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3 無重量


『隼人くん、調子に乗って遠くまで行き過ぎ』


 助走をつけて無重量空間に飛び出した俺たちはあちこちにぶつかって、結局どちらが遠くまで飛んだとは確認せずエアーを噴射して通路を進んだ。

 バックパックの噴射口の角度や噴射量を腕の角度やハンドサインで調整して進むのだが、これが最初は難しかった。慣れたら面白く、つい曲がるところを行き過ぎたのだ。

 葵も別に怒ってはいない。


「お待たせー」


 と近くまで戻ってきたものの、葵はもう通路を曲がったようだ。ブレーキをかけて通路をのぞくとすぐそこに葵が浮かんでいた。


『んじゃ行くよ』


 葵の体が前に傾き進んでいく。エアーの噴射は見えない。葵の丸いお尻を追った。平気。

 しばらく行くとスロープと通路が複雑に絡み合った中央大回廊だ。


「何階上だっけ?」

『十階かな。近くてよかったよ』


 吹き抜けを上がり、通路を二、三回曲がると目的の中央制御室に着いた。


『ここだね』

「ああ」


 二枚のスライドドアで塞がれた出入り口だ。ここは電力が切れたらレバーを操作すれば簡単に開く。無重量状態でも簡単だ。第一の部屋は左右にコンソールがあってモニターがいくつか並んでいる。奥は一枚ドアだ。ここも簡単に開く。

 第二の部屋は狭い通路のようになっていた。両脇に並ぶのは黒い箱をいくつも積み上げたようなものだ。電力が来ていないので沈黙している。


「ひとりずつ通るか。先に行く。ぶつかるなよ」

『隼人くんこそ』


 葵は笑った。

 短くエアーを噴射して慎重に進んだ。ちょっと触れたが問題あるまい。


『三回ぶつかってたよ』

「ぶつかってはいないだろ」

『ふふっ、行くよー』


 葵が狭い空間をふわふわと飛んでくる。一度も触れずにこっちに来るかと思ったが、あと少しというところで一気に通り抜けようとしたのか、エアーの勢いが強かった。


『あっ』

「おい!」


 体をひねった葵が俺にぶつかってきて俺の股間に柔らかいお尻が押しつけられた。


『ごめーん』

「気をつけろよ」


 なにごともなかったよう、というか、なかった。

 最後の扉は幅のある両開きで壁の近くは黒い箱も置かれていない。葵と左右に分かれて壁の近くの安全装置を外す。停電対策なので機械式だ。絶対に開けさせないというものではなく、侵入者対策と考えるべきものなのかも。安全装置を外せばレバーを同時に操作してロック解除だ。


「いくぞ。ワン、ツー、さん!」


 がこん、と音がした。扉を開く。中央奥寄りになにもないテーブルがあって、周りの壁はモニターだらけだ。


「どこだ、スイッチ」

『探そう』


 テーブルの天板の裏にそれらしいのがあった。


「これかな?」

『押してみて』


 押した。

 特になにごとも起こらない。


「違うのか?」


 俺がそう言った時、


『隼人、葵、重力装置の復旧に備えてください』


 ウーラが言った。


「ちょっ、備えるって」

『あっ、隼人くん、押さないで!』


 俺はうっかり葵の足を背中で押してしまったようで、葵が回転しはじめた。


「葵!」


 手を伸ばした時に重力が戻った。俺はうつ伏せに倒れ、葵が背中に落ちてきた。どこが乗ってるのかわからない。ちっとも残念じゃなかった。


『よいしょ。ごめんね』


 よいしょは最近――といっても千年前か――流行の若者言葉だ。力を出す場合やなにか行動を起こす際に使用される。女子に人気だ。よいちょ、と言うパターンもある。


「もう少しすまなそうに謝れ」


 ふたりは体を起こした。


『起動できたのかな?』


 部屋は照明が点き、モニターは船内のあちこちの様子を映している。


「フーユ」


 ポゥン

『はい、隼人』


 ウーラとは違う、もっと落ち着いた人工音声が聞こえた。復旧できたようだ。俺と葵は顔を見合わせて微笑みあった。


「フーユ、船内でなにか異常が起きたみたいだ。調べてくれ」

『はい、隼人』

「よし、次はサブコンピュータだ、葵」

『うん』


 ふたりが立ち上がりかけた時、


『それは必要ありません、隼人。再起動しました』


 フーユが言った。


「お、さすがマザーコンピュータだ。じゃ帰るか」

『そうね、カートをよこして』


 俺たちは歩いて中央制御室を出る。すでに電動カートが来ていた。カートに乗るとすぐ発進した。会話から目的地を判断したのだ。ヘルメットを外し、俺たちはのんびりラウンジへ戻った。

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