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5 落下中


 ラウンジへ戻るとみんな言葉もなく佇んでいた。壁際で床に直接座っているやつもいる。全員が確認したのだ。

 マモルの隣に座る。マモルは椅子の上で膝を抱えていた。


『調査報告について』


 フーユの声。誰も返さない。


『報告を受ける権限がありません』


 なにを言ってるんだ。だったら黙っておけ。


『緊急事態につき、権限の拡大を行えます。了承しますか?』


 みんな黙ったままだ。詳しい話が聞けるなら利用しよう。


「了承する」


 俺が言った。


『確認しました。わたしはあなた方のものです』


 俺は顔を上げた。この超巨大惑星開拓船の全権限をもらえたと? まあ、他に誰もいないので当然か。


『緊急事態。この船は落下中です』


 は? 宇宙空間でどこに?


「そ、外の様子を見せてくれ」


 壁面に大きなスクリーンが現れた。壁にはまっているように見えるがこれは立体映像のスクリーンだ。そこにはなにも映っていない。一面やや黄色がかった白。いや、端の方に曲線が見える。その向こうは黒い。これは――画面いっぱいに映る星だ。


「離脱だ! この星から離れろ!」

『ネガティブ。引力圏から脱出できません』


 落ちるしかないじゃん。終わった。


「着陸はできるかい?」


 マモルが聞いた。無理だし。この船は惑星に着陸するものじゃない。周回軌道にとどまって宇宙空間で物資や輸送船をあれこれするやつだ。建造も宇宙空間でやった。これだけの巨体が着陸したら自重で潰れる。


『不可能ではありません』


 微妙な言い方。


「着陸行動開始。ゴライアス全機による補強工事をするんだ!」


 ゴライアスは昔の巨人の名前だが、マモルが言うのは名前とは反対に人の膝までくらいの小型ロボットだ。ずんぐりしたボディーとキャタピラ駆動でとても人型とは呼べないが汎用性に富み、アタッチメントも豊富、無線で船が操作することも、自律的に活動することもできる。船体の補強などお手のものだろう。しかしそれで間に合うのか?


「さあ、僕たちは積荷を軽くしよう、輸送船を地上に降ろすんだ、荷物を満載にしてね!」


 船体を軽くして衝撃を和らげるのか――。


「よし!」


 と俺が立ち上がったとき、


『大丈夫ですよ、安心してください』


 フーユの声がラウンジに響いた。


『現在の成功確率、七十六パーセントです』


 安心できるか!

 ラウンジを見回すとテーブルに頭をつけたくしゃくしゃのショートヘアーがあった。これは小滝こたき日菜子ひなこだ。

 宇宙ソフトボール部の四番ファースト。県内屈指の強打者で、ついたあだ名が〝鬼スイングの日菜子〟。アスリート然とした筋肉質な体はカッコいいが、その上の顔が可愛らしいのでなんともアンバランスだ。身長は自称一六九センチ、実際は一七〇センチなのはみんなが知っている。自他ともに認める天然で、バストは超でかい。別名〝おっぱいモンスター〟。


「おい! 日菜子!」


 声をかけると日菜子は顔を上げた。涙と鼻水で濡れたその顔は子供のようだ。可愛い。


「いつまで泣いてんだ! 俺と一緒に来い!」

「う、うん」


 日菜子は背中を丸めて立ち上がった。まだ下着だ。深いおっぱいの谷間が見える。なぜこんなにでかくなるんだ。ただ不思議に思うばかりだった。

 のろのろとスーツに体を入れていく日菜子を叱り飛ばし、体が入ったらサイドの取っ手を掴んで思い切り引き上げた。日菜子のでかいお尻にスーツが食い込む。


「隼人くん、そんなに上げたら痛いよ!」

「お前は尻がでかいからしっかりやっとかないと!」


 がっつりお尻に食い込んだのを確認して背中のファスナーを上げる。背中の真ん中くらいから上がらない。


「おい、またおっぱいがでかくなったのか?」

「そ、そんなことないよ!」

「だったら寄せて上げろ!」


 日菜子は自分でおっぱいに手を当てもにもにする。やっとファスナーが閉まった時はただただ安心するばかりだった。

 日菜子のべとべとの顔をティッシュで拭き、鼻に当てる。


「はい、ちーんして」


 日菜子は思い切り鼻をかんだ。


「もう両親に会えないと思うのは悲しいと思うがな――」


 ティッシュを開いて日菜子の鼻水から体調の確認をしながら言うと、


「近所のお店の豚カツが食べられないと思うと悲しくて」

「そんな理由か!」


 日菜子のお尻を平手で思い切り叩いた。


「痛い!」


 日菜子のお尻は柔らかく、ぷるんと揺れた。が、ちょっと強く叩きすぎて悪かったかな、と反省しただけだった。

 装備を身につけ格納庫へ急いだ。規則は破るためにはないが破った。

 格納庫には、三階建てのビルほどの物資運搬航宙機が無数に並んでいた。シュドメルと呼ばれるこの運搬船は中はほとんどがらんどうだ。これにありったけの機材を詰め込んで地上に降ろすんだ。


「日菜子! こいつに資材やマシンを入れろ! できるだけ重い物からだぞ!」

『わかった! ウーラ、そうして!』

『はい、そうします』


 ウーラの声がすると、今まで静かに佇んでいた自動フォークリフトや自動手押し車が活動しはじめ、格納庫はにわかに騒がしくなった。俺たちはそれをぼーっと見ている。


「そうだ、バイアクヘーを積まなきゃ。いくぞ日菜子!」

『うん!』


 バイアクヘーは有人偵察機の通称だ。二人乗りの小型航宙機だが、未開拓の惑星を飛び回らなければならないので機体は頑丈で、宇宙空間でも活動できる。大気がない惑星もあるからだ。偵察機としての特性から足も早い。

 第十六駐機場には三十機ほどのバイアクヘーが佇んでいた。やや大きな先端部に続いて少しくびれた接続部、その後ろに大きな機関部があり、ウイングは見えない。大気があれば展開することもある。


『蜂みたいな形だよね』


 日菜子が言った。そう言われればそう見えなくもない。


「よし、この中でいっちゃんいいのを運んでくれ」

『どれも同じじゃないの?』

『どれも同じです』

「い、色が違うじゃないか」

『色のいっちゃんいいのは主観です』

『なにしにここへ来たの?』

「う、うるさい、自分で選ぶ!」


 別になんでもよかったが、オレンジ色の地に黒いアクセントが入ったやつを選んだ。スズメバチみたいだ。


「こいつだ」

『はい』


 自動牽引車がバイアクヘーの先端部を長いアームを伸ばして掴み、引っ張っていった。

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