リセット
ゲーム。それは、人々の満たされることの無い欲求、理想の塊である。そのため人々はそれを受け入れ、幅広く普及しているのである。中には、虜と化している人々もいる。
現代でゲームは化学より、医学よりも進化を遂げ種類は『シューティング』、『アクション』、『パズル』、『レーシング』、『スポーツ』と多種多様である。なかでも、『ロールプレイング』がもっとも人気を博しているのではないだろうか。それは、自らがストーリーを進め、その功績が蓄積されているという、人生にとても類似したものである。主人公はとても聡明かつ勇敢、見栄えもとても良く、世界も興奮を掻き立てるものだ。
そして、リセットをすることが出来る。
人々がもっとも引かれるこれで部位であろう。ゲームをプレイするのは無論、人である。人の人生とは実に儚く、やり直しなどというものはきくはずもない。だからこそ、これとはほど遠い理想を実現させるため、何度も、リセット、リセットを繰り返し自分の写し身である主人公になり理想を叶えようとするのである。
貴方方は思ったことが無いだろうか。
「やり直したい」と。
ある東北の古びた町に一人の若い男がいた。男は期待を胸に東京に出て数年、就職活動を幾つも幾つも受けてはみたもののすべてに落とされ、現実の辛さを突きつけられた。その事でやる気を見失った男は実家での堕落生活をおくっていた。すぐに辞めたバイトの給料を全て使い果たして購入した携帯型ゲーム機がさらに堕落を深いものとさせていた。一日の半分をゲームの時間とし、寝ても起きてもゲームの事ばかりを考えていた。
「ちっ、またボスに負けちまったよ。たくっ、雑魚が!レベルが下がっちまうじゃねーか。リセット、リセット!!」
「リセットなさいますか?」
はい←
いいえ
その瞬間、画面はカーテンを閉めている窓から漏れ出すようほどの白い光を放ち、耐え切れず男はゲーム機を床に落とし、その腕で顔を覆った。
「うあぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁあ」
しばらくし、光が収まりを見せた事を確認し男は両手をゆっくりと顔から離した。
男は息を飲んだ。
光のせいで残像の様なものが目の前を照らし、その視界ははっきりしたものではなかったが、自分が今立っている場所が自分が今さっきまで寝そべっていた部屋ではなかったのだ。
「―お、おい。いったい、ここは何処なんだ。俺は自分の部屋で寝そべってゲームをしてたはずだ。なぜいきなりこんなことに….。そうだ!ゲームだ!リセットした瞬間に急に光って….あれ?そういえば、そのゲーム機は何処いったんだ?何処だ?ねぇぞ!」
足元にも、自分の近辺にも、先の見えない彼方にもそれは見当たらなかった。困った男は手に腰を当て、ふと天井を見上げた。するとそこには長方形の穴がポカンと一つ。
「何だあれは。変な穴が空いてやがる。おい待て。奥に何か見えるぞ。なんだあれ?んっ?どこかで見た気が…。そうだあれはっ!」
穴の奥に男が見た物は『絶対合格』、『〇×大学合格』など荒く墨で書かれた半紙であった。そしてそれは、紛れも無く男の書いたものであった。
「―何故あれがそこに。あれは大学受験の時俺がかいて天井に貼った物じゃ…。まさか、あそこが俺の天井…。それじゃ、俺はいま一体何処に…」
男はゲームのやり過ぎのせいなのか、その答えは直ぐに頭に浮かんだ。
「俺はゲームの中にいるんだ……」
その非現実的な発想は通常の人間ならばそう簡単には受け止めることは出来ないが、ゲームの世界を現実としてきた彼はあっさりとそれを受け止めることが出来た。
「そうか。俺は今、ゲームのなかに。待てよ。なら、主人公のような人生をおくれるってことじゃっ!やったぜ。俺は人生もう捨ててんだ。こっちの世界にいたほうがよっぽど楽しいぜ。でも、それにしては何にも無いな。なぜだ?ゲームならもっとこう….」
男は一人、考えを巡らしていた。すると、ポンッと誰かが男の肩を叩いきたのだ。
「うわっ!誰だ!」
男はふっと後ろを振り返ると、そこには自分が今までコントローラー一つで操っていた、主人公が立っていた。
「えっ?なぜ?お前がここに…。てっ、ゲームの世界だから当たり前か。そうだっ、丁度いい、なんでここはこんなに何も無いんだ?」
彼は口を開かなかった。無言のままその場に突っ立ているままだった。
「おいっ!なんか言えよ!なんでここはこんなに何も無いのかって聞いてんだよっ!」
彼は依然として口を動かさなかったが、今度は腕をあげ自分の頭を指差した。
その先には枠で囲まれ文字が並んでいるではないか。
「あぁっ。ここはゲームだから台詞はそうなるのか!よく見ると俺もそうなってんじゃねーか。いやぁ、悪かった。で、んっ?なになに….?」
『こんにちは。私は1324人目の勇者マサトでございます。今このゲームは電源が切られているからこのように何も無いのですよ。電源が入れば直ぐに建物が建ちます。私たち主人公はそのままですが』
「なるほどな。あの拍子に電源が切れたのか。てっ、ちょっとまて、私たちって何だ?主人公は一人だろうが!」
『何を言ってらっしゃる。私たち主人公は主人公はリセットされるごとに減っていくのですから、複数いて当たり前です。あなた様だってその中の一人ではありませんか』
「ちょっと待て。何を言ってるんだ。俺も主人公だって?ふざけんじゃないよ。俺が主人公なわけないだろう!」
それを聞くと、マサトは何処からか全身が映るほどの大きな鏡を出し、男と前に置いた。男は目を疑った。目の前にいた男と同じ男がそこに立っていたからだ。
「嘘だろ。俺が主人公…?やったぁぁぁ。これで、ウハウハな生活が!」
そのことを聞きマサトは顔を曇らせた。
『聞いていらしたでしょうか?私ども主人公は一回リセットされると二度と生き返ることは出来ないのですよ?すべて上手くこなし、どんな困難も、どんな選択も誤る事無く通り抜けるなんて出来ないのですよ。これをプレイする人間同様』
「ま、待て。じゃあ、俺もその可能性があるというのか?」
『はい。ランダムで選ばれますので』
男は絶望した。言葉を失い、その場で崩れた。
ぱーんぱかぱーん、てれれれれ~
そんな男の心境も訳知らず、不意にどこからとも無く明るいラッパの音が空間一杯に響き渡った。
『どうやら、始まるみたいですね』
「―何が?」
男はその答えはもう知っていた。だが、認めたくないという気持ちが彼をそうさせた。
返ってきた返事も無論、予想どうりの物であった。
しばらくし、ラッパが止まったかと思うと今までいた何も無い空間から草木が生え、森が出来、海が出来、そして城が建った。
『さて、今回の勇者マサトは何番でしょう?』
男は強くてを合わせ、自分が選ばれないことを神に願った。
『おや、選ばれたのは私ですね』
声が男の頭の上から聞こえた。男は泣き顔をゆっくりと上げた。そこには大きな赤い矢印が頭の上に表示された、あのマサトがいた。
「お、お前が…。」
『はい。そのようですね。それでは、残りわずかのこのHP、王のため尽くしてまいります』
その言葉を聴いたかと思うと、男のしたには黒い穴が開きその中に男は抵抗するまもなく落ちていった。
どさっ
「いててて。なんだったんだ…。どこだここは」
落ちたその終着地点はひどい不快感を与える異臭のする暗い部屋だった。男ははっとなった。
「ここは俺の部屋じゃ…。戻れた!」
とにもかくにも目の前に垂れ下がった細い糸に気付き、ぐっとそれを引いてみた。
すると、天井からゆっくりゆっくり照明が現われ、明かりを灯した。
男の部屋には天井に庶民的な明かりはあっても照明なんてものはなく、男のその小さな希望は一瞬にして消え去った。
「違ったのか…。俺はまだゲームの世界に。そんな、うまくいかねーよな…。はぁ。にしても、この臭いはなんだ?」
異臭のする方に男は目を向けた。そこには、照明がうまく当たっておらず、山のような物があることしか確認できなかった。それを確認すべくそこに近づくとそれは男をさらに絶望の淵へと追いやるものだった。
主人公の死体の山。
「これがリセット後の主人公の姿なのだろう。そして、自分の末路」
男は直ぐに察した。
すると、その真上の天井に穴が開き、もう一体落ちてきた。
「―あいつだ」
男が察するにそれはあのマサトだった。
自分の知っている人の死を目の当たりにし、絶望、恐怖は最高潮にまで達した。
「あぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁァッァァァァッァァァァァァァああぁぁァァぁ!」
目をつぶり男は泣いた。だが、その瞳から涙はでなかった。
男は後悔した。
自分が、あと少しの努力で就職し東京にいたら、ゲームなんかせずに就職活動をつづけていたら、こんな事には。
ぱーんぱかぱーん、てれれれれ~
あのラッパの音が。男は目を開けた。目の前には巨大な龍が。
―男は負けた。
何処からかこんな声が。
「使えねーな。また、リセットだ。」
男は力の限り叫んだ。
「やめてくれぇぇぇ、次は次こそは勝つから、絶対に勝つから、リセットしな….
『リセットなさいますか?』
はい←
いいえ
―リセット