「そんな服で王子に会いにいったら死罪になる」
「……私に相談してよかったね。ここまで壊滅的だとは思わなかった」
待ち合わせしていたサリアと落ち合うと、開口一番に貶された。
「……そんなにひどいですか?」
「そこらの店の制服の方がまだマシに見える」
えぇ……そこまで言わなくてもいいじゃない。
「お金がなくて買えなかったから仕方ないんですよ」
「だからと言って、サイズのあってない女児服を着ている様に見えるのは頂けない」
様に、じゃなくてまさにその通りだよ。
三年前に買ったやつを着ているからな。
おかげで胸がキツキツで辛い。
「実際に女児服ですよ。これしかなかったんです」
「そんな服で王子に会いにいったら死罪になる」
そんなに酷いかなあ?
確かに色んな意味でキツいけどさあ。
絵柄は入ってないけど、明らかに子供向けの色使いだし。
でも、これはお金がなかったから仕方なかったのだ。
私のセンスの問題じゃない……と思いたい。
「だから服のことは忘れていたと言ったじゃないですか」
「私に任せて。軍馬に乗ったつもりでいて」
「仔馬じゃないといいですけどね」
「そんなこと言っていられるのも今のうち」
やけに張り切ってるな。
自分が行くわけじゃないのに。
……あ。もしかして。
「家族以外の人と出かけるのが初めてだから、浮かれているんですか?」
「……悪い?」
「いえ、別にー」
まぁ、私もそうだけどな。
軽くいじったからか、サリアはすねてそっぽを向いた。
可愛いところもあるものよのぉ。
これだから憎めないんだよな。
苦手なのは変わりないけど。
でも、いつもの無表情が崩れるのは、なんだか得した気分になる。
珍しい光景ににまにましていたら、無言でパンチが飛んできた。
照れ隠しの仕方がまためんこいのぉ。
おじさんたぎって来ちゃうよ。
……なんて。今世ではすっかり鳴りをひそめた男のサガが、少し顔を出してしまった。
まぁ、前世もおじさんって年齢じゃなかったけど。
今の年齢からしたらおじさんかなあ?
まぁ、それはいいとして。
しばらくサリアをおちょくって遊ぼうと思っていたのだが――。
「……その辺にした方がいい。私には、服を選ばないという選択肢がある」
サリアは最終兵器と言わんばかりに、強い口調で揺さぶって来た。
服くらい自分で選べるわい、と言いたいところだが、貴族の流行は知らないしな。
それに、私は所詮、元男の模造女だ。
女性の感性がきちんと育っているわけではないから、服のセンスはあまり良くないと思う。
自分で選んで恥かいたら、言い訳が効かないからな。
サリアを生贄にするわけじゃないが、彼女に選んでもらったといえば、私のせいにはならない。はず。
「ごめんなさい。もうおちょくりません」
「分かればよろしい」
サリアに連れられて、高級そうな店が並ぶ一角に入店する。
そこには、服とアクセサリーの両方が売られていた。
店の外の看板を見る限りだと、どちらの職人もいるらしい。
オーダーメイドも受け付けていると書かれていたが、目当ては既製品。
でも、どれを選べば良いかさっぱり分からなかった。
ぱっと見で良し悪しが分かるならサリアに頼る必要はなく、ただ高そーと思うことしかできない。
と、サリアが従業員へ話しかけにいった。
「この娘に合う服を作りたい。王族に会っても恥ずかしくないようなの」
さすがは高級店の従業員。
私の服を見ても顔色を変えない。
それどころか、どう仕立てるか、計算しているような目つきだ。
でもな?
「オーダーメイドは時間的にも金銭的にも無理ですからね?」
「……そうだった」
おまぬけさんめ。
たしかに、自分だけの服は憧れるが、今は無理だ。
「オーダーメイドはまた今度にしてください。今はあなたの審美眼で、似合う服を選んでくださいよ。来て思いましたが、私にはさっぱりわからないので」
「わかった。その無駄にでかい胸が邪魔だけど、なんとか頑張ってみる」
無駄にでかいとはなんだ。
お前が小さいだけだ。
そんなこと言って、機嫌を損ねたら服を選んでもらえなくなるので、言いはしないが。
……まぁ、この胸が邪魔なのは認めるよ。
足元見えないし、重心取りづらいし。
服もサイズがあまりない。
あったとしてもちょっと高くなるんだよな。
だから今まで買い替えるお金がなくて、女児服のままだった。
金があっても服を選べていた気はしないがな。
誰かに選んでもらえるのはとても助かる。
「よろしくお願いしますね」
頼むぞサリア。本当に。
私の生死はお前にかかっていると言っても過言ではないからな。