したところで、次の工程に移る。
卵を割り、用意したご飯に混ぜて、よく絡ませる。
あらかじめ卵と混ぜるのを邪道だと言う人もいるかもしれないが、失敗しにくいし、タイミングに迷う必要がない。
初心者なら、これくらい単純なレシピでいいんだ。あまり難しいと、続けたくなくなっちゃうし。
下ごしらえはこれで終わりなので、あとは炒める作業だ。
まずは油をしき、人参と玉ねぎをフライパンに入れる。
玉ねぎが透明になるまで炒め、ご飯を投入。
絡まった卵が固まってきたら、塩胡椒をしたあと、ベーコンを入れて火を通す。
ここで一度味見。
しょっぱくなりすぎていないようなので、塩胡椒は足さずにこのままで。
ちゃんと火が通ったら、醤油を鍋肌からそそぎ、さっと混ぜて、完成だ。
再度味見をして、きちんとできているか確認してから、二人に振り返る。
「できました。こんな感じの料理です。具材や卵の入れ方などは違う場合もありますので、これが正解というわけではありませんが……私はこのように作ります」
「わかりましたわ。難しそうですが、やってみたいと思います」
「味がわからないと作れない。食べさせて」
サリアが言うことも正論なので、まずは二人に食べてもらうことにした。
「わかりました。食べてもいいですよ」
「ずるいですわ。私もいただきます」
サリアだけに許可したと思ったのか、ミーシャが横から炒飯をすくって、勢いよく取り皿に盛っていく。
そんなに取ったらサリアの分がなくなるよ。
サリアはなにも言わず、ぼーっと眺めている。
何を考えているのかは分からないが、結局、ほとんどの炒飯を持って行かれてしまった。
それでも何も言わないのだけれど……ただ黙っていると言うよりは、呆然としているように見えた。
「おいしいですわ!」
ミーシャが感嘆の声を上げている横で、サリアはお皿にポツンと残っている炒飯の残骸を見つめるのみ。
その姿がなんだか哀愁漂っていて、とてもさみしげだった。
「……大丈夫ですか?」
「とても悲しい……私の炒飯……」
サリアのではなかったけどね?
でも、これはちょっと可哀想だ。
「……もう一回作りますか?」
「……大変だと思うからいい。でも、代わりに、食べさせて欲しい」
「食べさせてって、私がですか?」
「そう。レイナがすくって欲しい」
どこか潤んだような目でこちらを見るサリア。
すくうの意味が、なんだか違う意味に聞こえた。
そうだ。今のサリアを救えるのは私だけ。
そう思ったら、取る行動は一つ。
「わかりました。それで気が済むのなら、してあげます」
そう言った瞬間、ぴたりと、ミーシャの動きが止まった。
信じられないものを見るかのような目でこちらを眺めた後、頬張っていた炒飯を置いてから、サリアに詰め寄った。
「ずるいですわ! 最初からそのつもりだったのでしょう!?」
「なんのこと?」
「とぼけても無駄ですわよ! そうやって同情を誘って、食べさせてもらうつもりだったのでしょう!」
「誰かさんが勝手に食い意地張っただけ」
「っ……でしたら、残りを差し上げます! それなら満足でしょう!?」
「食べかけはやだ……」
それはそう。
というか、もうほとんど残ってないし。
「ミーシャ。あまり意地悪をするものではないですよ」
「ぐぬぬ……」
ぐぬぬとか言う人初めて見た。
食い意地の張ったミーシャは放っておいて、お皿にちょこんと残った炒飯をすくい、サリアの口の前に持っていく。
すると、彼女はぱくりと食いついて、満足そうに咀嚼していた。
「……おいしい」
「それはよかったです」
残った炒飯もすくって、何度もサリアの口に持っていく。
何だか餌付けしてるみたいで楽しいな。
全て食べさせ終えて、お皿を片付けようとすると。
ミーシャが自分の炒飯をすくったスプーンを携え、待ち構えていた。
「……なんですか?」
「私にも同じことをしてください」
「ダメですよ。ミーシャにまでやったら不平等じゃないですか」
「そんな……」
絶望した顔のミーシャに、サリアが追い打ちをかける。
「欲張りは馬鹿を見る」
あんまりな言い草だけど、その通りだ。
結局、ミーシャは残った炒飯を、一人さびしく食べていた。
同情を誘うような雰囲気を漂わせているけれど、意図が透けているので、無視だ無視。
効果がないことが分かったのか、彼女は諦めて完食していた。




