14 三百年後
冷凍睡眠装置の中で目が覚めた。ぼんやりした頭でフードマシンに向かう。なににしようか迷っていると、
「隼人くん、もう忘れちゃったの?」
琴子がお尻であいさつしてきた。
「あ、そうか」
お目覚めセットだった。
ラウンジにいくとマモルを見つけて隣に座った。
「おはよう」
「おはよう」
言葉は少ない。みんなものろのろと、お目覚めセットを口に運んでいる。そのうち頭がしっかりしてきた。
「フーユ、周りの様子を見せてくれ」
いくらか植物が定着してくれればいいのだが。そうしたら次の段階に進めるのに。
壁面のディスプレイに惑星の現在の状況が映し出される。
「なんだ、これ!」
俺たちは驚愕した。映されたのは、スサノオ三号の側面からのものと思われる俯瞰映像だったが、いくらかどころではない。遥か昔に地球では失われた、アマゾンのジャングルのようだった。地平線の彼方まで緑色だ。
「また千年寝たんじゃ!」
置きっぱなしだったタブレットを持ったやつが慌ててのぞき込む。
「三百年だ……」
予定通りのようだ。
「三百年でこんなになる?」
誰かが言った。
「地球だったら人がいなけりゃこれくらいはなるだろ。しかし、なにもなかった星でとなると」
「でも、実際こんなだし」
「まあなあ」
「ちょっと眠り過ぎちゃったね」
環境が整い過ぎていて、思ったより育ってしまったのだ。
「フーユ」
マモルが言った。
ポゥン
『はい』
「大気組成は?」
『窒素七十八パーセント、酸素二十パーセント、二酸化炭素一パーセント、アルゴン一パーセントです』
地球の酸素割合は約二十一パーセント、ほとんど同じだ。
「外で呼吸出来るんじゃない?」
「数値だけ見ればな」
『可能です』
「へー」
「細菌はどうかな?」
「危ないものはないはずだぞ」
細菌は突然変異でダークサイドに堕ちやすいので注意だ。
「まあスーツを着て出てみよう」
そういうことになったので茜を誘ったが、菜園班で調査するという。前髪ぱっつんの小柄な女子がタブレットを見ていたので声をかけた。
「千代音、俺と外に行かないか?」
坪内千代音。ひとりになりがちなクラスメイト。可愛い顔をしているが、だいたい暗い眼をしている。動物たちの管理担当だ。
「隼人くん。わたし、準備をしないと」
「その前にジャングルを見とかないとならないだろ」
これからが千代音の出番だが、実際に動物を放つところを確認する必要はあるはずだ。
「そうだね、行こう」
千代音は立ち上がった。小柄な身体だが割とメリハリがある。少し意外に思っただけだった。
船外活動用のスーツを装備一式かっちりつけ駐機場へ向かう。
「あれ? ビヤーキーがないぞ?」
小さい方だ。大きい方、バイアクヘーはいくつもある。
『出払っちゃった?』
ポゥン
『隼人、千代音、ビヤーキーは一階にあります』
ウーラだ。
『一階にゲートを設置しました。ビヤーキーなどは直接地表に出られます』
なるほど、飛行タイプじゃないマシンを出すのに、いちいちシュドメルを使わなくていいわけだ。
「よし、行こう、千代音」
『待って、隼人くん』
「どうした?」
『あの、スーツを』
「あ、ごめん、忘れてた」
俺は千代音のスーツの把手を引っ張り上げた。きゅっと千代音のお尻にスーツが食い込む。
『ふう』
千代音はなんだか安心したようだ。俺もきゅっとしてもらって一階へ向かった。




