一話 悪夢
「私は誰なのか、私は誰なのか……」
「答えろ!!」
ガバッ!
ジジジジジジ
目覚ましが鳴り響く
「ハァハァ、ハハ、またか。こう何度も同じ夢を見ると気が滅入るなぁ」
こんな夢のせいで目覚めが最悪なのは、猫田緋月にとってもう珍しいことではない。これが緋月の日常なのだ。
現在は12時、ちょうど昼飯時だ。
「いやぁ、頭いてぇな。昨日飲み過ぎたししょうがねぇーな。腹減ったしラーメン食うか。」
お湯を用意しつついたずらにテレビをつけるがろくな番組が無い、緋月はワイドショーには興味を示さず着々とラーメンを作る。
「テレビつまんねーの、なんだよ牛丼早食い大会って。どうせ、誰かが喉つまらせて放送事故になるだけだっつーの。
よしラーメン出来た、今日は塩ラーメンだ♡」
ピロン♪
「番組の途中ですが速報です、今朝東京都品川区の住宅で男性の遺体が発見されました。男性は全身を強く打っており、身元はこの住宅の■■さんだと見られています」
「また殺されたのか」
ここ最近こういうニュースが後を絶たない、緋月も内心恐れつつ少し慣れてしまった。
「全身を強く打つって確かバラバラって事だっけな、そういう業界用語が好きな友達が言ってたし。
ハァ、今から食事なのになんか食欲失せるなぁ」
そうは言いつつしっかりとラーメンは、食べる。
「あ~あ、この際東京から引っ越そうかなぁ。正直ここくるまでは憧れてたけど、家賃高いし物騒だし隣人はうるさいし良いことあんまね~な。ハァ、でも近くに友達住んでるし、そいつが引っ越すまでここにいるか。どうせ、行く当てもないしね」
家賃が高いとか言っときながら実はそこまで金には困っていない。緋月の仕事は、ほぼニートに近いトレーダーである。ほぼニートに近いと言っても高校卒業後から培った株への知識はしっかりと活かされ現在に至る。
「あー暇だな、あいつ今日休みだっけ遊びに行くか! 適当に寿司でも買ってったら喜ぶだろ。あいつエンガワ好きだしエンガワ10貫ぐらい買ってこ」
緋月は、最寄りの寿司屋に行きエンガワ10貫と自分が好きなとびこ12貫を買って友人の家に行く。
「おーい、いるかー?」
ピンポーン、ドンドン
「おかしいなぁ、いないのか? でもなんか変な匂いがすんな。鉄っぽいような変な臭い。
まるで血みたいな……」
嫌な予感が脳裏に浮かぶ、さっき見たニュースが思い出される。しかし、この状況がそんな想像を引き起こすのは、何もおかしいことではない。
想像できるだろうか? 親しい友のバラバラになった姿を、血にまみれもはや誰かわからないような姿を。
少し前まで確かに生きて共に笑い愚痴を言い合い楽しく飲んでいた友がもう二度と笑ってくれないことを、その空白を。
まだその場面を見たわけでもないのに、心臓を握られるようなその焦燥感に息が苦しくなる。
「…………ない、そんなことはない。きっと魚でも捌いてるんだろう。だからこんなにも震える必要なんてないんだ……」
そっとドアノブに手を掛ける、その冷たさが手を刺すようだ。
あいた。
「あはは……無用心だなあいつは、そういうとこあるからなあいつは……」
ドアを開いた、ほんの少し……
本当に少し……
それなのに、伝わってくる臭いはいっそう強く、はっきりと鮮明になってくる。
「……え?」
赤い、赤いのだ、少しだけ開いたその扉の隙間が、そこから見える床が……
もう躊躇は出来ない……
ガバッ!
ガゴン!!
「いっいやぁぁぁ!!!」
その血の臭いが現実だと突き付ける。
目の前にあるのはかつて友人であっただろう、肉、肉、肉。
一目でもう助からないのは分かる。
「あっあぁ!嫌だ嫌だぁ!あっぁあ、ゲホッ!」
「ちょっとどうしたんですかぁ、うるさいんですが…きゃぁぁぁぁ!」
隣人が来たようだ。
「けっ警察に!」
その後間も無く警察が到着し第一発見者の緋月と隣人が事情聴取の為、署に連行された。
「こ、これはきっと夢なんだ……そうに違いないんだ!悪夢なんだ!」
「落ち着いてください!発見当時の詳細を詳しく聴かせてください!」
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「はい、男性の悲鳴が聴こえて何事かと思い部屋に向かったんです、そしたら人がバラバラで血の臭いが……うぇ……」
「大丈夫ですか、無理もないですね…かなり悲惨な状態でしたから」
その後2人は解放されたが緋月は、精神的ショックが酷く精神病院へ入院することとなった。
『一話 悪夢』おわり