22 炭かダイヤモンド
昼からは床を張った。
高さ三メートルほどの横棒に、半分にした丸太を人型フォークリフトで乗せていく。横棒の溝に、半分にした丸太に作った出っ張りをはめ込むようにして組んでいく感じだ。複雑に凹凸があるうえ丸太の端っこをちょっと削っているので、現場監督ゴライアスに確認しながらやっていく。
横棒からは二メートルばかり突き出ていて、回廊のようなベランダを付けた。床材がベランダにならない面は、金具を使ってなんとかした。
川とは反対側のベランダに、幅三メートルほどの階段をつけた。丸太を半分にしたステップは、なかなか雰囲気が出ている。
床と階段を作ってその日の作業は終わりにした。
昔の服に着替えると、みんなで作りかけの家に登った。壁も天井もない。
「木の家かあ、なんかいい香り」
「すごいなぁ、たった三メートルなのに高く感じる」
「あんまり端っこいくと落っこちるよ」
「結構頑丈だね」
木製のこんなに大きなものは、俺たちの誰も眼にしたことはないだろう。それだけで楽しかった。
「家の下で火を使ったら火事になるかもしれないでしょ!」
家の真下のかまどに火を付けようとした小松を、彩香が叱りつけた。家からかなり離れたところにかまどを移した。
必要もないのにたき火をする。二酸化炭素を放出してかえってテラフォーミングの邪魔をしている気もするが、きっと考えすぎだ。
「ちょっと調べたんだけどさ」
若菜が言った。
「バーベキューって、炭火で肉や野菜を焼きながら食べるのが楽しいんだって」
「炭火?」
「焼きながら?」
どうもぴんとこない俺たちだった。
「炭とかないだろ」
テラフォーミングに炭はあまり使わない。地球でも炭で火を熾すなんて聞いたことがない。オール電気製品だからだ。
「ダイヤモンドを燃やすか?」
辻村が言った。工業用ダイヤモンドなら、かなりの量があるはずだ。
「どうして焼きながら食べるのかな? 時間かかっちゃうよね?」
「きっと忘れられる肉も出てくるよ」
真っ黒に焦げちゃうんだな。
「うーん」
俺たちは頭をひねるばかりだった。結局みんなで焼き肉定食を食べた。
「森の中でなにか見たか?」
食後に俺たちは、作りかけの家の床で輪になって座っていた。真ん中に全方面ライトを置いている。別名ランタン。周りは真っ暗な風景だ。
「鹿が遠くにいるのは見たな」
「足元をがさがささせるのはいたけど姿は見てない」
「ネズミかな?」
「花が咲いてたよ。ちっちゃくて可愛いの」
「なんて花?」
「わかんない」
特に珍しいものはなく、俺たちはただ遊んでいるだけに等しいことがわかった。
「ま、調査は家ができてからだね」
彩香はすっかり家づくりに夢中だ。
「わたし、今晩、ここで寝る」
こんなことまで言い出した。
「屋根もないのに?」
空を見上げれば満天の星空だ。大気があるので瞬いている。
「雨は降らないでしょ、これだけ星が出てれば」
「ふーん、俺もここで寝よ」
小松が言った。
「じゃあ、わたしも!」
「俺も!」
結局みんなで寝ることになって、超高性能マットと超高性能シーツを持ち込んだ。
「超高性能って付ければスゴい、みたいなのって、どうかな?」
「うるさい」
女子はパジャマだの浴衣だのネグリジェだの前時代的な寝具を着ていて、風邪を引かなければいいと心配になるばかりだった。俺は上下スウェットという寝具を着た。
星を見ながらおしゃべりをして、みんなそのうち眠ってしまった。上下スウェットは暑かったが、超高性能シーツを被れば快適だ。




