第21話 【盗賊バクスター視点2】
「さて、僕からの話は以上だ」
アルベランは手をたたいて話を打ち切った。
「実家の宝物庫が開かれている。好きな物を持って行っていいよ。場所はバクスターが知っている」
思わず渋い顔になる。
今頃になって泥棒に入ったことを蒸し返されるとは。
「アストリア一党の武具もあるのか?」
君の斧程の武器はないから、防具や装飾品を探すと良いよとアルベラン。
カーロッタは魔道具や魔導書に興味を示す。
ポロンと竪琴を鳴らしたレオナルドにアルベランが
「アストリア一行に吟遊詩人はいなかったから装備品は装飾品などだね」
と答えれば、竪琴の音色がどことなく悲しげに聞こえる。
「じゃあ僕のも無いよね……?」
自信なさげに聴くミミルの希望を打ち砕くようにアルベランは頷く。
まあ、アストリア一行は冒険者というより魔王討伐隊の側面の方が強かったから仕方ない。
「俺は一足早く死の谷に赴くから準備ができ次第みんなも来てくれ」
「待ちな」
退出しようとしたアルベランをカーロッタが呼び止めた。
「……なんだい?」
アルベランは珍しく気不味そうに振り向く。
「ここを出る前に、今日あったことを聞かせて貰おうか」
今朝の出来事……聖堂であった奇跡の話で、すでに領内は持ちきりだ。
この状況で渦中の人が何も話さないなど、話題を避けているとしか思えない。
「何やらお姫さんがお前に祝福とやらをお授けになったそうじゃないか」
「……まあ、そんなこともあったね」
歯切れの悪い返事を返すアルベラン。
「変化はあったのかい?」
カーロッタの問いを聞き、アルベランは拳を握ったり開いたりを繰り返し、体の調子を確かめている。
「いや、特に何もないみたいだ」
「ふむ……聖女の能力に迫れるかと思ったんだけどねぇ……」
アルベランを注視し、魔素に変化も見られないようだと呟く。
俺は、クリスティアナが魔法を使ったところを見たことがないし、本人も歴代の聖女が得意としていた神聖魔法も使えないと言っていた。
カーロッタは神聖魔法も使いこなすことから、聖女の祝福について別の何かだと推測しているようだ。
「何かわかったらすぐにお言いよ」
「そうするよ」
今度こそ出ていくアルベランを見送り、俺たちも準備を整えるために冒険者ギルドを後にした。
準備を整え死の谷へ到着し、クリスティアナを口説くのを断り頬をつねられた俺とミミルには早速仕事が舞い込む。
ミハイルとかいう初対面の貴族令息への礼儀もわきまえないクソガキの面倒を見ることだ。
ミスリルの馬車で外部の情報を遮断し、その間に兵士の装備品を旧式で揃え警備を薄くするという手の込んだ嫌がらせの実行部隊として、忙しく飛び回ることになった。
クリスティアナの元まで誘導し、彼女の命令で嬲り殺す気だったが、結局彼女はミハイルの身勝手な言い分を断り、逆上した彼を手ずから返り討ちにしてしまった。
久々に会ったクリスティアナは元気そうで、早くエミッタと会わせてやろうと思う。
それにしてもこんなに綺麗になった彼女を振るとは、王太子は何を考えているんだろうね?
クリスティアナをもっと可愛がっていたかったが、仕事の続きがある。
彼女の張った謎の障壁で火傷した手が痛むのか、険しい目つきでお付きの者に当たり散らすミハイルを、領外まで送ることだ。
道中の彼は未練がましく再度領主様へ掛け合ったが、「やはり娘が同意しないことには……」と同様の手口で追い返した。
その時のこいつの怒りや恫喝がことごとく酷い言い訳で拒否されるのはやはり、面白かったと言わざるを得ない。
最後の最後で殺気を漏らした息子とは年季が違うと思ったものだ。
砦に向けて走らせた馬車の中で剣呑な空気を纏っていたところを見るに、こいつの言うアストリア教区の支配とクリスティアナの拐しには絶対の自信があったのだろう。
それが不首尾に終わり暗い瞳で「アルベランに取次ぎを頼めるかい?」と聞かれた時には、人を陥れる事ばかり気にかけて人から陥れられている事に気づきもしないなどと呆れたものである。
アルベランと密約を交わした後は、さっさと帰ってもらって報告と相成った。
「それで、障壁を張ったというのか?」
「はい、青白い電気のような膜で覆われていました」
書類を認めているアルベランに、「あれは神聖魔法でしょうか?」と聞けば、「わからん」とだけ帰ってくる。
庶民も使える生活魔法は疎か、日用品の魔道具の発動すらしなかったのに、王都で練習したとでも言うのだろうか?
長距離転移という偉大な魔術師でなければ成し得ないような魔法を使ったりと、聖女というものは本当に謎に包まれている。
しかし、領主様もアルベラン様もそのことについて一切クリスティアナに聞こうとしない為、俺もそれに倣っている。
「クリスティアナの様子は?」
「ミハイルの訳の分からない要求に辟易していましたよ」
終始うんざりしている様子だった。
「ミハイルに怒りを抱いていたか?」
「全くありませんでした。私が処そうか聞いたところ、命の大切さを説かれる程です」
俺が聞いてすら腸が煮えくり返るような王都での仕打ちを、屈辱とすら思っていないのだろう。
「ただ、ミハイルが神官長になった暁に聖女に戻してやろうなどとほざいた時には、何かを考えているような表情をしていましたね」
悲しげにも見えたし、慈しんでいるようにも見えた。上手く形容する言葉が見つからない。
「もっとも、その後にミハイルを煽った言葉が面白かったので、内容を考えていたのかも知れませんが」
神官でありながら敬いもしない女神の威を借り奢り昂ぶったミハイルへの意趣返しのつもりだったのかも知れない。
そう捉えれば彼女はミハイルを腹に据えかねていたと見ることも出来る。
「何と言ったんだ?」
「私は聖女ではありません、女神です。と」
ペンを走らせるアルベランの手が僅かに止まったが、終始顔を上げること無く、書類の作成を続けている。
「報告は以上になります」
「ご苦労。次の作戦の準備を進めてくれたまえ」
「失礼します」
アルベランの執務室から退室する。
準備……か。
アストリア邸の宝物庫から持ってきた小瓶を取り出す。
思えばこれが全ての始まりだった。
俺は、所持品の整理の傍ら、しばしアルベランとクリスティアナとの出会いに思いを馳せた。




