4 フーユの不調
「マモル、フーユから報告はあったか?」
俺と葵はラウンジへ戻った。
「いや、ないよ」
ヘルメットを配送ボックスへ入れ、葵と装備品を外し合う。スーツ本体だけを身につけた状態になった。他のみんなもほとんどはスーツを身につけた状態だ。
「おかしいな、さすがに時間が掛かりすぎじゃないか?」
俺はマモルのテーブルについた。葵も隣に座る。
「フーユ、調査報告はどうなんだ?」
俺が言うと、
『調査中です、しばらくお待ちください』
俺はかくんと頭を前に倒した。うなだれたともいう。
「もう帰ろうよ、研修なんて今さら無理だし」
紅林莉緒の声。見るとスーツ姿でテーブルにだらしなく伸びている。しかし、態度はともかく言うことはもっともだ。
「フーユ、今は一体どの辺にいるんだ?」
俺が頭を上げて言うと、
『お答えできません。権限がありません』
と返ってきた。なんだと? 宇宙座標を答えられないなんてことはないだろう。
「マモル、フーユは壊れてるんじゃないか?」
俺は小声でマモルに言った。
「そうかもしれないね」
マモルが返してくる。
「おい、おかしいぞ」
声を上げたのはトラ、中西大河だった。クラスのムードメーカー、人を笑わすことに命をかけている男だ。今はタブレットをのぞき込んでいる。俺と葵がマザーコンピュータを起動しに行っている間に居室から持ってきたんだろう。なんだか顔色がよくない気がする。
「どうした?」
「時間を見てみろ」
「時間?」
「いいから!」
いつにないトラの剣幕に俺は時間を確認しようとしたが、なにもなかった。立ち上がってトラのタブレットをのぞきにいった。
「一体どうしたんだ」
「これを見ろ」
トラが指差したのは待機画面でそこには、
3208 09 13
「これがどうか――」
ちょっと遅れて気がついた。俺たちが地球を立ったのは西暦二二〇八年だ。丁度千年違っている。俺はため息をついた。
「トラ、冗談を言ってる場合か?」
「冗談じゃねえよ!」
トラの顔は真っ青になり、唇がわなないている。とても冗談を言っているようには見えない。
「フーユ! 今は何年だ!?」
『三二〇八年です』
――フーユは壊れてる。
「部屋に行って時間を確認するんだ、タブレットや腕時計を」
俺はラウンジを出て通路を走った。規則なんか知るか!
俺はタブレットを確認した。腕時計も。三二〇八年。
誰かがこの部屋に入った? 指紋認証を破れるか? この居住区の辺りは停電しなかったはずだ。このタブレットだって暗証番号が必要だ。そこまでしていたずらを。誰が?
間違いない。俺たちは千年寝ていた。二週間だと思っていたのが千年も。もう地球に帰っても親や親戚、知り合いもいない。
俺は通路に出た。規則を守ってラウンジへ戻る。