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一人の人間の人生を預かってしまった。

 王城にお呼ばれするのは、これで二回目。

 ミーシャの沙汰を下すためにと、招集された。

 

 私だけではなく、来訪可能な貴族たち全員が、だ。

 遠くの者は免除されているが、代わりに子供が派遣されるらしい。

 なので、王城内で見る顔ぶれは、学園で見知った者もいる。


 つまり、今後も関わりがあるような人たちに、ミーシャの現状が晒されるわけだ。

 これだけでも相当きつい罰になりそうだが、果たしてどういう沙汰が下されるのだろう。


 私も何も知らされていないから、正直ビビってる。

 服装武装はして、ある程度の心構えはできているが、それでも怖いもんは怖い。

 死刑って言われたらどうしよう。冷静でいられる自信がない。自分のことじゃないのに、気が気でなかった。


 ちなみに私が身につけているのは、ミリアルドから送られたドレスだ。前世で言うウェディングドレスに近い、純白のモノ。

 聖女らしくはあるが、目立っている。これを着せたがるとは、なんとかいうか……。

 正直あいつから貰ったってところで吐き気を催しそうなのだが、モノに罪はないからな。

 

 それに、公式にお呼ばれするから、きちんとした格好をしなければならないし。

 サリアから貰った服は上等だけれど、貴族が一同に会する場には、流石にそぐわなかったから。


 仕方なく、これを着るしかなかった。

 ちょっと周りから浮いているような感じもするが、まぁ許容範囲だろう。

 周りにはもっと派手な色使いの人もいるし。

 ダンスパーティーではないけど、これが貴族の嗜みというやつなのかな。


 広い謁見の間に、貴族たちが所狭しと並んでいる。

 サリアを探したがったが、正直そんな雰囲気ではなかった。

 だってパーティーじゃないから。

 国を左右するような、重大な報告ということで集められている。


 浮かれた事ができるような雰囲気ではない。


 多くの人間の中で、ひとり取り残された気分になるが、そんなのは錯覚だ。

 私にも、この世界に居場所はある。

 決して一人じゃない。

 私はここにいていいんだ。


 ミーシャにも、世界へ残る事が許されますように。

 そう強く願うしか、私にはできなかった。


 


 しばらく待っていると、王様が現れ、王座へ座った。

 挨拶やらなにやらしているが、人も多いし、遠くてあまり聞こえない。


 次期聖女とはいえ、元貧民。

 前列に並べるような器じゃないから。かなり後ろの方で、ちんまりいるしかない。

 こういう扱いでも仕方ないけど、ミーシャの沙汰くらいはしっかり聞きたかったなぁ。

 

 と、落胆して端っこで佇む私に、兵士らしき人が声をかけてきた。


「次期聖女のレイナ様はこちらへ来てください」


 それだけ言って、端を伝い、前へと向かう兵士。


 なんだろう。次期聖女とまで名指しされたし、人違いではないんだろうけど。

 なにが起こっているかわからないまま、あれよあれよと前の方へ。


 置いてかれないようについて行ったら、いつのまにか王様の隣に来ていた。


 へ? なんで?


 と思ったのも束の間。

 王様が、厳かな声で周囲に宣した。


「この者こそ、此度の出来事を御した立役者である。次期聖女のレイナだ。このミーシャが起こした不祥事を、命懸けで救った英雄である」


 同時に巻き起こる拍手。


 慌てて周りを見れば、ドレス姿で手錠をつけられたミーシャが、ひざまづいて(こうべ)を垂れていた。


 そうか。もうミーシャの現状について告知されているんだ。

 状況に追いついている間に、王様は話を進めていた。


「ミーシャは、我が息子ミリアルドの婚約者であったが、その身に嫉妬を宿し、次期聖女たるレイナを排さんと、魔族に手を貸した。これは許されざることである」


 おいおい。いくら王様でも事実を盛るのはよくないぞ。

 口出ししようとしたところ、王様から目で制された。


 最後まで聞け、ということらしい。


「本来、魔族に取り憑かれた人間は、聖女によって斃されて来た。しかし、聖女の魔力を、憑依された者に分け与えるという方法で、レイナは見事ミーシャを救った。これは賞賛すべきことではあるが、今までにない事例であるため、ミーシャの扱いを考えあぐねる状況となっている」


 あ、そこまで言うんだ。

 元に戻した方法を広めたら、魔族に対策されない?

 でもあれか。どうせ後世に伝える過程で分かるのか。


 事情説明に納得していると、王様はさらに続けた。


「魔族から生き残ったことで、どのような影響があるかは未知である。当初は、人体実験ののち、死刑を予定していた。しかし、次期聖女が命をかけて守った者に不当な扱いをするのはどうかという上奏があり、これを聞き入れることにした」


 お。ミリアルドのやつはちゃんと仕事したのか。

 ちょっと見直した。

 もう口を聞かないつもりだったけど、話してやるくらいはいいか。


 それよりも、ミーシャの処遇だ。

 一言一句聞き逃すまいと、耳を澄ませる。


 一拍置かれた後、それは告げられた。


「よって、ミーシャ・クラリネ・ラ・アリアンハートを廃嫡とし、今この時を持って、奴隷の身分とする」


 奴隷、か。

 重罪人の落とし所としてはそうなるのか。

 せめて良い人の元に行けるといいけど。

 下卑たオヤジに飼われるとかなったら、目も当てられないからな。


 ミーシャの今後に思いを馳せていると、王様が一瞬こちらを見て、にやりと笑った気がした。


 なんだ? と思ったのも束の間。

 次に耳に入って来た言葉は。


「以後、ミーシャは次期聖女レイナの奴隷として、生涯を尽くすことになる。なにか意見がある者はいるか?」


 へ? 私? そんなの初耳なんだが?

 驚いてポカンとしていると、王様は満足げにこちらを見た。


 その間も、謁見の間は、しん、と静まり返っている。

 どうやら反対する者はいないらしい。

 

 よかった、とか、なんで私、とか色々ごちゃまぜになっていると、王様が近づいて来て、肩を叩いて来た。

 

「反対する者がいない為、ミーシャはそなたの所有物となる。きちんと監督せよ。今後ミーシャのことでなにかあれば、そなたの責任である」


 うおぉ……助かってよかったけれど、責任が重い。

 

 推しだった人が、私の所有物。


 前だったら喜んでいたかもしれないが、今はそんな気にもなれない。


 一人の人間の人生を預かってしまった。

 その重圧が、のしかかるのみである。

 

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