「絶対に、あなたを悪役なんかにはさせない!」
ひときわ強い光が閃き、闇が晴れる。
私は目を瞑りながら、サリアを信じて、ひたすら前進した。
闇が私に向かってくるけれど、サリアの防御魔法に防がれて、すぐに光で浄化される。
更に、私の後ろからありったけの攻撃が展開された。
到底一人では出力できないような量の魔法。
きっと、持って来た魔道具を使っているのだろう。
魔族は防戦一方になって、攻撃が緩んだ。
サリアの援護がとても心強い。
これなら、いける。
前へ。前へ。ただ前へ。
防御はサリアに任せて、進むのみ。
そうしてようやく、魔族を触れる距離に来た。
「そこっ!」
闇を飛ばすのにこちらへ向けている右手を、がっしりと掴む。
そして、以前サリアにやった要領で、魔力を流し込んだ。
魔力を流したことによって、当然、相手の魔力が増幅する。
吹き荒れる闇の奔流。
その勢いに負けて、手を離してしまった。
吹き飛ばされて、尻餅をつく。
そこに、大量の闇が向かってくる。
直感的に、これはやばいと思った。
奥が見えないほどの漆黒の闇。
サリアが防御魔法で防いでくれたが、拮抗して、ヒビが入る。
その頃には、体勢を立て直して移動済みだ。
直後に到来する、防御壁を貫通した闇。
防いでくれた数秒で、命を救われた。
けれど、これはまずい。中途半端に魔力を注いでしまった為、強化してしまったようだ。
「あははっ! 少しピリピリするけど、最高の気分! 今ならなんでもできそう!」
高笑いした魔族が、闇に包まれる。
何か来る、と構えたが、何も来なかった。
私の方には。
ドン! と音がして、何かが割れる音が響いた。
そちらに振り向くと、きりもみしながらサリアが吹き飛んでいる。
一、二、三回と地面に叩きつけられ、着ているドレスをぼろぼろにしながらバウンドしていく。
魔族は蹴り終えたような姿勢をとり、サリアがいた場所の近くに佇んでいた。
蹴られただけでこの威力。
しかも、サリアは防御魔法を使っていたはずだ。
防御してこれなのだ。
私が素で食らったらひとたまりもない。
想像するとぞっとするが、それよりも今はサリアが心配だ。
「サリア!」
慌てて彼女の方に駆け寄ろうとすると、振り絞るような声が聞こえて来た。
「こっちじゃない……! あっち……!」
なるべく大声を出そうとしている、苦しそうな呻き声。
きっと喋るのも辛いのだろう。
それでも、サリアはこちらに来るなと伝えている。
彼女の元に行くとターゲットがまとまって狙われやすくなるし、魔族との距離も遠くなりそうだ。
戻るより、進め、か。
なら、魔族がサリアに気を取られている今のうちに、限界まで距離を稼ぐ!
震える足に鞭を打ちながら、再び前進した。
足を捻っているから痛みも走るが、そんなものに構っていられない。
一瞬の痛みに躊躇していては、最悪死ぬからだ。
サリアにトドメを刺そうとしていた魔族がこちらに気がつき、ダーゲットを変えて来る。
迫り来る闇は、あきらかに威力を増していて。
先ほどのような無鉄砲な前進は自殺行為だろう。
サリアの防御に期待せず、横に回避した。
更に迫ってくる闇の玉を、飛んだり、転がったり、様々な方法で避けて、徐々に距離を詰めていく。
幼い頃に男子と混じって山遊びしていた女を舐めるなよ。こちとらアクロバティックな動きは経験済みだ。
迫り来る玉を、嘲笑うように避けてやる。
これなら、いける。
そう思った次の瞬間。
魔族が吠えた。
「あぁ! うっとおしい! これで死になさい!」
壁のような闇が、私の方へ向かってくる。
逃げ場は、ない。
下にしか。
寝そべる隙間があったので、地面に思い切り伏せて、やり過ごす。
ただ、胸が邪魔で頭が高くなり、冠状に編んでいた髪の毛に闇が掠って解けた。
けれど、今はそんなこと気にしていられない。
視界に入る金髪を無視しながら、闇が過ぎさった瞬間に立ち上がって、前へ行く。
が、今度は地面を抉りながら、面の闇が迫って来た。
絶対に仕留めるという意志を感じる。
これは、無理……。
諦めそうになったその時――。
「使って!」
耳に響く、サリアの声。
目の前に、色のついた板が何枚も浮いていた。
これを台にして移動しろってことね!
ありがたく使わせて貰い、上へ、上へと登っていく。
最後の板を踏んだ瞬間、真下を闇が通り過ぎていった。
ほっとしているのも束の間。
下から闇の玉が飛んでくる。
それを予期していたかのように、目の前には何枚もの色付きの板があった。
それらを駆使ながら、空中ステップ。
落ちたら終わりだけど、向こうも狙いをつけづらいようだ。
一気に距離を詰めることができ、あっという間に魔族の真上まで来た。
詳しい指示を出す時間も惜しかった私は、ただ一言、叫んだ。
「サリア!」
サリアを信じて、そのまま寝転がるように飛び降りる。
その意図が伝わったのか、斜めになった板で落下速度を緩めてくれて、ちょうど魔族に覆い被さる態勢になった。
先ほどと違い全身の魔力供給だからか、魔族は苦しそうに叫んだ。
「ああぁぁぁ! クソ聖女があぁぁ!」
効いてる。
これならミーシャを取り戻せる!
今度こそ離すまいとしっかり抱きしめ、魔族の中にいるであろうミーシャに呼びかける。
「絶対に、あなたを悪役なんかにはさせない!」
ありったけの魔力を注ぎ込んでいるからか、魔族はかなり苦しそうにうめいた。
振り解こうと暴れてくるが、力無い攻撃は、サリアが防いでくれている。
――いける。
そう確信した時、魔族は私の首元に手を置き、最後の力を振り絞るように叫んだ。
「死なば諸共よ! あんたも死になさい!」
文字通り、最後だったのだろう。
ゼロ距離で放たれた闇は、サリアの防御が入る隙間もなく、とてつもない衝撃を与えて来た。
しっかりとミーシャの身体を抱きしめていたはずなのに、なぜか彼女が遠くにいる。
吹き飛ばされたと気がついたのは、サリアの顔が逆さに見えたからだ。
天地が逆転している。
ぼーっとそんなことを考えているうちに、意識が飛んだ。
その間際、なにかがきらきらと光りながら舞っているような気がした。




