きっとそれが伝わると信じて、思いを告げた。
もうこの際だから、本人と話し合うことにした。
ミーシャもミリアルドの異変には気が付いているはずだから。
「ミリアルド様、最近ご様子が変ではないですか?」
「……それは、私に対するあてつけですか?」
やば。言葉選びミスったかも。
これだと、私に熱心なのを気づいてるかな? って牽制してるように聞こえる!
そんな意図は全くない!
「いえ、そういう訳ではなく! 私はミーシャ様とお近づきになりたいだけなのに、なぜかミリアルド様が間に入ってしまって……」
慌てて訂正したからか、なんだか煽るような物言いになってしまった。
それはミーシャも感じ取っていたようで。
「……やはり私に喧嘩を売っていますわよね?」
あからさまに、怒ったような雰囲気だ。
ゆっくり考える時間もなかったので、心から出る言葉を、勢いに任せてぶつけた。
「滅相もございません! 私が思いを寄せているのは、ミーシャ様だけですから!」
しまった。と思った時には遅かった。
勢い任せで告白じみたことを言ってしまい、空気が変わる。
ミーシャは鈍感ではなかったようで、明らかに戸惑っていた。
「それは、その……恋愛感情的な意味、なのですか?」
どうしよう!
ここで素直に言うべきか、ごまかすか。
いきなりの展開に、こちらも考えあぐねてしまう。
……でも、捉えようによってはチャンスか?
ここでミーシャに気持ちを伝えられたら、今までの誤解もとけるかもしれない。
ミーシャから好きになって貰わなくても、こちらの気持ちが伝われば、何かが変わるはず。
そうと決まれば、思いを伝えよう!
どうせ嫌われているのだから、今更なにを言われたってどうってことない!
「そうです。私はミーシャ様をお慕いしております」
推したい相手でもあるからね。なんて。
こんな冗談を考えていないと、正気を保っていられないくらい緊張している。
すぐに返事は来ず、なんだか悩んでいる様子だ。
うぅ……待たされているこの時間が辛い。
どうせダメなのはわかっているけれど、酷いことを言われないか心配だ。
せめて、嫌われなくなればいいのだけど……。
しばらくの沈黙。
やがて、ミーシャは訝しげに問うてきた。
「私たち、出会ったのはつい最近でしたわよね? それがなぜ、好意を寄せるまでに至るのですか? 私は嫌っていることを結構態度に出していたと思いますし、それ以前に、女同士ですわよ? 本気だと言うのならば、その理由を教えてくださいませ」
だよなぁ。当然それ聞くよね。
……苦しい言い訳になるけれど、一応答えは考えている。
あとは、ミーシャがそれに納得してくれるかどうかだ。
一応、前に伏線はまいてあるし。
それがきちんと機能するかは、ミーシャの受け取り方次第だ。
「以前ふたりでお話をした時、聖女の力で近しい未来が見えると言ったのは覚えておりますか?」
「……たしか、グランツ家のご令嬢が、あなたに危害を加える、というお話でしたわね? それにしては、仲良くしているご様子ですが」
ゲームで知ったことを、予言の力と言い張る。
博打ではあるけれど、実際に未来を知っていたようなものだから、間違ってはいないだろう。
聖女の力という体で話を進めれば、怪しまれないはずだ。
歴代聖女には、それぞれ特別な力があったみたいだし。私にはまだ発現していないけれど、未来視ということにしておけば、ゲーム知識も説明できる。
だから、あり得る未来が見える人間として振る舞うのが正解だろう。
「ミーシャ様に言われて、考えを改めたのです。本人と関わらず、あやふやな予言で判断してしまうのはよくない、と。行く末は不安ですが、不吉な予言の通りにならないように尽力しております」
「そうですか。きちんと人を見るようになったのですね。……それで? その予言と、私を好きになることが、どう関係なさるのですか?」
さて、ここからが本題だ。
でまかせを、どこまで信じ込ませられるか。
それにかかっている。
でも、ミーシャを思う気持ちだけは本物だから。
きっとそれが伝わると信じて、思いを告げた。
「予言は夢で見るのですが、ミーシャ様も登場しておりました。サリアさんのこともそうですが、見える未来は一つではなく、幾つもの結果に行き着きます。勿論不幸な未来もあるのですが、そんな未来を辿っても、ミーシャ様は気高く、そして折れなかった。その姿を何度も見ていたからこそ、憧れを抱いたのです」
「……なるほど。私にとっては初対面でも、あなたにとっては馴染みのある顔だった、と。だから顔合わせの時に、私の名前をご存知でしたのね」
お。いい具合に信じてくれた。
ならば、ここは攻めるのみ。
「そうです。そして憧れは、次第に恋慕へと変わっていきました。どんな絶望的な状況でも挫けないこの方に、認められる存在になりたい、と。ですから、ミリアルド様に関わっているのは、ミーシャ様に近づくためです。決して、婚約者を奪うためではございません」
ミーシャは瞑目して静かになった。
どちらも音を立てず、かすかに聞こえる外のざわめきが聞こえるのみ。
やがて彼女は目を開くと、真っ直ぐにこちらを見て言った。
「慕っていただけるのは嬉しいですし、ミリアルド様目当てでないこともわかりました。ですが、その告白をお受けすることはできません」
……っ。やっぱりダメか。
わかっちゃいたけどショックだな。
でも、まだ理由を聞いていない。
それが分かれば、糸口はあるはず。
「それは、女同士であるからですか?」
「それも少しは気になりますが、決定的な理由は違います。私はミリアルド様の婚約者で、将来国母となる者です。その責務をおざなりにしてまで、あなたの気持ちに応えることはできません」
あぁ。この責任感の強さこそ、前世の俺が好きになったミーシャだ。あの手この手で好きになって貰うことも考えたが、やめておこう。
彼女の信念を捻じ曲げるのは、推しを汚す行為だ。
仮に私を好いてくれるようになったとして、果たしてそれは、私が好きなミーシャなのか。
芯のある彼女が好きなのに、その芯を抜いてしまうようなことなど、出来ようはずもない。
こういう理由なら、こちらもすっぱりと諦めることができる。
「……それでこそ、私のお慕いしたミーシャ様です。私がお伝えしたかったのは、あなたの敵ではないということ。できることなら、その責務を果たすことに協力したいくらいです」
「……ありがとう。あなたのことを見誤っていたみたいですわね。でも、協力は遠慮しておきますわ」
「なぜですか?」
「私自身の力でミリアルド様を振り向かせることができなければ、これから先、長く続かないと思いますもの。あなたに譲って貰うような形では、お心を惹きつけておくことなどできません。真意は分かりましたから、今まで通りで構わないですわ」
「……そうですか。では私の方は特に何もしないでおきます。お話を聞いてくれてありがとうございました」
「こちらこそ、お話を聞けてよかったわ。なんだか、とんでもない勘違いをしていようですから」
「わかっていただけたなら嬉しいです」
よかったぁ。推しの誤解が解けた!
あとの心配事は、ミリアルドと、ダンスのことだけだ。
「お話できたのはよかったのですけれど、足は大丈夫でして? まだ仕上がっているとは言い難い出来ですが……練習はできるのでしょうか?」
なんかちょっと優しくなってる気がする。
推しに心配して貰えて、やる気は十分。
恥ずかしいところは見せられないし、痛みなんて我慢だ我慢!
「少し休んだらよくなりました。さぁ。練習を続けましょう」
「やる気があるのは良いことですが、ご自愛なさってくださいね」
……やっぱり優しい。
どうやら気のせいじゃなかったみたいで、再開したダンスも、酷い言葉は飛んでこなくなった。
嬉しいけど、なんか物足りない気もする……。
こんなことを思うなんて、まずい扉を開きかけていたのだろう。
私の性癖は守られたし、推しとも仲直りできた。
今日は本当に良いことづくめだ!




