私は、レイナさんが思うほど強くなんてない……(ミーシャ)
短期間連続七話投稿:二話目
八時十分に七話目投稿予定
レイナさんと別れた私は、急いで自室に向かいました。
失せ物探しの魔法なんて使われたら、彼女のドレスが見つかってしまいますから。
なんとかして、対応をしないと。
本当は、あの場で言えたらよかったのですが……学園長の前でとなると、大事になるのは必至。
私がやってないといっても、信じてもらえるかはわからなかったものですから、こうして保守的な行動に出てしまいました。
こうなってしまえば、私の中にいる邪悪な存在も、喜ぶばかり。
『あははっ。あなたはそういう選択をするのね? いいわ。もっと楽しませてちょうだい!』
「楽しませるつもりなんてありませんわ。あのドレスは、レイナさんの自室に置いてきます。そうすれば、誰かが見つけてくれたと思ってくれるでしょうから」
『わぁ。下手な工作ねぇ。ドレスを持ったままうろついて、見つかるとか考えないのかしら?』
「そもそも、あなたが盗んだからいけないのでしょう!? 私だってこんなことしたくないですわよ!」
小さな声で、怒気を孕ませながら呟く。
その様子がおかしいのか、私の中にいる存在は、せせら笑うように煽ってきました。
『やーん。コソ泥令嬢が怒ったわぁ』
私の冷静さを欠くために、耳障りなことを言っているのは分かっていますわ。
ここは、乗らないことが最善。
なにを言われたって、今更状況が変わるわけでもありませんから。無視が一番いいのですわ。
……そう分かっていても、気に触るのは変わりません。
罵りたくなる気持ちをなんとかこらえながら、自室に急ぎました。
部屋にモノがあるのですから、私が盗んだ犯人という状況証拠は揃ってしまっています。
顔は見られなかったようですが、身体の自由を奪われて、盗みを働いてしまったのも事実。
自分の意思ではないとはいえ、レイナさんを困らせているのは私です。
このままでは、彼女の期待を裏切ってしまうのは間違いない。
別に彼女が大事なわけではありませんが、ミリアルド様からの信用もございます。レイナさんが悲しめば、私に対して何かの沙汰を下すことも考えられますから、なんとしてでも、魔法を使われる前に対応しないと。
はしたなくも走っていたからか、自室にはすぐにたどり着きました。
ドレスで大変走りにくく、着こなしも乱れてしまいましたが、今はそんなこと気にしていられません。
扱いに困っていたドレスを持って、レイナさんの部屋に向かおう……としたところで、身体が動かなくなりました。
「っ……なんで身体が!」
『今は私が憑依してるのよー? 好きにさせるわけがないじゃない』
こいつはまた、私の身体を勝手に乗っ取って!
くっ……このままだと場所が割れて、私が疑われてしまいますわ。
「なぜ邪魔をするのですか!? 私を犯人に仕立て上げて、何がしたいのです!」
『別にー? あなたを犯人にしたいわけじゃなくて、あなたが動揺するところが見たいのよ。もう満足したから、疑いを晴らすのを手伝ってあげてもいいわよ?」
邪魔をしておいて、手伝うですって……?
「このっ……! どこまで私をおちょくれば気が済むのです!」
『いいのかしら、そんなこと言って。あんまり反抗的だと、このままドレスを破っちゃうわよ?』
そんなことをされたら、罪が深まってしまいます。
ここは、彼女のいいなりになるしかないのかもしれません。
本当はたまらなく嫌ですが……自分で打開策が浮かばないのも事実。
私がもっと強ければ、他にも選択肢はあったはずなのに。
不甲斐ないですが、従う以外の方法は思いつきませんでした。
「……わかりました。疑いを晴らすのを手伝ってくださいませ」
『案外簡単に堕ちるわねぇ。いいわ、貸しひとつよ』
こんな存在に、貸しひとつ。
今更ながら、良くないことをしたという実感が湧いてきます。
……レイナさんの予知夢の中の私なら、ここで断れていたのでしょうか?
現実では、こんなに情けなく、状況に流される女で。
気高く、折れず、挫けないなんて、今の私には到底無理な話です。
私は、レイナさんが思うほど強くなんてない……。
ただの、卑しい、自分が可愛いだけの小娘。
だから、邪悪な存在の力を借りてしまう。
私の身体から魔力の抜ける感覚があり、魔法が行使されました。
手から溢れ出したのは、底が見えないほどの闇。
それがレイナさんのドレスを覆って、隠してしまいました。
不安を煽るような、暗い、暗い、モヤ。
まるで私の心のようなそれは、ドレスにまとわりついて、離れなくなりました。
「……いったい、何をしたのですか?」
『ドレスをこの世から隠したのよー。これで、探知魔法を使われても見つからないわ。お望み通り、疑いを晴らしてあげたわよ?』
そんな。
私は、こっそりレイナさんの部屋に返してくれると思っていたのに。
……いえ。こんな存在に、何かを期待することが無駄だったのかもしれわせんわね。
私の判断が悪かったばかりに、彼女に迷惑をかけてしまいました。
「……これでは、レイナさんにお返しできないではないですか」
『あら。自分が犯人でないと証明できればいいんだと思ったのだけれど。違ったのならごめんなさいね? でも、こうなったらしばらくはこのままよ。これを返しても、もうパーティーには間に合わないわ』
内から響く声に、気が重くなる。
せっかく二人でダンスを練習したのに、これでは台無しです。
制服で参加する彼女を、周りは笑うでしょう。
うまく踊れていたとしても、誰も見向きいたしません。
そもそも、踊ってくれる人もいるかどうか。
レイナさんは、周りの評価には負けまいと、必死に努力していましたのに。
自分の意思ではないとしても、私の手で、摘み取ってしまった。
それが悔しくて、たまりませんでした。




