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アダムとイブともう一人

16作目です。

 神はこの世を7日間でご想像なさった。

そこはまさに森羅万象全てが美しい。

差し込む日差しは、肌を焼くようなことはせず、身体を優しく包み込んで、吹き抜ける風はその優しさに爽快感を加えたりもする。


鳥のさえずりは心をあらわにさせ、一面の草木がそれを浄化してくれた。


そう、そこはまさに生物にとっての楽園、桃源郷なのである。

そんな、楽園にある日神様が、新しい生物を二匹お創りに成られた。


それは『人間』。


髪が長く胸が膨らみ、股間に棒のような性器がない方を「女」とし、「イブ」、髪が「イブ」に比べ短く、「女」とは逆の特徴を持った方を「男」とし「アダム」と名づけた。


この『人間』は知恵も無ければ、たまに四速歩行もしたりし正直、他の生物とは大して、差は無かった。

しかし、一つ大きな差。

それは、言葉だ。

何語かは知らない、言うなれば人類共通語を使い、細かな意思の疎通が出来る。

そのため、愛し合うように作られている全ての生物の中でもアダムとイブは他一倍愛し合っていた。


彼らは神の見守る中、「エデンの園」と名づけたその楽園で長い年月を一緒に過ごした。

子孫の残し方が分からないはずなので、神のご配慮で彼らの命は

アダム、寿命225年。

イブ、寿命230年と言った感じでかなりの長寿であったし、死ぬまで若くいられるようにしてあった。


そんな幸せな彼らだが、神は一つ実験台にと試作品に作っていた『ヒト』を野放しにしていたのだ。

彼は試作品ではあるが神から「アダー」と名付けられていた。

アダーには言葉が無かったため、神に訴えたくても無理難題というものである。


しかも、彼もイブやアダムと同じエデンの園にいたのだが、イブたちが中央にいる比べ随分と端の方で自分は何なのかを考え込んでいたため、イブたちにも気付かれること無くずっと一人であった。

しかし、彼には一人であろうと何人であろうと関係は無い。

彼には性別というものが無いからだ。

胸も無ければ、股間の辺りに性器すら見あたらない。

体つきもやせている訳でもなく、体格も言い訳ではない。するっとした何の当たり障りのなさそうな身体だった。

そんな訳なので、彼はイブとアダムと誕生したこの地球では不可思議な存在なのである。


そんな時、神が世界をぐるっと見て周るまで終わる事の無い、アダーの不思議な時間は置き去りにして、イブとアダムはエデンの園の本当の中心部に向かって歩き始めた。

ぷうんと甘酸っぱい匂いがするのだ。

彼が元々中心近くにいたため、そう時間はかからなかった。

そして、見つけたのだ。その匂いの源を。

それは一本の木だった。しかし、他の木とは違う。

生い茂る緑の葉の中に何個か赤いアクセントがある。

近づいて見てみるとそれは果実であった。


しかし、そこでアダムはふと思い出した。

自分たちが誕生するときに神に

「楽園の中心に赤い果実がある。しかし、それを絶対に口にしてはならんぞ」

と言いつけられていたのだ。


そんなことを思い出しているうちにその赤い果実に手をかけて今にももぎ取ろうとするイブをとめ、その事情を話した。

イブも

「そういえば」

といった表情をし、イブは赤い果実から手を離し、手をそこらの川で洗った。


二人が顔を見合わせ、

「帰ろう」

なんて時に、一匹の長い生物が彼らに話しかけてきた。

生物№13の「蛇」である。

蛇は巧みなしゃべり口で

「お二人さん、何でこの果実を食べないのかね?この果実は食べると甘酸っぱい爽快感が口に広がり、お二人さんを更に幸せにしますよ」

なんて誘惑をしてくる。

アダムとイブは少し迷ったが、やはりやめることにした。

すると

「お二人で半分ずつならいかがでしょう?」

なんて、蛇がまた言う。


しかも、彼らはそれにのってしまった。

罪を分け合うところに愛を感じたのだろうか。その果実を早速もぎ取り、二人で同時に噛み付いた。

たしかに。その果実は蛇の言うとおり今まで二人が味わったことの無いすばらしい味である。

美味い、というより果実の味の表現では珍しい旨いといった感じだ。

しかし、その果実を喉を通した瞬間彼らはその果実のように赤面した。

その果実は実は知恵の実。

彼らに知恵がつき、衣類を着用してないことが恥ずかしくなった。

つまり、羞恥心というものがついたのだ。


そして、それから何日かたち、神が何百年ぶりに世界を見回していると、味が忘れられずまた知恵の実を頬張る二人がいた。

神は激怒した。

何故なら、彼らが始めて神が制定した規則に反した生物だったからだ。


神は、彼らをその場で失楽園とし、エデンの園から追い出した。

また、彼らがまた戻って来れないようエデンの園を一つの惑星として地球の何百倍の大きさで宇宙に浮べることにした。その時、やっと気が付いたのだ、アダーに。

神は、自分が犯した罪をくやみ、お詫びにアダーにアダー自身の正体を説き、性別の無いアダーに繁殖方法を教え、エデンの園星の支配者にしてやることにした。


それから、神は地球で最初は二人だったがいつの間にか、1億何千万と増えた人類を大洪水で一掃したり、多くの災害を与えたりした。

だがしかし、さすが生物の中で唯一、知恵の実を口にした種族。

しぶとく繁殖し、いまや60億に達していた。


その同時期のエデンの園星は神が滅多にくることが無く、手が加えられることが無くあの頃のエデンの園、そのままといった感じであった。

あの頃と一つ違うのは、エデンの園に細胞分裂で増えた、いまや350億まで増えたアダーがただただ徘徊していた。

しかし、この徘徊も進歩につながる。350億のアダー全てが一つの固体のようなもので一つが石を見つければ、全員が石を見つけそれを知ることになる。

だが、知恵が無いため進化はしなかった。


そして、アダムとイブが誕生してから何億年たっただろう。

地球は終末期に突入に入っていた。

しかし、それと平行に科学も進歩していたため、人類は他の惑星に移住しようということになった。そして、光拡大天体望遠鏡で発見した少し遠めのの惑星に移住することとなった。

そこは、夢ような環境でまさに楽園の様だった。

十分、遠く移動する価値があった。


そう、そこはアダーのすむエデンの園星。


そして、人類は大移動を開始した。


数百年後、何世代も継いでついにエデンの園星のある場所に人類は辿り着いた。

しかし、そこには惑星は無かった。


アダーも何百年の間に350億の内の一匹が知恵の実を食して、失楽園になったのだ。

エデンの園星は、太陽に沈められたのだった。


人類は、大いに絶望した。

これまでの何百年に続く苦労はなんだったのか。

しかし何百年も同じ目的で行動していたせいか、人類は団結力と生存意識が高まっており、

「それではまた、我等が地球に戻り、この科学をもっと環境に向けて改善すればいいではないか。あの時の人類は、面倒だから。私がしなくても誰かが。と他人任せであったが今は違う。今の我々の心は一つだ。さぁ、もどろうぞ!そして我等で故郷の星の楽園ぶりをとりもどそうではないか!」

一人の男のその提案に反論するものはいなかった。

そして、地球へと人類はまた一つの目的を胸に何百年の旅をすることとなった。



アダムとイブは知恵の実を食しても、失楽園にはなったが、命は奪われなかった。

ならば、アダーはどうなったのだろうか。

エデンの園星と一緒に太陽に沈められたのだろうか。


いいや、違う。

アダーも失楽園となったのだ。


350億人のアダーの行き先は、アダムとイブ、つまり人類の失楽園同様。


地球であった。



神は実は失楽園後のアダムとイブにもう一つ約束を付け足していた。


「失楽園を抜け出しては成らぬ。抜け出したらその時点でお前らの種族は滅亡するだろう」


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