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「こういう時は、笑顔でありがとう。でしょ?」

短期間連続七話投稿:七話目

連続投稿終了

次回より通常投稿に戻ります

 闇の壁に飲み込まれた。

 そのはずなのに、私たちの周りだけ、四角く切り取られたように闇が堰き止められている。


 次の瞬間、眩いほどの光が炸裂した。


 目を開けていられなくて、ぎゅっと瞑る。


 薄く開きかけた瞼の隙間から見えたのは、腕で目を覆う魔族の姿だった。

 こちらも向こうも動きが停止している。

 これをやったのは、どうやら魔族ではないらしい。


 いつのまにか闇は晴れていて、誰かが私たちの身体を触った感触がした。

 

 次いで、ふわりと身体が浮くような感覚。

 不思議な浮遊感に包まれていると、景色が変わった雰囲気があった。


 ようやく目が開くようになった時、そこは室内で。

 最近見た覚えのある景色が、目の前に広がっていた。

 そこは、サリアの研究室だった。


 私の身体に触れていた彼女が、安堵したように口を開く。


「よかった。間に合ったみたい」

「サリアさん……? どうして?」


 どうして来たの。どうして助けてくれたの。どうしてこの場所に移動しているの。

 聞きたいことがいくつもあって、それらがない混ぜになった疑問が口から出る。


 そして、サリアは一言でまとめて返して来た。


「友達だから」


 友達、か……。

 なんでその言葉一つで、彼女はこんなに尽くせるんだろう。

 尽くされた分だけ尽くし返そうと思ってはいるけれど。

 そもそも彼女が私に尽くす理由が分からない。


 ゲームの彼女は、友情エンドなら私を監禁するほど愛するものの、こんなに献身的ではなかった。

 もっと支配欲のような、自分のモノにしたいという目的で行動していたはずだ。

 自分から離れてしまうのが嫌だから、縛り付ける。

 彼女はそんなキャラクターだった。


 それなのに、今は私の為を思って、友達だからという理由で助けてくれる。

 それが眩しくて、分からなくて。

 

 ……私も、ミーシャの為にと行動したはずだけれど、彼女の為になるどころか、逆に苦しめることになった。

 彼女を私の側に置きたくて。なんとか近づこうとして。嫌われて。

 独りよがりの、独善的な愛。


 挙げ句の果てに、彼女が好いているはずのミリアルドになびきかける。


 そして、ミーシャが魔族に乗っ取られるきっかけを作った。

 

 彼女を不幸にした分、ゲームのサリアよりタチが悪い。


 良くしよう、仲良くしようと思っていたのに、行動が空回りしてばかりだ。

 

 ミーシャが推しだと言ってはいるが、結局彼女の為になれなかった。

 それどころか、迷惑にしかなっていない。


 これ以上ミーシャの為に行動するなんて、私にはできない。また迷惑をかけてしまいそうだから。

 もう心が折れてしまったのもある。


 純粋に私の為を思って行動できるサリアが、羨ましくてたまらなかった。

 

 こんなの八つ当たりみたいなものだと分かっているけれど。

 それでも、口にせずにはいられない。

 

「なんでそんなに献身的になれるんですか? 私はこんなにも、何もできていないのに……何も返ってこないのに、なんでそんなに頑張れるんですか……?」


――私はもう頑張れる気がしないのに。

 言い訳を自分に言い聞かせるように、地面に向かって言葉をこぼす。

 だが、サリアはそれが気に入らなかったのか、私の襟元に掴み掛かかって来た。

 純朴な光を携えた彼女の瞳と、視線が交錯する。


「言いたいことは分からないでもない。私も同じ立場だったら不思議に思う。だけど、どこを見て言ってるの?」

「どこって、別にどこでもいいじゃないですか。そんなに怒らなくてもいいでしょう?」


 急に掴み掛かられたことに不満を言うと、サリアは毅然な態度で返して来た。


「ちゃんと私を見て言いなよ。人の目を見て言えないことなの? だったら最初から言わないで。助けになれていないなんて、関係ない。どれだけその人のことを思って行動したかが大事。私には、あなたの気持ちがきちんと伝わっている。それをあなたが否定しないで」


 どこか、私の意図とは外れている言葉たち。

 サリアと話しているのだから、ミーシャのことを考えながら話した私と食い違うのは当然だ。

 だけど、その言葉がすごく心に響いた。


 なんで忘れていたのだろう。


 この世界はゲームを元にした世界であっても、ゲームそのものではない。


 私は私として生きていて、他の人たちもそうだ。

 何の因果かゲームと酷似した生い立ちをしていたけれど、今は全くゲームと違う展開になっている。


 それは各々が考えて行動したからだ。


 サリアはサリアなり考えて、ミーシャはミーシャなりに苦悩する。

 その結果が、今この状況に繋がった。


 現実だから、こんな風に未来が変わる。

 私は今まで、何を見ていたんだろう。


 ゲームの情報ばっかり気にして、現実感が薄れていた。

 

『ちゃんと私を見て言いなよ』、か。

 本当に、その通りだ。


 監禁されるから近づかない? 推しだから近づきたい?

 

 ゲームのサリアしか、ゲームのミーシャしか、見ていなかった。

 いつも、推しだとか、ゲームキャラだとか。

 そんな言葉で括って、実際の彼女たちに目を向けていなかった。

 

 だからミーシャを失いかけてしまうし、サリアを怒らせてしまう。


 ゲームの世界だと思って、疎外感を覚えて。

 勝手にゲーム感覚で攻略した気になって。

 それで、上手くいかないからって孤独なんだと錯覚して。

 

 どうして私は、ミリアルドに告白された時、世界でひとりぼっちだなんて思ったんだろう。

 こんなに大事に思ってくれる人が側にいたのに。


 なんだかすごく申し訳なくなって、勢いで謝った。


「ごめんなさい、サリアさん。私が間違っていました。そうですよね……ちゃんと相手を見ていうべきですよね」


 いくら謝っても謝り足りないけど。

 ようやくサリアを一人の人間だと思えて。

 それを見透かしたのかは知らないが、サリアは私の頬を両手で掴むと、横に伸ばしながら言った。


「こういう時は、笑顔でありがとう。でしょ?」


『人に助けて貰ったら、ありがとう』

 ……私が最初に教えたこと、ちゃんと覚えていたんだ。

 もう忘れていると思っていた。

 正直、笑っていられる状況ではないけれど。

 サリアの手を外しながら、精一杯の笑顔を作って、感謝の言葉を述べた。


「……そうでしたね。ありがとうございます」


 尽くせるだけ尽くそう。例え、何も返ってこなかったとしても。

 サリアに。そして、ミーシャにも。

 ゲームキャラや、推しという色眼鏡が外れても、彼女たちが私にしてくれた事は本物だから。

 

「ん。どういたしまして」


 私が笑顔でお礼を告げると、サリアも微笑みながら言葉を返して来た。

 やはり、彼女の笑顔は愛らしい。

 いつか写真におさめたい可愛さだ。

 緊急事態なのだけれど、場違いにもそんなことを思ってしまう。

 

 二人で和んでいると、ミリアルドが気まずそうに会話に入って来た。


「通じ合っているところ悪いが、俺にも分かるように状況を説明してくれ」

 

 あ。ミリアルドのことを忘れてた。

 ごめん。王子なのに。



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