なんでそんなに意思が固いんだよ。
結局、王城訪問は微妙な空気で解散することになった。
今回のことで得られたものは、上品な一張羅と、友達からの大切なアクセサリー。ついでにミリアルドからの料理上手という評価。
失ったものは、推しの笑顔。
アクセサリーは嬉しかったけれど、代償がでかすぎる。
ミリアルドが余計なことさえしなければなぁ……。
なんであんなこと言うんだか。
はぁ。ミーシャにどんな顔をして会えばいいんだろう。
どれだけ渋っても時間は過ぎるもので、あっという間に登校日になった。
一睡もできないほどではなかったけれど、ちょっと寝不足。
正直行きたくないけれど、特定の人物と会いたくないから、なんて理由で休むわけにもいかない。
前世だったらまだ許されていたかも知れないが、ここは職業に必要な技能を身につけるための学校。
個別授業で自分しか生徒がいない時もままあるから、休むとすごく迷惑をかけてしまうのだ。
だから、どうしても行けないという時でもないと、休みにくい。
そして、今回はその事例にあてはまらない。
重い気持ちを引きずりながら、教室の前までたどり着いた。
意を決して扉を開けると、幾人かの目がこちらに向く。
その中にはミリアルドのものもあって、当然のように声をかけられた。
「おはよう、レイナ。昨日はおいしい家庭料理を堪能できた。おかげで、母の味という物を知れた気がするよ。改めて感謝する」
ばっかお前! このノンデリ王子!
こんなところで休日に会ったことを言うんじゃない!
ほらぁ! 周りのご令嬢の視線が突き刺さって来るじゃないか!
くっ……ここはせめて、二人きりじゃなかったと証明しよう。
「いえ、お気になさらず。私の方こそ、ミーシャ様を連れて来ていただき、ありがとうございました。おかげで、少しだけ仲良くなれた気がします」
ミリアルドと一緒にいたミーシャに目を向けて、話を強引に寄せる。
先週は喧嘩していた二人だが、すでに仲直りしているようで、接近不可命令は解かれたようだ。
でなければ、昨日いるはずもないしな。
しかし、相変わらず私に対する印象は微妙なようで。
「あんなクッキーを食べて喜ぶなんて、変わった方ですこと」
自虐気味に笑いながら、嫌味を言って来た。
まぁこれくらいどうってことないんだけどさ。
ミリアルドも諦めているのか、特に咎めることをしなかった。
この辺りはもう、時間をかけて慣れていくしかないのだろう。
――と、思っていたのだけれど。
そうも言ってられない事態が起きた。
事が起こったのは、その日の午後。
ミリアルドと食堂で飯を食べ、戻って来た時だ。
なんでこいつと一緒に、とか、ミーシャが一緒じゃないなら行く意味ないのに、などと思っていたけれど、そんなことがどうでも良くなるくらい、大変な事が起きた。
私の机の上に、破損した筆記用具が散乱している。
机に近づいてみたら、教科書やノートも引き裂かれて中に入っていた。
全部聖女候補になってから新調したので、思い入れとかは特にないけれど。
私の荷物が壊されていたという事実が大変まずい。
なぜなら、ミーシャが無罪だと証明できないから。
彼女は今日に限って、昼食を別の人と食べると言い出したのだ。
いつもはミリアルドと食べているようなのに。
おかげで私は、ミリアルドと二人で昼ごはんになってしまったのだけれも。
偶然というにはタイミングが噛み合い過ぎている。
ミーシャが大好きな私ですら怪しいと思ってしまうのだから、ミリアルドが疑わないはずなかった。
「ミーシャ。まさか君がやったわけではないだろうな?」
「私ではないですよ。ミリアルド様は信じてくださいますわよね?」
「……信じたいところだが、珍しく昼食を断られたからな。こんなにあからさまにされると、疑いたくもなる」
「……別に、レイナさんも一緒だったのが嫌だっただけです。それ以外の理由はございません」
「そんなに嫌っているなら、物を壊してもおかしくない。もう一度聞くが、本当にやっていないのか?」
「私はやっておりませんよ」
その言い方で、思い当たる事があった。
ミーシャルートのゲームシステムだ。
彼女が主人公の場合、取り巻きをいかに抑えながらゲームを攻略していくか、というのが肝要になる。
そして、抑えきれなかった取り巻きは、わりと手段を選ばない。
嘘の噂を流したり、私を階段から突き落とそうとしたりな。
その状況と、酷似しているのだ。
たしかに、ミーシャはやっていないのだろう。
それは真実に違いない。
だが、ミーシャの心を汲み取った周囲がやった可能性は、かなり高い。
ミーシャが意図してのことか、周囲の暴走かは分からないが。
いずれにせよ、ミーシャの取り巻きが犯人である可能性がある。
……でも、それはゲームの知識の話だ。
実際はどうか分からないし、無闇な決めつけは危険だろう。
あくまで私の中の推測してとどめて置くべきだ。
証拠もないのにいらぬことを言って、波風を立てるわけにもいかないしな。
今は、状況の解決が先決だ。
「……犯人探しは結構です。このままでは困るので、私は購買で授業用の道具を揃えて来ます」
「いや、それらは俺が用意しよう。さすがに、王族の用意した物品を壊す不敬な輩はおるまいな?」
心遣いはありがたいけど、そういうのが余計に敵対心を煽るんだってば。
この、やりすぎ王子め。
私にとっては推定無罪のミーシャの顔も、歪んでいる。
そりゃあ婚約者が別の女にこんなことしたら、そういう顔にもなるわな。
しかし、何も知らない人が見たら怪しさ満点。
案の定、ミリアルドも疑っているような顔だ。
それを察したか、ミーシャは快く賛同した。
「いいと思います。それでしたら、私からもお送りさせていただきましょう」
たしかに、ミーシャが送れば取り巻きも躊躇するだろうな。
また同じような事件は起こりにくいだろう。
周りのご令嬢の反応は様々。
憎々しげに見る者や、興味深げな顔をしている者。それから、小声で噂話をする者まで。
一方、ご令息たちのほうはというと、無関心な者が多かった。
家格の低い、私に取り入る価値を見出してる者たちは、羨ましげに王子を見ているけれど。
王子のいるクラスだからか、そういう者は極端に少なかった。
まぁ、王子に申し出られたら、そいつらは勝てんわな。
私も断りづらいし。
本当は放っておいて欲しいのだけど、今回は承諾せざるを得ないだろう。
「ありがとうございます、ミリアルド様、ミーシャ様」
「いい、気にするな。それと、やはり一人にするのは怖い。しばらくは常に俺と行動しろ」
本当に、限度を知らない王子だな。
そういうのはミーシャにやってやれよ。
「……個別の移動教室もあるので、そういうわけにはいかないと思いますが?」
「その場合は、授業がある教室まで送る。終わったら迎えに行くから、待っているように」
なんでそんなに意思が固いんだよ。
こうなると、断る方が面倒くさそうだ。
受け入れても、かなり厄介ごとになるんだけど。
あぁ、ミーシャの顔を見るのが怖いよ。
「……わかりました。お気遣いありがとうございます。それでは、よろしくお願いします」
こうして、学校にいる時は、ほとんどミリアルドといることになってしまった。
ミーシャと一緒にいたいのに、なんでこうなってしまうんだ。




