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許している人の態度じゃないと思うけど?

 昨日は、服を選んでもらった後も街を歩き回った。

 貧乏だった時は行けなかったところにいけて、大変満足だ。


 おかげで楽しかったけれど、対照的に今日の気が重い。

 悪いことは何もしてないのに、なんだか罪悪感がある。

 

 ミーシャに黙ってミリアルドと会うからだろうか?

 不倫の気分ってこんななのかもしれない。

 あんなやつと恋仲なんて冗談じゃないが。


 まぁ、王子をあんなやつなんて言ったら、首が飛びそうだけど。

 気を引き締めて変なことは口に出さないようにしないと。

 今は王城の前にいるのだから。


 この先は、厳粛な場だ。

 ふざけた振る舞いは許されない。

 ミリアルドはなんとも思っていないだろうが、私にとっては試練の場だ。

 

 本当は王城なんて来たくなかったけれど、ミリアルドが来いって言うんだから仕方ない。

 学園は王都のお膝元にあり、王子は城から通っているらしいから、こうなるのは当然のことだった。


 学園寮も安全性には配慮しているが、限界があるとかで城から通っているのだそうだ。

 王族が暗殺とかになったらシャレにならないからな。


 だからミーシャも、学園で顔を合わせた時に喜んでいたのだと思う。

 彼女は学園寮住まいだから、頻繁に会えないみたいだし。

 領地も遠いから、学園に入るまで、顔合わせは年数回とかだったそうだ。


 そんな少ない顔合わせで人を好きになったりするんだとも思うが、昨日サリアとあんなことがあったから、あまり人のことは言えない。


 単純接触効果というやつもあるけど、会った回数だけで友好度が決まるわけじゃないからな。

 結局は、その時間で何を共有できたかという、深さの問題だと思う。


 そういう意味では、ミリアルドと仲を深めるのはどうなんだと思わなくもないが……約束しちゃったもんは仕方ない。


 はぁ。うだうだ考えても仕方がないな。

 そろそろ行くとしよう。

 私は覚悟を決めて、王城の中に入った。


 城の兵士に案内されたのは、広々とした厨房。


 そこにはミリアルドと、お付きの従者たち。

 それから、なぜかミーシャがいた。


「ミ、ミーシャ様? なぜここにいらっしゃるのですか?」

「私としては、なぜあなたが王城に来るのかと問いたいところですが……ミリアルド様にお誘いされたから来たまでです。あなたのことはどうでもいいですわ」


 ふん、と副音声が聞こえて来そうなくらい、見事にそっぽを向かれた。

 一体どういうことかとミリアルドを見れば、彼は達成感に満ちた顔でのたまった。


「言っただろう、期待に応えると。要望通り、ミーシャと話せる機会を作ったぞ」


 だからと言って、何もこんな時に呼ばなくても。

 ミーシャはお嬢様だから、料理なんて作ったことがないだろうし。

 自分もやるとか言いだしたらどうするつもりなんだろう。


 ミーシャと話したくないわけじゃないが、競いたい訳でもない。

 彼女がミリアルドを好きならば、どうぞどうぞとお譲りしたいくらいなのだ。


 なのに、当の本人たるミリアルドは、私に興味を持っている様子。

 なんで推しの幸せを邪魔する構図になっているのやら。


 はぁ。

 まぁ、来てしまったものは仕方ない。

 帰すわけにもいかないし、帰ってもらいたくもないからな。

 一緒にいられるだけで嬉しいし。

 

 とりあえず、誘ってくれたことは感謝しておこう。

 あんたら喧嘩してたんじゃないのか、とも思うけど。


「ありがとうございます。でも、その、よろしいのですか? お二人の間に私が入ってしまって。先日、すごく疎まれてしまったようですが……」

「なんだ、そんなことか。それについては、ミーシャから謝罪があった。レイナが俺に近づくことを許すと言っていたから、大丈夫だ」


 許している人の態度じゃないと思うけど?

 あからさまに敵意満々なんですが。

 

 でも、これはある意味チャンスだ。

 断れない雰囲気の中で、友好関係を作るための。

 多少強引でも私は行くぞ。

 そうじゃなきゃ、一生仲良くなれなさそうだからな。


「そうですか。では、ミーシャ様。私とも仲良くしていただけますか?」

「……私の周りにいる方たちと同じ程度のお付き合いはさせていただきますわ」


 それって取り巻きと同程度の扱いってことじゃないか。

 積極的に話しかけて、ようやく返事をして貰える程度。

 友達とは程遠い。


 しかし、嫌われている時よりかはマシなのかもしれない。一応話は聞いてくれるってことだから。

 向こうが折れるまでアタックし続けるしかないな。


「わかりました。よろしくお願いしますね」


 こちらから握手を求めるも、その手は無視されてしまった。

 それを見ていたミリアルドが、やれやれと口にしたそうな様子で、仲裁して来た。


「ミーシャにも、まだ思うところはあるのだろう。今はこれで許してやってくれないか? 決してレイナを傷つけさせはしないから」

「わかりました。一緒にいられるだけでも嬉しいです」


 オタクは推しと同じ空間にいられるだけで幸せなのだ。

 たとえ嫌われていたとしても。

 それだけ感情を向けられているということは、気にされているということでもある。

 

 いつかその嫌悪が裏返れば、きちんと話し合えるはずだ。

 好きの反対は無関心とも言うし、認識されていないよりはマシだろう。

 じゃあ嫌いの反対はなんだって言われたら答えられないのだけど。


 とにかく、今後も好かれるように努力していくしかない。

 

 ミーシャと仲良くなることに気合いをいれていると、ミリアルドが一つ手を叩いて、話を切り替えた。


「さて、そろそろ料理を作って貰えるか?」

「わかりました。お作りさせていただきますね」


 さて。ここからがある意味本番だ。

 作るものは決まっているけれど、モノがモノだからな緊張するな。

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