表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/23

15 なにかいる


「コ、ス、モ!」


 宇宙ジャンケンで勝った俺が行きの操縦をすることになった。ハッチを出るとまだスサノオ三号内だ。大きな作業スペースに開けっ放しのゲートがある。その向こうは外だ。3Dプリンターで作った建物の向こうに緑の森林、ジャングルがある。

 ゆっくりスサノオ三号を出ると、土の斜面が下っている。上部が丸くなった建物の周りには、シリコンタイルを敷く箱型のマシンが右往左往している。建物の周り百メートルほどは植物はないが、その先はもうジャングルだ。


「高い方に行ってみようか」

『うん』


 千代音が俺の胴にしっかりしがみついた。

 左手が丘になっている。俺はビヤーキーをジャングルに進めた。高度を二メートルほどにして、木々の間をゆっくり進んだ。

 ジャングルと言っていたが、熱帯性の植物はあまりなかった。スサノオ三号の着地地点は北緯約二十五度。これは台湾の北の端と同じくらいだ。


「地軸の傾きはいくつだっけ?」

『えっと、二十度くらいだったかな』


 地球の地軸の傾きは二十三度ちょいだ。ほとんど同じだから地軸を変える必要はなさそうだ。

 地軸の傾き調整に失敗すると、最悪恒星に落下するか、宇宙の彼方に飛び去ってしまう。過去に二、三個惑星をダメにしたとのことだ。責任者は歴史に名が残る。

 外気温はスーツのセンサーによると摂氏三十二度。暑いが耐えられないほどじゃない。

 小川を越え、斜面を登っていくと、開けた場所に出た。地滑りでも起こして山肌が流れてしまったのだろう。やや傾いた草原だ。大きな樹木はない。

 俺はビヤーキーを止め、高度を下げた。着地する。

 草原は波のように風に揺れているが、スーツの俺には風は感じられない。ヘルメットを外してみようか。


「千代音、ヘルメットを――」

『隼人くん!』


 千代音が慌てた声で、俺の言葉を遮った。


「どうした?」

『な、なにかいる』


 千代音が指差す森の中に、じっとこちらを見つめるふたつの眼があった。


「え? どういうことだ?」


 動物は冷凍睡眠と胚とで多種多様のものを用意しているが、その動物を放つのはこれからのハズだった。それなのに、鹿が俺たちを見つめているのだ。


『鹿かあ』


 千代音はほっと息を吐いた。


「いやいや、おかしいだろ。動物はこれからなのに」

『あ、そうか』

「マモルに通信。マモル!」

『なんだい、隼人?』

「鹿がいるぞ」

『ああ、そうみたいだね。フーユがいくつか放ったみたいだ』

「あ、そういうこと。わかった」


 俺は通信を切った。


「フーユのしわざらしい」

『そう』

「個体数の確認はあとにしてさ、俺はこれからヘルメットを外そうと思うんだ」

『ええ?』

「さっきもそうしようと思ってたんだけど、ちょっと怖かったんだ。でも、鹿がいるなら安心だ」

『危ないかも』

「そこで、なにかあったら助けて欲しいんだ」


 千代音は少し迷うふうだったが、やがて、こくんとうなずいた。


『わかった』

「よし、じゃあ外すぞ」


 俺はヘルメットを両手で掴んだ。少し持ち上げると、かちりとロックが外れた。緊張する。思い切って、ヘルメットを持ち上げた。

 温かい風が髪を撫でた。息を吸う。大量の匂いが流れこんできた。草の匂い。樹木の匂い。花の匂い? 大地の匂い。すごかった。地球でも嗅いだことのない、緑に満ちあふれた匂い。これが、この星の匂いだ。

 大きく息を吸う。特に違和感はない。


「へっくし!」


 鼻に少しあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ