17 ハイキング
「どうやらかなりの数の動物を放ったみたいだよ」
ネズミを放ったら増えすぎて、イタチを放ったら増えすぎて、狼を放ったら餌が足りなくなって鹿を放って、みたいなことらしい。
「あとは、植物が育たないところがあるね」
この星の陸地比は約四割。地球が約三割なので、だいぶ陸地が多い。その分、内陸部には雨が降りにくいところが多いようだ。
「陸地を削って内陸部まで海水を引こうと思うんだ」
砂漠地帯まで幅五キロのまっすぐな運河を掘るということだ。大丈夫かな?
「大きなことはこれくらいかな。特にやることがない人はハイキングに行ってもいいよ。自分たちの眼でしばらくこの星を観察しよう」
「やった!」
「いい場所があるかな?」
「キャンプというやつをやってみたいな」
「自分の町を作ってもいいか?」
「人はいないけどいいよ」
「あたしは木の上に家を作る!」
「なにかおかしな事があったら報告してよね」
「あたしは農場作らなきゃ」
などと大騒ぎになった。俺は急いで特殊航空機の格納庫に行って、小家族用植民準備機を押さえた。大気改造する前、もしくは困難な星にドームを作って生活する際に、最初期の拠点とする移動家屋みたいなものだ。通称ディープワン。十人程度の人員用に設計されている。
直接格納庫に来たのは大きさを確認するためだ。幅十メートル、高さ十メートル、奥行き二十メートルほどの、外見はただの箱。これなら場所も取らずに好きなところに着陸できるだろう。
ラウンジに戻ると仲間を募った。マモルはしばらくここに残って作業があるという。
千代音を誘った。
「うーん、わたしは動物の個体数の確認と、放獣の計画を立てないと」
歩きながら俺と話していた千代音は、そう言いながら下着姿の莉緒とぶつかった。
「いった! ちょっと千代音!」
千代音の持っていたシャープペンシルが、莉緒のどこかを刺したようだ。
「あ、ごめん。赤い血が出てるね。赤い血」
「もう! ちょっと保健室行ってくる!」
莉緒はラウンジを飛び出した。だいたいの怪我は一瞬で完治する。しかし、
「千代音、やめとけ」
「わかった」
千代音はわざと莉緒に血を流させたのだ。恐ろしい子。
とにかく莉緒は人間とわかった。
「まあ暇が出来たら一緒に調査しよう」
「うん」
そんなこんなで男三人、女三人が一緒にハイキング兼調査に行くことになった。相談して、千二百年前の服装で行くことにした。タブレットのカタログから選べばすぐに工場ゾーンで作って送られてくる。それぞれが思い思いの服を選びながら、夜は更けていった。
◇◇◇◇
翌日は快晴だった。
『忘れ物はありませんかー』
小家族用植民準備機ディープワンのサブ操縦席で榊彩香が言った。胸とお尻の大きな色っぽい美人女子だが、性格は気さくなので話しやすいと思うばかりだ。現地に着くまではみんな船外活動用スーツを着ておく。現地といっても特に決めてない。飛びながらよさそうなところを探す予定だ。
猛獣対策に護衛仕様にしたゴライアス四機と、ノーマルゴライアス一機を積んでいる。
特に忘れ物はないようだ。
『じゃあ隼人くん、よろしくー』
彩香が言って、射出レーンからディープワンが飛び出した。




