プロローグ
一定のリズムに合わせて座席から感じる振動と耳に届く車輪音は、少し荒く乱雑に見えて、案外とても心地よい。
さらに特急電車であることも相まってか、車内の空間はいつも乗っていたものと比べて薄暗いならも上品で快適だ。
「…………」
ただ、そんな風に旅風情を感じながらも、私の関心は常に目の前の文庫本に向けられていた。
電車が小さな駅に見向きもせず通過するように、私もこの空間に心を置かずに赴くままに読書を続ける。
無機質な時間だけが過ぎていく。
ふと、客車がトンネルの暗闇から出てすぐ、左の窓枠から日差しが差し込む。
「…………あ」
暗順応に慣れ始めていた目をすぼめて窓の外に視線を向けると、少し特徴的な風景に目が映る。
その山は、一般的に「桜島」と呼ばれている。
大海原に浮かぶのは、自らの存在を大々的に誇示するように鎮座する台形の山。
麓から山の中腹部までは緑が広がり、山頂までは山肌の情緒のない灰色が占める。
印象的な景色として、ある意味典型的なビジュアルで、ある意味典型的な構図で映るその光景。
そんなありきたりに思える景色にも、私の胸は少なからず高鳴る。
「…………」
しかし、その高鳴りは今の自分を突き動かすのに力不足。
重く沈んだ感情というより、起伏のない平坦な心持ちが、感情の変化を抑えてしまう。
景色を一瞥した後、私は目の文章に関心を向ける。
今のところ、この時間を私と一緒に過ごしてくれる存在は、こズの一冊の本しかない。
再び、先ほどと変わりないただただ空しい時間が始まる。
電車は次の駅に向けて、悠々と海岸線を進み続ける。






