表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/23

16 確認


『大丈夫?』

「ああ、ちょっとむずむずしただけだ」


 船内にはないなにかが鼻を刺激したのだろう。


『バイタル正常。気分は?』

「最高だ。へっくし!」


 その後しばらく様子をみたが、くしゃみ以外に特に問題はない。くしゃみはそのうち鼻が慣れて治まるだろう。


『わたしも外す』


 千代音が言って、ヘルメットに手をかけた。ロックの外れる音。千代音はヘルメットを持ち上げた。


「うわあ」


 千代音のぱっつん前髪が風にそよぐ。大きく息を吸った。


「すごい!」


 千代音が明るい眼で俺を見上げた。


「くちゅん!」


 やっぱり鼻は刺激を受けるようだ。

 しばらくふたりでくしゃみしながら大気を味わっていたが、ふと思いついた。


「千代音、スーツも脱がないか?」

「あ、うん、いいけど」


 俺たちはビヤーキーから降りてスーツを脱いだ。お互いに下着だけになる。生温い風を全身に感じた。


「ちょっと上の方に行こう。へっくし!」

「うん。くちゅん!」


 草原は裸足ではほんの少しだけ痛いところがあったが問題ない。ビヤーキーから五十メートルほど離れた。


「ここでいいだろう」


 俺は草地にしゃがんだ。


「どうしたの?」


 千代音が俺の前に下着のまましゃがんだ。無問題。


「聞かれたくなかったんだ、AIに」


 スサノオ三号やビヤーキーにはセンサーがあちこちある。秘密の話は不可能だ。だが、ここなら。

 俺はフーユやウーラ、アンドロイド、生き残りなどの話を千代音に聞かせた。


「アンドロイド……待ってて」


 千代音はビヤーキーに向かって走っていった。千代音の小さいお尻が揺れるのを眺めながら、なにをしに行ったのかと思うばかりだ。

 すぐに戻ってきた千代音は小さな尖った工具を持っていた。


「アンドロイドの体液は白いよね? くちゅん!」

「ああ。へっくし!」


 アンドロイドの体液が白いのは間違いない。

 千代音は自身の左手、その親指の付け根の膨らみに、尖った工具をぷつりと刺した。


「あっ、おい」


 千代音の小さな手に赤い血の玉が膨れ上がし、つうっと流れ落ちた。


「舐めて」


 手を差し出す。舌で舐めとると、血の味がした。


「隼人くんも」


 俺に工具を差し出す。受け取って、手のひらに向ける。

 もし白かったらどうしよう。

 ちょっとびびりながら、工具を突き刺した。同じように赤い血が玉となって流れ落ちた。千代音の小さい舌が俺の血を舐めとる。無問題。


「わたしたちは人間」


 千代音は真面目な顔でうなずいた。

 俺たちは徹底的な検査を常時受けているし、高度な医療でウィルスなどには完璧に対処できるが、千二百年前の人がやったら大変なことになる。絶対に真似をしないで下さい。


「やっぱり怪しいのはフーユ? くちゅん!」

「そうだが、フーユは俺たちが眼を覚ました時は落ちてたんだよな。へっくし!」

「あの時生きてたのは、ウーラ? ウーラが怪しい?」

「AI全部かもな」


 結局なにもわからず、俺と千代音はビヤーキーに戻ることにした。


「あれ? なにか通信が入ってるぞ?」


 ビヤーキーのメーターパネルに着信のウィンドウが点滅している。


「マモルに通信。マモル、なにかあったのか?」


 俺はのろのろとスーツに足を突っ込みながら、外部センサーを使って交信した。


『ああ隼人、よかった、無事だったかい。まさかスーツを脱いでるの?』

「ああ、風が気持ちよかったからな。無事ってなんだよ。空気は悪くないと思うけど? へっくし!」

『フーユが放った動物を確認したら、猛獣をいくつか放ってるんだよ』

「ええっ!?」

「増えすぎると困るから。くちゅん!」


 言いつつも千代音のスーツを着る速度が上がった。


「急げ急げ!」

「隼人くん、お願い!」


 背中を向ける千代音を、きゅっとして装備をつける。ヘルメットを被ってビヤーキーに跨がろうとした俺を、千代音が呼び止めた。


『待って待って!』


 きゅっ。

 俺たちはビヤーキーの高度を三メートルにして、森の外側を探索した。特に猛獣を見かけることはなく、草地で急いで操縦を交替するとスサノオ三号に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ