「よし、いこう!」
しばらく闇にさらされるも、サリアの防御魔法のおかげで無傷のまま。
さっきは気にしていられなかったけど、よく見ると空中に魔法陣が一瞬で書き込まれている。
魔力で瞬間的に書き込んでるのかなあ?
さすが天才と言うべきか。
ミリアルドも構築が早かったと思うけど、速度も効果も段違いだ。
サリアの防御魔法は、何度攻撃されても全然壊れない。
そうしているうちに、まるで飽きたとでも言うかのように、サリアは光を発する魔法を使った。
先ほどと同じように闇が晴れると、魔族は開口一番文句を言って来た。
「ワンパターンって、あんたが何かしたわけじゃないでしょ!」
あー、まぁそうだけど。
ここで肯定してもいいんだが……きっとサリアが煽ってるのも意味があるんだよな。
なら、ここは私も乗るべきだ。
「サリアの力は私の力、私の力はサリアの力です! だからあなたなんか怖くありません! 悔しかったらこの防御を突破してみなさい!」
「だからあんたがやってるわけじゃないでしょ! 殺すわよ!」
「最初から殺すつもりでしょうに。どうせやるつもりのことを改めて言うって恥ずかしくないですかー?」
「……どうやら死にたがりしかいないみたいね。安心なさい。苦痛に包んであの世に送ってあげるわ」
いい感じにあったまっている。
少し楽しい。
成果を出せて満足していると、サリアが遠慮がちに申告して来た。
「煽っているところ悪いけど、これ以上出力があがると防げない」
「え、嘘だよね?」
「……」
ちょ、無言はやめてよ! こわいよ!
「なにか言って!」
切羽詰まって迫っても、無視される。
サリアの言葉を信じたのか、魔族は嬉々として更に出力のあがった闇を打ち出してきた。
さすがに死んだ?
そう思ったけれど。
私はまだ生きていて。
またもや同じパターンで闇が晴れると、サリアは満足げに言った。
「うん。冗談。あんな雑魚には負けない」
この……! なんで私まで騙す必要があるのさ!
本当に死ぬかと思ってびっくりしたじゃないか!
私はサリアありきじゃないと何もできないんだからね!?
魔族は頭に血がのぼったのか、力技で私たちを殺そうと必死だ。
闇は一層濃くなり、光で照らしてもすぐ飲み込まれるようになった。
死にはしないのかもだけど、でられない。
攻撃が激しすぎて音が聞こえずらく、外の状況も分からなかった。
できることもないので、サリアに問う。
「……で。散々怒らせて攻撃させてるけど、なにか意図があるんだよね?」
「もちろん。こうして怒らせて、魔力を枯渇させようとしてる」
「枯渇するとどうなるの?」
「普通なら元の身体が死ぬ」
こら! 今は何のために頑張ってるのさ!
「ちょっと! それなら王子を遠ざけた意味ないよ!」
「言ったでしょ。普通なら、って。今はあなたがいる」
「私が……?」
私は次期聖女だけど、できることなんて何もない。
せいぜい、ゲーム知識を利用して考えるくらいしかないと思っていた。
けれど、サリアの意見は違うようで。
「あなたには、生き餌になって貰う」
「生き餌って……?」
「私の見立てでは、聖女が魔族に対抗できる理由は、魔力の質にあると思う。魔族は基本的に思念体で、人に憑依して実世界に影響を与えてくる」
「そうなんだ。魔族って言うから、そういう種の人間みたいな何かがいると思ってた」
「ううん。基本は寄生虫。憑依先を普通に殺すと、魔族は分離してまた依代を探しに行くけど、聖女が殺すとそのまま消滅するの」
へー。魔族って自分じゃ姿を保てないんだ。
じゃあ、ゲームに出てた魔族も、誰かが乗っ取られた姿ってことだったのかな。
「それで? 私は攻撃手段ないけど、どうするの? 前みたいにサリアに魔力供給して、それで攻撃する?」
言ってから気がついたけど、それだと普通にミーシャが傷つきそうだ。
サリアもそれは分かっているみたいで。
「それだと身体が傷つく。それはレイナの本意じゃない。そうでしょ?」
「うん。でも、それならどうするの?」
「供給先を、私じゃなくて、魔族にする」
「……魔族に? それやったら、パワーアップしない?」
枯渇させたのに、魔力を渡すなんて変だ。
でもそれは、凡人の発想だったようだ。
「あなたの魔力の質は良い。本来なら、極上の餌でしかない。けれど、魔族にとっては毒になるはず。そこで、魔力が枯渇しているあいつに、ありたっけを流してやる。そうしたら、聖女の魔力が身体に残って、魔族だけ殺すことができるかも」
こいつ天才か? 天才だったわ。
それが本当に成功するなら、さっきはチャンスを逃したのかもね。
「サリアが来る前、魔族にミーシャと交換で、身体の自由を明け渡すように言われたんだけど。もしかして、私が身体を魔族に渡してたら、魔族は死んだ……?」
「その可能性は高い。前例がないから、向こうも知らないんだと思う。今更取引を持ちかけるのは、たぶん怪しまれる」
そうか。我ながら良い案かと思ったんだけどな。
「そう。他に方法はないわけね?」
「危険だけど、これしかないかも。どう? やれる?」
「当然! これでできなきゃ私が生きている意味なんてない!」
「それは言い過ぎ。何もできなくても、そのままのあなたが私は好き」
よせやい。照れるじゃないか。
でも、正直言うと怖い。
サリアが守ってくれるだろうけど、あいつに触わりに行くってことだから。
失敗したら、本当に死ぬだろう。
けれど、これをやればミーシャは助かるかもしれない。
なら、やるしかないんだろう。
覚悟を決めるために、サリアを抱きしめて、勇気を貰う。
すると、サリアも抱きしめ返して来た。
その身体が小刻みに震えているのは、きっとサリアも怖いからだと思う。
飄々としているけれど、やっぱり死の危険に晒されたらビビるよね。
それでも私を手伝ってくれるのだから、本当にサリア様様だ。
彼女には、返しきれない恩がある。
それに報いるためにも、ここで死んでなんかいられない。
絶対に成功させる!
サリアの身体をゆっくり離し、彼女に向かって宣言した。
「よし、いこう!」




