ゲームシューズ
あの所に一人の名の知れた男がいた。男は豪邸に住み、毎日食べきれないほどのごちそうをテーブルに並べ、それを毎度ぺろりとたいらげていた。そのため男のシルエットは丸みを帯びたモノであった。
そんな男の豪邸には動くレットカーペットという物が廊下の全てに設置されている。そのうちの一つには黄色い装飾されたものがある。それに乗ると何㍍もある廊下をひたすら直進し、ある分厚い扉にたどり着く。その扉の横にある無数の鍵をすべて突破するとそこには大きく宝石が散りばめられた何とも大層なガラスケースのある。その中には、世界に一つしかない、宝石、皿、指輪、剣、服などという宝が立派に飾ってあった。そのコレクションは男の趣味によって集められたものである。そう、男は世界一つを集めていた。しかし、そんな男にも持っていない世界一があった。
それは『靴』
世界一の靴を彼は持っていなかった。男はそれを何度か手にしたが全てフェイクであった。故に男は今、全力でそれで探している世界のどこかにあるその靴を。
そんなある日の事であった。彼の耳に興味深いことが耳に入ったのだ。今、街に世界中を周り修行をつんだ靴職人が帰って来たらしい。しかも、珍しい靴をもって。それを聞いた男はすぐさまその店へと向った。その店のある建物は、三階建てであった。その一階に店はあった。
「ほぉ、この店か。また、偽物で無ければいいが・・・。」
男は半信半疑で店へと入った。店の内装は何とも雰囲気があり、男の好みであったが、靴の塗料の臭いなのだろうか、鼻につくツンッとした臭いが店中に充満していた。
「いらっしゃいませ」
入り口付近にいたスーツを着た店員が男に話しかけて来た。
「本日は御来店まことに有難うございます。本日はどの様な御用で?」
店員はとても紳士的な態度で店の雰囲気にとてもマッチしていた。
「いや、少し小耳にしたのだが、この店にはなんともすばらしい靴が置いてあるそうじゃないか。それを見せてくれないか?」
「えぇ、ありますよ。お見せ致しましょう。どうぞ、こちらへ」
そう言うと店員は店の二階へと上がった。二階は薬品の様な臭いも混ざり、さらに臭いがひどかった。
そして、店員は木製の風格のある扉の前に立ち、扉をぐっと押した。
その扉の向こうには一つ、小さな直方体のガラスケースがあった。
「さぁ、こちらでございます。これが、私どもが持ち帰った靴でございます」
「ほぉ、外見は何とも普通だな。どの点ですばらしいのだ?」
「それはこの靴の名前を聞いたら、おおよそ予測がつくのではないでしょうか。この靴の名前は『ゲームシューズ』でございます」
「はっ?ゲームシューズ?なんだねそれは、まったく予測がつかん。もったいつけないで教えてくれ」
「わかりました。お教え致しましょう。この靴を履くと、ゲームの主人公の様な身体能力が得られるのです」
「なんだと。そんなことがある訳がない。それが本当だという証拠はあるのか?」
「わかりました。仕方ありませんね。では、試しにお履きになってみては如何でしょう?」
「ほう、いいのか?いいのなら是非」
「えぇ、私どもはお客様第一ですから。では、そこの椅子にお掛け下さい。この靴を貴方の足に合う様に調整いたします」
「そうか、分かった。じゃあ、楽しみにしているよ。調整にはどれくらいかかるんだい?」
「はい。なにせ、実は世界に一つの一品ですので、少々時間が・・・。四時間ほどになるのですが…」
「そうか。なら、足型を取ったら一度家に帰って、また取に来るよ」
「いえ、どうぞここでお待ち下さい。調整には色々貴方様の足の資料が必要となりますので」
「そうか。なら仕方ないな。待とう。じゃあ、紅茶を一杯くれないか?」
「かしこまりました。では、少々お待ち下さい」
男は店員が行くとゆっくりと椅子に腰をかけた。店員が帰ってくるまでじっと、靴の方を見つめていた。
「―あの店員の態度。あの靴は今度こそ本物なのでは…。もしそうならば、金をいくらでも払い手に入れなければ」
男は、店員をどうやって納得させるかと考えていた。すでに男の隣には紅茶が置いてあった。
「おっと、紅茶が出ていたか。あぁ、いい香りだ」
男は、香りの楽しんだ後、おちょぼ口で紅茶を飲んだ。
「はぁ、うまい。私のうちで仕入れたいほどのうまい紅茶だ」
男は、味にうっとりしたのか、瞼が少し重くなり、男はどうせ暇だからと抵抗することなく眠りについた。
「お客様、お客様、靴が出来上がりました。お目覚めになって下さい」
店員の声がうるさく頭に響き男は、ゆっくりと瞳を開けた。
「あ、あぁ。出来たか。では、早速」
男は「よっこらしょ」と声上げ、のっそりと立ち上がった。ずっと座っていたせいか足がピリピリと麻痺していた。
「さて、お客様。早速お履きになっては如何ですか?」
「おぉ、そうしよう。じゃあ、くつを出してくれないか?」
「はい。どうぞ。足を出してください。履かせて差し上げましょう」
「おぉそうか、有難う」
男がスッと足を差し出すと、店員は片足ずつ丁寧に履かせて見せた。
「さて、では外に参りましょう。この靴の機能を店内で試すのは少々危険ですので。」
「わかった。早く外に行こう」
男の心臓は高鳴っていた。ついに、本物かどうか試す時が来たからだ。
そして扉を前にし、その扉を店員がグッと開けた。
「さて、着きましたよ。では、手始めにそこで跳躍をしてみてください。」
「わかった。こうか?」
男は地面をけり、ピョンッとジャンプをして見せた。男は異変に感ずいた。地面にいつまで経っても足が着かない。男は不思議に思い、ふと下を見た。―そこには有り得ない景色が広がっていた。
店員が小指の様に小さく見えるのだ。
男は叫んだ。
「おぉぉい。どうなってるんだぁぁぁ」
「驚きましたか?それがその靴の能力です。どうですか。これで本物とお分かり頂けたでしょうか?」
しばらくし、男が地面に降りたつと、男は震える手で店員の方を強くつかみ、再び叫んだ。
「すばらしいぃ。これは正しく世界一の靴だ。頼む。これを売ってくれ。金はいくらでも払う。この靴は正しく私が長年追い求めていた物なんだ!」
「分かりました。お譲り致しましょう」
「良いのか!?」
「えぇ、私どもはお客様第一ですので」
「そうか。有難う。金はすぐに送らせる」
「では一応、私どもとしてはこれも商売ですのでこの契約書にサインを」
その契約書は何ページにも及ぶ面倒な物であったため、男は最後のページだけを読みサインをした。そして、店員に深く礼を言い、男はその跳躍で家の屋根をピョンピョンと跳び、自宅へと帰っていった。
店員はその姿を最後まで見送っていた。
「まことに有難うございました。まことに」
男は買った靴をあの部屋にしまい、ガラスケース越しに靴に見とれていた。その時、もう一人男が入ってきた。
「ご主人様、お風呂の用意が出来上がりました」
「おぉ、爺か。分かった。今行く」
男はゆっくりと立ち、バスルームへ行きのレットカーペットに乗った。
男は豪勢な衣服を脱ぎ、湖の様なバスタブに浸かった。
「はぁ、それにしても、今日は本当に良い買い物をした。そして、ついに私のコレクションが完璧になったのだからな。良かった、良かった。さて、シャワーでも浴びるか」
男は御機嫌で鼻歌なんて歌っていながら、ガラスで仕切られているシャワー室へと入っていった。
不意に鼻歌が止まった。
男は自分の体を見て言葉を失った。
その肉体には至る所に縫った後があったのだった。
―契約書―
この契約書にサインをされた場合、アメリカ人体研究所の人体実験に正式に人体を提供して頂いたこととなります。
今回は跳躍力の飛躍的強化実験にご協力頂きました。
また、再度人体実験がありましたら、ご協力していただきます。
―ゲームシューズ