21 家を建てよう!
「川で水浴びしてくる!」
草原を登って降りてきた時には夕暮れに近かった。女子たちがディープワンにいったん引っ込んだあと、カラフルな下着のようなもので出てきた。ビキニという水着らしい。浮力も生命維持装置もないただの布切れで、昔の人は水に入っていたのだ。野蛮だったんだなあ。
せっかくなので、俺も半ズボンタイプの水着で川に入った。川の水は冷たくて気持ちよかった。
冷えた身体を焚き火で暖める。暗くなってきて、焚き火の灯りが俺たちをオレンジ色に染めた。なんだか落ちつく。キャンピングマニュアルでお勧めするわけだ。
「明日からはどうするんだ?」
小松が言った。
「ハイキングしながら色々見て回るってことだったよな」
辻村が言った。
「それよりさあ」
声を落として言うのは若菜だ。
「ここに家を建てない? 寝泊まりできるような」
「ディープワンがあるのに外で寝るの?」
彩香が眉をひそめる。
「外じゃないよ、家を作るの」
「木の家なんて、外と同じだよ」
「面白そうだな」
入江が言った。
「うん、楽しそう」
愛梨が笑う。
「ちょっと、本気?」
「詳しく森を調べられるじゃないか」
俺が言った。木材の加工ならディープワンの設備とゴライアスたちがいれば、そう難しくはないだろう。
森の探索という名目で、明日からはここに家を建てることになった。
「じゃあ、晩ご飯にしようよ。またカレーにする?」
「いや、夜のキャンプ飯といえばバーベキューだ!」
「なるほど!」
俺たちはフードマシンでバーベキュー定食をテイクアウトして焚き火の周りで食べたが、なんだか違うような気がした。
◇◇◇◇
翌日はスーツを着て作業した。危険だし、力が必要だからだ。
ディープワンに二台備え付けられている、折りたたみ式人型フォークリフト。それを使って、俺は木材を運搬することにした。人型といっても、多関節の細長い手足がバックパックから伸びているようなものだ。足の先端はふたつに分かれていて四点支持で立つことになる。腕の長さは最長五メートル、脚は三メートルほどだ。頼りなさそうな見た目だが、運搬可能な重量は四十トン。木材など余裕だ。
四本脚の高床式のログハウスを作ることにした。
あまり太くない木を、超振動ノコギリを使って他のやつらが倒していく。超振動ノコギリはバターのように木を切ることのできる優れものだ。雑に枝を落とした木を草原に運ぶと、ショゴスと入江がそれを丸太に加工していく。
草原のたき火の周りには穴が四つ掘られていて、その中に河原から持ってきた大きな石を放り込んでいる。丸太で突き固めた簡易基礎だ。そこに丸太を立てるのだが、はめ込みの穴を加工するのでまだなにもない。穴の間隔は八メートルほどだ。
ショゴスをオフラインにしたので、ディープワンで半オート設計した3D図面通りにレーザー墨付けするのに護衛用ゴライアスの一機を、加工仕様に変えた。現場監督ゴライアスだ。
昼までに四本の丸太が立ち、横丸太を二本ずつそれぞれの縦丸太から張り渡したものができた。見えないところに金属ボルトを使っている。縦丸太を入れた穴は埋め戻した。
「ゴライアスをもっと持ってくればよかったね」
骨組みの中に座り、みんなでカレーライスを食べている時に若菜が言った。
「そうすりゃ全部任せられたな」
辻村が言った。
「でも、それじゃあつまらないよ」
小松が骨組みを見上げた。簡単な加工と機械の力を大いに使ってできたものだが、自分たちで作ったものだ。
「そうだよ、わたしたちで建てた家に住みたいな」
彩香が言った。
「あれれ? 最初反対してたのに」
若菜がにやにや笑いを彩香に向けた。
「な、なによ、今だって外に寝るのはホントは嫌なんだからね」
彩香は少しだけ顔を赤くした。
食事が終わって、みんなで丸太に背中を預けて仮眠を取った。




