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6 アンローディング


 シュドメルに戻って二十分ほどで積み込みが完了した。分厚いドアのエアハッチをくぐり狭い通路を進んでシュドメルの操縦席についた。隣の席に日菜子が座る。起動スイッチを押し込むと目の前にあった黒い三次元スクリーンが格納庫の様子を映し出した。

 オートで射出口へ向かう。シュドメルがゆっくり前進し、左へ曲がったのがスクリーンを見てわかるが、ほとんど体感的にはなにも感じない。

 でかいゲートの前でシュドメルは止まった。このゲートの向こうは真空だ。後ろのゲートが閉まったのをサブスクリーンで確認する。待機チャンバーのエアーが抜けるのをしばし待った。

 やがて目の前のゲートが開く。現れた長い射出レーンは数百メートルほどで、センターに赤いラインが光っている。その光が緑に変わった。


「よし、未知の惑星へお散歩だ」


 俺は日菜子の透明なシールドを、こつんと叩いた。


『隼人くんとデートだね!』


 日菜子は笑った。しかしそれは死のデートかもしれない。俺にとって大気圏突入は初めてだからだ。それは日菜子もわかっているだろう。クラスメイトの誰も経験したことはない。今回の実習で実践訓練を行う予定だったのだ。しかしAI任せなので、ほぼ失敗はしない。


「発進」


 電磁カタパルトがゆっくりシュドメルを前方へ押し出す。荷崩れ防止のためだ。いくらもスピードが乗らないうちに、ぽん、と俺たちは宇宙空間に放り出された。

 スクリーンには暗黒が映し出される。いくつもの白い光点。ちょっと前の無重量をふたたび感じ、俺は操縦桿を前に倒した。画面が上に流れ白茶けた惑星が映し出される。


「大気を雑にチェック」

『了解』


 シュドメルの声がヘルメットを通して聞こえた。スサノオ三号との通信はもうじき途絶える。これから先はシュドメル内蔵のAIを頼らなければならない。


『雑にチェック完了』

「最短時間で大気圏突入」

『了解』


 惑星の大気圏への突入は進入角度と速度が大切だ。失敗すると成功しない。AIに任せよう。

 ぐっと背中をシートに押し付けられる。加速したのだ。ぐんぐんとGが強くなる。ふとグローブになにかを感じた。日菜子が俺の手を握ってきたのだ。さすがの日菜子も緊張した面持ちだった。俺は日菜子のグローブを強く握り返した。


「大丈夫だ。信じろ」


 シュドメルを。

 日菜子はうなずいた。しかし、うなずくことももうすぐできなくなるだろう。Gはますます強くなる。惑星が迫ってくる。


『衝撃に備えてください』


 シュドメルが言った。もうすぐ大気圏に突入するので心構えをしてください、ということだ。

 大きな衝撃に船体が揺れた。スクリーンが真っ赤に染まる。大気との摩擦熱で船体が火を吹いているのだ。


『冷却シールド展開します』


 徐々に揺れが治まって視界が開けた。地形の凹凸がなんとなく確認できる。


『ふう』


 日菜子が息をついたが本番はこれからだ。


「マニュアル」


 操作を取り戻す。俺はアクセルを思い切り踏み込んだ。操縦桿を倒し地上への最短ルートへ向ける。つまり真下だ。なるべく早く地上へ着かなくてはならなかった。

 スクリーンがふたたび赤く染まった。俺は素早くクラッチを踏み、ギアを上げた。八速、九速、まだまだっ! 惑星とのチキンレースだ!


『隼人くん!』

 日菜子の悲鳴もお構いなしに俺はギアを上げていった。画面は真っ赤でなにも見えない。


『冷却が追いつきません』

「頑張れ!」

『了解、頑張ります』


 この速度では高度計はあてにならない。だいたいこの辺じゃないっすかね、くらいのものだろう。


『隼人くん!』


 日菜子の悲鳴を聞くと同時にブレーキを踏んだ。荷崩れしないようにそっとだ。やがて視界を取り戻し映し出された地表は思ったより近かった。


「オート!」

『ファック!?』


 たぶん俺の聞き間違いだろう。

 機首を上げたシュドメルは地表すれすれをものすごいスピードで通過して、徐々に速度を落としていった。


「適当な場所に着陸してくれ」

『了解』


 こういったファジーな要求にも即座に対応してくれるのは、優秀なAIを搭載しているからだ。


『あちちちちちっ!』


 と叫びながら日菜子は搭乗ハッチから飛び出した。


「ウソつけ」


 と言いつつあとに続く。


『えへへ』


 船外スーツを着ているので熱くはないはずだ。しかしシュドメルはかなり熱を持っていて、表面からはうっすら陽炎が立ち昇っている。

 重力は地球とあまり変わらないことはスサノオ三号にいる時からわかっていた。実際、体感では違いはわからなかった。

 地表は岩と石と砂だらけで殺風景だ。遠くには山がいくつもある。生き物は植物さえも見当たらない。


「よし、戻るぞ。カーゴオープン」


 シュドメルの後部の分厚いシャッターが静かに上がっていく。


『バイアクヘーはわたしに操縦させてくれる?』

「いいぞ」

『やった!』


 内部はさほど高温にはなっていない。日菜子がバイアクヘーの頭側面ハッチから乗り込み、機体を浮かすと外に出した。一度着陸し、俺が逆のハッチから乗り込む。

 上部は透明なシールドだが、他もまるでなにもないかのように足元の地面や周りの様子が見える。操縦桿とちょっとした計器があるだけだ。これは一種の立体映像だが遠近感はあまりない。モニターした搭乗者の頭の位置からそのように見えるよう、周りを囲む発光素体を光らせている感じ。頭を動かすと一瞬画像が歪むはずだが体感ではわからない。


『んじゃ戻りまーす』


 バイアクヘーが垂直に浮上し、ゆっくり前方へ加速しはじめる。どんどん高さを増していった。


『あっ、海だ!』


 日菜子の声に辺りを見回すと、遠くにそれらしいものが見える。


「水があるのは助かるな」

『行ってみる?』

「うーん、まずは荷物を運び出さないとな」

『そうだね、着陸できなきゃ水があってもだからね』

「そういうこと」

『飛ばすよ、しっかり掴まってて!』


 バイアクヘーが加速してGがかかる。空は青かった。

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