13 種蒔き
シュドメルの後方モニターには、白い煙のようなものが映っている。シュドメルから吐き出される、雑木林ミックスのシードカプセルだ。雑多な植物の種を特殊な科学樹脂でひとつひとつ包んだもので、水に濡れれば樹脂は溶け栄養素となる。
大陸の内陸部に茜とふたりで撒いている。内陸部に撒くのは海への流れ込みを抑えるためだ。自然と海側へ種は広がっていくだろう。
『こんなんで根付くのかな?』
「一次散布だからな。育たなかったら二次散布の栄養になるさ」
『ふーん。雨よ、降れー!』
「お、雨雲だ。あっちで撒こう」
『よし、それっ』
茜が操縦桿を傾けて、シュドメルは方向を変えた。
『あ、海はうまくいってるみたいだ』
夕暮れになって帰還するシュドメルの中で茜が言った。
遠くにある海は真っ赤になっていた。
「へー、もうあんなになるんだな」
海には蛍たちが海洋性の藻類を撒いた。藻類が光合成で発生させた酸素が、海水に溶け込んだ鉄分と反応して赤くなっているのだ。酸化鉄はそのうち沈殿して色はなくなる。そこから海水に酸素が溶け込み始める。酸素を必要とする生物が生きていけるようになるのはそれからだ。
『もうすぐ天然の魚が食べられるな』
「気が早いな。次はドライプランクトンだろ」
俺は笑った。
スサノオ三号近くの地表では巨大な3Dプリンターが組み立てられている。土砂と特殊硬化剤を混ぜたもので、外壁や天井をプリントするのだ。
鉱石を採掘して精錬する工場は、もうちょっと先になるだろう。今はドローンと山師マシンが資源を探しているところだ。
同じ作業を続けて三日目、地表に緑色をいくつか見た。
『隼人、降りて見たいな』
「そうだな、せっかく芽吹いたのを潰さないようにしろよ」
『シュドメル、そうしろ』
茜は操縦桿から手を離した。
着陸したシュドメルから外に出ると、茜は辺りを見回しながらどこへともなく歩いた。俺はそれを追った。
『あったぞ!』
茜が岩だらけの大地を走った。茜がしゃがんだところに追いついてのぞき込む。岩盤の岩の陰に、小さな双葉が開いていた。少しの土ぼこりの溜まりに根を張ったようだ。
『可愛いな』
「ああ」
けなげに根を張ろうがんばっている。
『でも、ちゃんと育つのか?』
「なんの植物かわからないけど、難しそうだな」
俺は身体を起こした。空からこんなちっぽけな若葉が見えるわけない。もっとたくさんの芽が出ているはずだ。俺は辺りを見回す。あった。
「おい、茜」
俺は茜のヘルメットを軽く叩いた。
『あいた。なんだよ』
茜が立ち上がって俺の指差す方向を見る。大きな緑が広がっていた。
『おお!』
二、三歩足を進めた茜だったが、
『ちょっと待って』
と双葉のところにしゃがみ込んだ。すぐに立ち上がった茜は両手ですくうように、土ごとの若葉を胸の前に掲げていた。
ふたりで緑の広がりに行くと、窪んだところが砂の吹き溜まりのようになっていて、そこにびっしりと芽が吹き出ていた。
『すげえな!』
葉の形は様々だった。俺たちが撒いたものだ。
『ここならこいつも育つだろ』
茜はそっと若葉を地面に置いた。
まだ土中の成分も充分ではないだろうが、大きく育ってほしいと切に願った。隣で静かに緑の広がりを見つめる茜もきっと同じ思いだろう。
それから二日が経った。
「本当に微量だけど酸素も増えてきているよ。植物の種も芽生えてるから、三百年ほど眠ろうか」
植物群が安定してから次の作業に移ることになる。フーユに環境管理の指示を出して冷凍睡眠することになった。フーユが対処できない突発的な事態が発生したら俺たちを起こすようにした。
「わたしたち、必要なのかな?」
「うるさい」
などと言いながら、俺たちは冷凍睡眠装置に入った。




