「ミーシャ様が死刑!?」
ミーシャを介抱していると、こちらに近づく影があった。
「……なぜ研究室にいない? かなり探したんだぞ」
ミリアルドだ。
そうだった。嘘ついて放置してたんだ。
ちゃんと説明したら許してくれないかなぁ。
「サリアさん曰く、ミーシャ様を救うための時間稼ぎだったそうです。結果的に、こうして救う事ができました。どうかお目溢しいただけませんか?」
私が弁明すると、許すとか許さないとか、そういう次元ではない言葉が返ってきた。
「せっかく助けてくれたところ悪いが、恐らくミーシャは死刑になるだろう。だから、助けたことにあまり意味はないのだ」
「ミーシャ様が死刑!?」
なんでそうなる!?
驚きすぎてミリアルドに詰め寄ると、彼は体をのけぞさらせながら、遠慮がちに言った。
「いや、確定というわけではないが……そうなる可能性が高いだろうという話だ」
「なぜそうなるか、というのを聞いているのです!」
「魔族に取り憑かれたものは、これまで殺すしか対処法がなかった。新たな前例ができたことは喜ばしいが、生かしておくことでどのような悪影響があるかもわからない。まだ魔族が中にいるかもしれないし、しばらく研究に使ってから殺してしまう、というのが得策になってしまうのだ」
それじゃあ何のために救ったのか分からないじゃないか!
ミーシャはどう思っているのかと様子をうかがえば、既に諦めたような表情をしている。
助かったのは嬉しいが、それはそれとして、その沙汰も受け入れているような。そんな面持ちだった。
なんとかして助けたのに、結局死ぬだと?
……そんなこと絶対に許さないぞ。
「責任者は誰です?」
「責任者とは……?」
「ミーシャ様の行く末を決定するのは、誰かと聞いているのです」
「父上だが……」
ミリアルドの父上というと、現国王か。
なるほど。
「直談判しに行きます! 機会を作ってください!」
「待て待て! 次期聖女とはいえ、さすがにそれは難しいぞ」
「ミーシャ様を救ったのは私です! 研究して様子見したいなら、私に話を通してからにしてください! 死刑にするなら許可はしませんけどね!」
こちらが強気に出ると、ミリアルドは呆れたように承諾してきた。
「わかったわかった。父上には俺から伝えておく。なんとかできる保証はないが、やらないよりかはマシだろう」
おい! お前の婚約者だろうが!
なんでそんなにやる気なさそうなんだよ!
「ミーシャ様はあなたの未来の妻だった方でしょう? なぜそんなにも意欲がないのですか!」
気の抜けたミリアルドに問うと、やつはとんでもないことを言った。
「このようなことがあった以上、ミーシャは私の婚約者ではなくなる。力がこもらないのも仕方ないというものだろう」
は? もう妻にならないからどうでもいいってこと?
かぁっー!
一瞬でもこいつに惚れそうになっていた自分を殺したい!
なんだこのクソ最低なやつ!
「っ……自分と関わりがなくなるから死んでも構わないってことですか!?」
「そこまでは言っていないだろう。もちろん、生きているにこしたことはない」
本当にクズ!
ミーシャの代わりに求婚されても絶対受けないからな!
だって何かあったら簡単に捨てられそうだもん。
普通に男としてサイテーだ。
もう、こいつと一緒に行動したくない。
心底怖気がする。
前世で女性が生理的に無理って言葉を使っていて、どういう感覚なのかわからなかったが、今分かった。
もう一秒たりともこいつと話していたくない。
そんな感情だ。
王子だからそういう訳にもいかないんだけどさ。
ここで彼に臍を曲げられると、ミーシャの死亡が濃厚になるし。
ゴマをするしかない自分が憎い。
「……頼みますよ、本当に。私が命をかけて救ったのです。それを無碍にされたら、この国に対する愛想もつきてしまいます」
あーあ。許されるなら皆を連れて国外に逃げたい。
こんなのが王子とかこの国終わってる。
……いや、まぁ、考えようによっては損切りができる有能なのかもしれんがな。あまりにも情がなさすぎる。
無理。
一応、ちゃんとやらないとこの国見限るかもよって脅しはかけたけど。
聖女見習いでしかない私の発言が、どこまで有効なのか。
「わかった。きちんと上奏はしておく。が、あまり期待はしすぎるな。望みすぎると、叶わなかった時に辛いからな。それで機嫌を悪くされても困る」
まぁ、言葉自体はその通りなんだけどさ。
誰が言うかでムカつく度合いって変わるよね。
こいつが王子じゃなかったらぶん殴っていたかもしれない。
でも、ここで飲み込めないほど、私も幼稚じゃないから。気持ちを抑え込んで、上辺でへりくだった。
「わかりました。ミーシャ様のこと、よろしくお願いいたします」
せめて死刑は回避してくれよ。
お前に期待できるのはもうそれくらいしか残っていないんだからな。




