「あなたって、さいっこう!」
ミリアルドに空気をぶち壊されたけれど、いつまでものんびりはできないから、ちょうど良かった。
だが、サリアは少し不服そうで。
少しぶっきらぼうに返答していた。
「ダンスが終わってレイナを探していたら、会場にいなかったため、人探しの魔法を使いました。現場に行ったらあの状況だったので、転移魔法で時間稼ぎしてます。これで次の策が立てやすいはずです」
なるほど。わかりやすくありがとう。
慣れない会話をよく頑張ったね。
労りの意味を込めて頭を撫でてやると、サリアは気持ちよさそうに目を細めた。
状況にそぐわないけれど、なんだか微笑ましい。
居づらい雰囲気だったのか、ミリアルドは立ち上がりながら、今後の方策を述べた。
「俺は訓練場へ向かい、剣を取ってくる。魔族は放置できないからな。確実に仕留めるために、準備をしなければ」
……やはり、ミーシャは殺さねばならないのだろうか?
いや。先ほど決めたはずだ。
尽くせるだけ尽くそう、と。
例え結果が出なくとも関係ない。
やることそのものが大事なんだ。
「私は、ミーシャ様を諦めたくないです。見捨てるにしても、やれることをしてからがいいです」
「……やれることなんてないと思うがな。それは歴史が証明している。歴代聖女でも無理だったのだ。まだ聖女にすらなっていない君にできるはずがないだろう」
歴史がなんだ。歴代聖女がどうした。
私が初めての事例になるんだと思うくらいの気持ちでやってやる。
そのためなら、捨て去りたいゲームの知識も活用するんだ。
「私は一人じゃありません。天才のサリアさんがついていますから。きっと、方法を見つけてみせます」
私の熱意が伝わったのか、はたまた説得が面倒だったのか。
ミリアルドは諦めたように言葉を返して来た。
「……わかった。好きにしろ。どちらにせよ、俺が戦うには剣が必要だからな。一度別行動になる」
「わかりました。お気をつけて」
ミリアルドは扉に手をかけたところで、こちらを振り返って聞いて来た。
「剣を回収したらお前たちと合流したいが、人探しできる魔道具はないか?」
その問いに、サリアが答える。
「ここで待っているから大丈夫です。魔族も私に仕返しするのにやってくるはず。去り際に追加ダメージを加えておいたので」
「……ある程度広いとはいえ、室内で迎え撃つのか?」
「ここには便利な魔道具が沢山あるので。こちらの方が戦いやすいです」
「……そうか。わかった。なるべく早く戻ってくるが、戦闘に間に合わなかったら済まない」
「大丈夫です。ご心配なく」
「お互い全力を尽くそう。健闘を祈る」
そう言って、ミリアルドは外へ出て行った。
それから一拍置いて。
サリアはいそいそと動き出し、魔道具を手当たり次第にひっつかんで、大きな袋に入れ始めた。
ここで使うのに、なんで袋に詰めるんだろう。
どこにあるか分からなくなって使いづらくなりそうなのに。
そんなことを思っていたら、袋に魔道具をぱんぱんに詰めたサリアが、扉に向かいながら、声掛けして来た。
「ほら、行こう。もたもたしてたら魔族が来る」
「え。ここで迎え撃つんじゃないんですか? ミリアルド様が合流できなくなってしまいますけど」
「しなくていい。王子はレイナが守りたい人を殺そうとしている。絶対ややこしい事になるから、時間稼ぎで嘘をついた」
嘘? 王族相手に?
しかも魔族絡みのことで?
下手したら反逆罪で殺されるかもしれないのに、この度胸。
「あなたって、さいっこう!」
「それほどでもある」
思わず口調が崩れたけど、もうサリアには気を遣わなくていいのかも。聖女らしくとか、正直疲れるし。サリアが呼び捨てしてくれているし、私もそうしよう。
彼女とは、気のおけない友達になりたい。
その第一歩として。
サリアにかけよって、手を掲げた。
何も言わずともやりたいことが伝わったのか、ハイタッチをしてくれる。
ぱんっ、と気持ちのいい音が響く。
その余韻が残っているうちに、私たちは部屋を出た。
危険な道へ足を突っ込んだ。
もう、他には誰も助けてくれない。
だけど、サリアと二人ならきっと乗り越えられる。
そんな確信があった。
訓練場とは反対の方向へ、ひたすら走る。
なるべくミリアルドに見つかりにくいように。
やがて開けた場所に辿り着くと、サリアは袋を漁り、綺麗な小石を取り出した。
なんだか前に見たことがある石だけれど……。
「それは?」
「レイナの魔力が詰まった魔石。これを、こう」
言うが早いか、サリアは石を地面に叩きつけて、ダメ押しとばかりに足裏で踏み砕いた。
「え、もったいない……」
「少し離れて。あと、周囲を警戒」
「……サリアがそう言うなら」
彼女と一緒に、魔石が砕かれた場所から遠ざかる。
すると、魔石の側に闇が集まり、そこからミーシャの身体が現れた。
魔石の欠片があった場所に、激しい闇の殴打が繰り出される。
地面がえぐれ、弾け飛ぶ。
ひっ。あそこに居たら、歪な彫刻みたいに削り殺されてたな……。
そんなことを考えていると、ようやく空虚を殴っていることに気づいた魔族が、不思議そうに言った。
「あらぁ? たしかに聖女の魔力を感じたのだけれど……なんでそっちにいるのかしらぁ?」
「見え見えの罠にハマるまぬけ。魔族も大したことない」
サリア煽りすぎでは?
ほら、明らかに怒ってるよ。
「あはぁ……あんたは死を懇願するくらい苦しめながら殺してあげるわぁ」
「誰かの身体を借りないと顕現できないよわよわ種族にそんなこと言われても……」
「っ……ぶっ殺してやる!」
あーあ。ブチギレちゃった。
ヨユウのヨの字も消え失せた魔族が、先ほどまでとは比にならない量と濃さの闇を、こちらに向かわせて来た。
「あのー、サリアさん?? これ本当に大丈夫?」
「平気。私を誰だと思ってるの」
信じてはいるけどさあ。
一応私たち、まだ入学したてだからね。
将来的には天才の名を欲しいがままにするのだろうけど、今はちょっと不安が残る。
そんな風に心配しているうちに、闇が私たちを覆った。けれど、私たちの周りだけ、切り取られたように無事だ。
あ。これさっきも見た。
繰り返しは良くないんだぞ。
「……ワンパターンな魔族ですね」
ブチィっと、聞こえないはずの音が聞こえた気がして、闇の出力が上がった。




