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私は、絶対に悪役令嬢なんぞには負けない。

 ゲームの世界に転生したと気がついたのは、十五の時。つまり、今。

 なぜこれまで気がつかなかったのかと言えば、単純に性別が変わってそれどころではなかったから。

 

 それにウチ、貧乏だし。

 生きるのに精一杯で、そんなこと考える余裕もなかった。

 転生に気がついたきっかけは、職業神託の儀式だ。

 

 いくら貧乏であろうとも、神から適職は賜られる。

 (よわい)十五となる年に神託を受け、それから数年の間、職業に応じた学舎に通い、適職について学ぶ。

 履修が終われば、晴れてその職業として活躍できるというわけだ。

 

 貧民には一発逆転のチャンスでもあるから、かくいう私もこの日を心待ちにしていた。

 今となっては過去形であるが。

 

「聖女があらわれたぞー!」

 

 隣で興奮するおじさん司祭がうるさい。

 数十年ぶりの聖女の誕生だと盛大に喜んでいるが、私はそれどころではなかった。

 

 齢十五で受けられる職業神託の儀式。

 数十年出ていなかった聖女が現れるという偉業。

 

 この二点で思い出されるのは、前世で遊んでいた乙女ゲーム『悪役令嬢だって幸せになりたい〜ぽっとでのヒロインなんかに負けてたまるもんですか〜』というタイトルだ。

 タイトルが面白そうだったから、乙女ゲームだけど思わず買っちゃったんだよな。

 悪役令嬢モノはネット小説で慣れてたから、特に忌避感はなかった。

 

 主人公の悪役令嬢も五人いたし。

 趣向の違う可愛い女の子を切り替えられるとあっては、男だった私でも興味が湧いたというもの。

 少々値段は張ったが、やりごたえがあって面白かったと思う。

 

 特に、テンプレートを逆手に取ったような演出が良かった気がする。

 敵役のヒロインが王子に平手打ちしたら、主人公の悪役令嬢の手によって勾留されるとかな。

 そりゃそうなるわ、というのを地で行くから、そうはならんやろ、な突っ込みどころがなくて快適だった覚えがある。


 気がする、とか、覚えがある、とかあやふやなのは、十五年も昔のことだからだ。

 

 正直、私は普通の異世界に生まれ変わったモノだと思っていた。

 たしかに、今思えば、ゲームキャラの容姿と似ているところが多い。

 母の趣味で長い金髪を編み込こんでいるのだけど、それも一緒。

 いつも冠みたいにしてくれて可愛いなと思っていたが、ゲームと同じ髪型なので、強制力が働いているみたいでなんだか怖い。

 

 それを言ったら発育も異常だ。

 貧乏とは思えないほどバインバインで、何か不思議な力でこうなったとしか思えない。

 正直邪魔だなと思っていたけど、元よりこうなる定めだったのか?

 

 なんで今まで気がつかなかったんだろうな。

 気がついてみれば、本当にそっくりだ。

 

 女に生まれ、ようやく違和感なく過ごせ始めた頃だと言うのに。


 この私が、聖女だと?

 しかも、記憶が確かなら負け役の正ヒロイン様だ。

 

 輝かしい未来が開かれると思ったら、BAD ENDで舗装された学園生活を送らなきゃいけなくなるなんて。

 正直逃げたいが、職業神託の儀は絶対だ。

 これのおかげで安定した世の中になっているのだから。

 

 一見ふざけた職業でも、なってみれば天職と言わんばかりにうまく行く。

 無職のような酷い職業が出ることもないし、不満を持つ人は殆どいないのだ。


 私のように、死が予期できるような状況でもなければな。

 聖女なんて、本来は歴史書に載るくらいの珍しい職業だ。

 だから、扱いは王侯貴族と一緒。


 私はこれから、貴族のおぼっちゃまお嬢様が通う学園に行かなければならない。

 前世でも庶民だった私が、だ。

 こんなの不敬罪ルートまっしくらだぞ。


 ちなみに、王侯貴族にも適職の儀は適用される。

 が、貴族である上で、職業に就くのだ。

 領地をおさめながら、適職をこなす。


 そんな離れ技ができるからこそ、彼らは王侯貴族足り得るのだ。

 幼い頃から立派であれと躾けられ、能力も高い。


 そんな彼らと、同じ扱いだと?

 無理に決まってるだろ。


 辞退したい気持ちでいっぱいだが、神様に決められたものだ。

 そう易々と覆せるモノではない。


 ただまぁ、悪いことばかりでもないのだ。

 先ほども言ったように、ウチは貧乏。

 聖女なんて珍しい職になれば、支援がたんまりといただける。


 母さんには楽をして貰いたいからな。

 十五年も一緒にいたら、情だって沸く。

 女手一つでここまで育ててくれたのだ。

 我儘を言って迷惑をかけるわけにもいかない。


 だから、学園での失敗は絶対に許されないのだ。

 私がヘマして死刑になんぞなったら、一族郎党皆殺しもあり得る。

 それは避けなければいけない。

 母さんを巻き込むなんて、絶対にごめんだ。


 それに、悪役令嬢の中には、私がとびきり好きだったキャラがいる。

 そのキャラと仲良くなって、できれば庇護してもらいたい。目指すは彼女との友情エンド。

 向こうもヒーローとくっつこうとするだろうけど、負けてなるものか。

 彼女だけは絶対に落とす。


 コンティニューなんてない、一度きりの無理ゲー。

 これを乗り越えなければ、幸せな未来はやってこない。

 襲いくるフラグを全て薙ぎ倒し、運命に打ち勝ってみせる。

 私は、絶対に悪役令嬢なんぞには負けない。

 そう心に誓って、新たな人生の一歩を踏み出した。

 


 

 

 

 

 

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