はぁ。本当にままならない。
サリアに事情を話すと、欠席をしぶしぶ承諾された代わりに、ひとつ依頼を頼まれた。
それは、魔石に魔力を込めること。
なんでも、聖女の魔力を使って、色々と実験してみたいのだそうだ。
何か違いがあるのかと問えば、魔力の性質が微妙に違うのだそう。
地域によって水の質が異なるのと似たようなものらしく、私の魔力は、かなり質が良い可能性が高いみたいだ。
魔石は、魔力を蓄積できる石で、前世で言うところの電池。
違いがあるとすれば、人がエネルギーを貯められるというところか。
こんなのエネルギー革命が起きるよ。
めっちゃ疲れるけど。
それから、要求が通ると分かったせいか、サリアと会うたびに、接触しながらの魔力譲渡を求められるようになった。
曰く、自分で味わってみないと、魔力の性質がわかりにくいらしい。
それなら一度きりでいいのでは? と聞いてみたら、私の魔力は心地いいらしく、流してもらうと疲れが取れるんだと。
私はマッサージ屋じゃないぞ?
ほんと、人使いが荒いんだから。
でも友達だから許しちゃう。
そんなこんなで、サリアとは話をつけられた。
委員会にも無理をいって、お休みを貰ったし。
元貧民だからそういうこともあるよね、と理解を示してもらった。
これでダンスの特訓に集中……しているのだが、成果はかんばしくない。
ステップを間違えまくって、よく注意されている。
初めて踊るから仕方ないとはいえ、不甲斐ない気持ちでいっぱいだ。
それに、結構言葉がきついから、ちょっと怖い。
はぁ。今日も怒られると思うと、気が乗らないなぁ……。
でも、行くしかない。わざわざ時間をとって貰っているし、すっぽかすわけにもいかないから。
ミーシャと待ち合わせている個室へ向かい、足取り重くも入室。
すると、先に来ていたミーシャが喝をいれてきた。
「背中が曲がっていましてよ。もっとしゃきっとしなさいな」
「……はい、申し訳ありません」
「心のたるみは、ダンスにもでますわよ? 常にとはいいませんが、踊る前くらいは気持ちを整えておきなさい」
「……おっしゃる通りです」
ど正論なのでぐぅの音もでない。
きちんと踊れないのは、気持ちが入りきっていないのもあるのだろう。
周囲の噂とか耳にしちゃうと、体面的なところが気になるからな。
どうしても変な力が入っちゃうというか。
でも、周囲を黙らせるには結果しかない。
少しでもマシに見えるように頑張らないとな。
「それでは、今日もはじめますわよ」
「はい! よろしくお願いします!」
そうして始まるダンスのレッスン。
私はろくに踊れないので、女性パートだけを教えて貰っている。
場合によっては男女入れ替えることもあるそうなのだが、今は考慮しないとのことだ。
ミーシャはさすがというべきか、男性パートもマスターしているけれど。
的確にリードしてくれてかっこいい。
そんな推しに見惚れていたからか、ステップを間違えた。
途端に飛んでくる、嫌味のような指摘。
「今のは右足ではなく左足です。私を踏むおつもりですか?」
「申し訳ありません……」
「謝って上手くなるなら、楽でいいですわね」
うーん。やっぱり言葉がちょっとキツい。
ミリアルドのことがあってイライラしているのだろうな。
たぶん、私のことも好いていないと思う。
そんな相手でもきちんと指導しているから、性根はやっぱり優しいんだけど。
改めて、ミーシャが推しでよかった。
現実になっても、彼女の魅力は損なわれない。
最近、あまりよくない側面を見てしまうことが多いけれど、それでもやはり、嫌いにはなれなかった。
悪いのは私とミリアルドだし。
彼女は純粋な被害者だ。
婚約者を取るつもりはないけれど、そんな構図になりつつある。
本当なら、こんなに彼女を悩ませたくないのだけれど。
ミリアルドは、なぜかこちらを向いてくるんだよな。
私はミーシャに近づきたいだけなのに。
なぜか違うやつに構われてしまう。
なんでこんなことになるんだろうな。
はぁ。本当にままならない。
そんな風に、考え事をしていたからだろうか。
またしてもステップを間違え、今度はミーシャの足を踏みそうな軌道になった。
このままではまずい。
直感的にそう悟ったので、強引に足の向きを変える。
しかし勢いがよすぎたのか、捻れるように着地してしまった。
「いつっ……」
ぴきり、とつったような痛みが走る。
これは挫いてしまったかもしれない。
踊っていられなくなり、ミーシャの手を掴みながらその場にしゃがみこむ。
こちらの様子に気が付いたのか、ミーシャは少し怒ったように咎めてきた。
「私に怪我をさせまいというその精神は素晴らしいですが、そもそも集中していないのがいけないのですわよ? 明らかに別のことを考えていたでしょう」
う……ばれてる。
これは申し開きのしようがない。
「……申し訳ありません。次は集中してやります」
「そんな足で続けるおつもりですか? 次期聖女ならば、ご自分で治したらいいと思いますが」
うーん。治したいのはやまやまなんだけど。
「……まだ本格的な治癒魔法は習っていないのです。捻挫程度ではありますが、今はこれも治せなくて」
「……困りましたわね。私も治癒魔法は無理ですわよ? とりあえず、一度休憩にいたしましょうか」
うぅ。気遣いが痛い……。
「はい……本当にごめんなさい」
「謝るくらいでしたら、集中なさってください。一体なにを考えていらしたのですか?」
やっぱり聞かれるよなぁ。
誤魔化してもいいけど、それだとまたやらかしそうな気がする。
いっそのこと、本人に相談してしまおうか。




