ここは悩みどころだ。
ミリアルドに連れられてやってきたのは、ミーシャとの話し合いで使ったような個室だ。
いくら次期聖女が相手だと言っても、二人とも警戒心薄すぎないか?
私が暗殺者だったらどうするつもりだ?
と心配していたら、ミリアルドは気遣うように優しく言って来た。
「ここならミーシャと交友のあるご令嬢に何かされることはないだろう。怒ったミーシャも厄介だが、その気持ちを汲み取った周りが何をするかも分からないからな。落ち着くまでは俺と一緒に過ごすといい」
それ、余計に怒りを煽らないかな?
「でしたら、私がミリアルド様といると、皆様の機嫌が悪くなってしまうのでは……」
「俺が誰と過ごそうが自由だろう。それはレイナにも縛られることではないぞ? まぁ、本人をつれる場合は、承諾を得ねばならんが……どうだ? しばらく俺と過ごしてくれるか?」
本音を言えば断りたいが……ミーシャと繋いでくれるのも彼しかいない。
ここで縁を切るなら、最初から近づく必要もなかったんだからな。
申し出を受けるしかないだろう。
「もちろんです。むしろ私でいいのかと恐れ多いです」
「レイナがいいんだ。当然、好いてくれるミーシャのことも大切だが、そのことに気づかせてくれたレイナも貴重な存在だと思っている。俺に対して忠言してくれるような存在を手放すのは、馬鹿のすることだ」
うーん。ミリアルドに好かれてもあんまり嬉しくないんだよな。
私の前世が男だって言うのもあるけど、そもそも好きなのはミーシャだからね。今の性自認は女だけど、前世の記憶があるからか、女の子の方が好きなのだ。
それに、好きな相手と恋仲のヤツを嫌いになるのは当然と言うか。
たとえミリアルドの印象が良くなったとしても、こいつを好きになるのはあり得ない。
まかりまちがってミリアルドに求愛されでもしたら、それこそ私にとってのBAD ENDだよ。
ミーシャに憎まれるわ、愛しの彼女は醜い上級貴族に嫁がされることになるわで、なにも良いことがない。
前にも言ったけど、妃教育も受けていないのに、王族と結婚なんてごめんだ。
というか、ミーシャが大切ならもっと優しくしてやれよ。
こんなことばっかりしてたら振られちゃうぞ。
おそらく気づいてなさそうなので、そこは教えてやることにした。
「あまりミーシャ様に冷たくなされると、愛想を尽かされてしまうかもしれませんよ? いくらミリアルド様を愛しているとは言え、彼女にも選択権があるのですから」
「……これは手厳しい。しかし、あのままでは彼女のためにも良くないと思ったんだ。たとえ嫌われたとしても、いつかは言うべきだったと思う。それが今だっただけだ」
なるほど。意外と考えてるんだな。
自分を好いてくれていればそれでいいのかと思っていたけれど、相手のこともおもんぱかれる。
意外と良いヤツなのかもしれない。
ミーシャと結婚するのは許せないけどな。
絶対修道院に貰って行くんだ。
「そうですか。でしたら、彼女が反省したらきちんと優しくしてあげてくださいね?」
「あぁ、そのつもりだ。レイナもミーシャのことを許してやって欲しい」
「許すも何も、私は最初から気にしていません」
「……そうか。心が広いんだな。こんなに心優しいのに、ミーシャは何を持って、レイナを悪と断ずるのだろうか」
ごめん、それに関してはミーシャが正しいよ。
下心ありきで近づいてるし、言葉は借り物だしな。
あんまり掘り下げられても墓穴を掘りそうなので、早々に話題を変えることにした。
「私が心優しいかはわかりませんが……お二人とも相手のことを思っているからこそ、その周りにいる方のことを気になされるのだと思いますよ」
「……そうか。俺がミーシャの周りにいるご令嬢方が気になるように、ミーシャも俺に近づく者が気になるということだな?」
「そうです。特に私のような素性も知れぬ貧民では、なおさらでしょう」
自分を卑下するわけじゃないけど、客観的事実としてな。
ミーシャからすれば、それはそれは心配だろうと思う。
だから、彼女の行動も理解できるんだよな。
パートナーに近づく虫がいたら、排除したくなるのは普通だろうし。
ただ、原義の意味で悪役令嬢みたいになってるのがちょっとね。
このままだと私が『正ヒロイン』として、ミーシャの座を乗っ取ってしまいそうなんだよな。
そんな心配をしていると、ミリアルドはその懸念に追い打ちをかけるようなことを言って来た。
「ならば、レイナのことをもっと教えて欲しい。俺が君のことをよく知って、ミーシャにも教えれば、誤解はなくなると思うんだ」
うーん。
ここは悩みどころだ。
ミーシャに私のことを知ってもらいたい気持ちはあるが、それはミリアルドとの仲を深めることにもなる。
ルートとして危うい方向に行ってるような気がしなくもないが……ここで断っても、後退するだけな気がするんだよな。