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はじまり


 かつて神は、様々な創造物を生み出した後に人を生み出した。


初めに生まれたのはアダムとリリス二人の男女のペアだった。

 しかし、この二人は神の思惑通りにはいかなかった。同時に生まれた為なのか中々進展のない二人を見かねて神は新たにイブという女性を生み出した。


 アダムは新たに生まれたイブを愛した。


「どうして。」


 二人の様子を木の陰から見ていたリリスは思わずそう呟いた。

 アダムを愛しているのはリリスも同じだ。ただ、二人は同じころに神に作り出された為、リリスはアダムと対等になりたかったのだ。

 アダムは気に入らなかったようでリリスの事を認めようとはしなかった。アダムがイブを選んだ今もリリスはそっと見守る形で彼には何も告げていない。

 悔しさに滲む心も、嫉妬に狂う心も彼には想像もつかないはずだ。なぜなら男はアダム彼一人しかいないのだから。女の心など知りえるはずもない。


 神である父に命じられた子作りも果たせないが、アダムの気持ちを優先したリリス。一人悲しみを抱えたまま二人の元を去っていった。


 リリスは一人旅立ち、流れるままにとある場所へたどり着く。そこで暮らし始めて間もなく、リリスの元へ天使が遣わされた。

 役目を果たせと命じられてもアダムにその気がない今、リリスには何も出来はしない。

 それにリリスはアダムに選ばれたかったのだ。イブを彼が選んだように愛する者として傍にいたかった。

 それが叶わないのであればそっとしておいて欲しかったリリスだが、執拗に迫る天使は聞き分けないと判断して呪いをかけていった。


「どうして私が…。」


 リリスの下半身は蛇のように変化してもはや人とは言えない体になってしまった。世界で初めてラミアという種族が誕生した瞬間でもあったが、それはリリスにとっては絶望に等しい事だった。

 このような姿ではアダムにもう選ばれることは無い。それであればとリリスはその身を海へと投げだした。


 リリスは死んだ。


 しかし、神によって作られた初めての人間はそう簡単に死なせてもらうことは出来なかったようだ。

 リリスは気が付くと悪魔になっていた。人ではなく、ラミアでもない。悪霊に近い姿だ。

 消えることも許されなかったリリスは、悲しみと怒りに震えた。

 そして、リリスは決意する。せめてアダムとイブを神である父の手から自由にしようと考えたのだ。

 それは死しても尚、リリスにアダムと番う事を命じる神からの解放を意味する。

 リリスは父の元へと向かい、その下半身で神を縛りその身を割いて封じ込めた。

 すでに生者ではないリリスの身は精神体ではあるが、神の力の込められた存在である為強力な力を有している。

 リリスの半身は神を封じ込めたことで剣の姿へと変化した。

 剣を川へと投げ捨てたリリスは蛇の姿へと変化してイブに知恵の実を与え二人を神の世界から追放することに成功する。

 リリスに投げ捨てられた剣は川を下り、川から流れ落ちて大きな石に突き刺さった。長い年月をかけてそこは崩れ落ちて洞窟となる。


 アダムとイブが外の世界へと旅立ち、その子孫が繁栄していく。


 身を半分も失ったリリスではあるが、すでに精神体である彼女がすぐに死ぬことは無い。

 それと同時に神を封じることが長く続くこともない事は理解していた。それでも……。


「愛する貴方の傍で見守ることくらいは許して。」


 リリスはアダムの傍へと付き添い、その魂を追い続けた。


 魂は転生する。アダムの魂の傍でリリスは見守り続けることにした。長い年月が経ち、世界には神が封じられたことで弊害が生まれ始めていた。

 知恵の実が与えたのは知識だけのはずだが、知識を与えられたことによって心にも影響が生まれた。

 世界には善意と悪意が生まれ、争いが生まれた。

 いつしか悪意に染まった魂がリリスと同じように悪魔に変化した。悪魔は人に取りつき悪さを始める。

 長い年月が経ち、悪魔は知恵を付け強大な力を持つようになっていった。


 悪魔が力を付けた理由、それは人間の魂というエネルギー源を見つけたからだ。

 それによって、悪魔は自ら取りつく事よりも簡単に魂を回収する術を見出した。

 悪魔の力を貸す代償に魂を貰う契約を行う。それによって、対象が死した後に魂を抵抗なく自らの力と変える術を身に着けたのだ。

 悪魔と契約した者は人に魔女や魔法使いと呼ばれた。

 勿論、全ての魔女や魔法使いが悪魔と契約している訳ではないのだが、神秘の力を持つ者を人は己と違うという事で恐れたのだ。

 当然、力を持つ者が良い事だけにそれを奮うとは限らない。悪意ある力を振るう者が現れれば、それを抑えようとする力も現れる。

 ある時、古い洞窟で石に突き刺さった剣が人間に発見された。それを抜ける勇気ある者が現れた時、剣は聖剣として扱われ魔を払う唯一の力とされた。

 剣を抜いた者は勇気ある者という意味を込めて勇者と呼ばれるようになり、それは長い年月をかけて数々の伝説を残していった。

 剣に選ばれし勇者を選定する儀式は恒例の行事となり、勇者は世界の平和を守る使者として扱われるようになった。

 剣を持つ者は長い年月という目で見れば数多くいたが、リリスの目から見れば選ばれているのはいつも同じ魂を持つ者だった。

 リリスの半身でもあり、神を封じている剣が神聖な力を持つのは自然の事。同時に剣が選ぶ相手というのもまた同じでリリスが欲しているものが常に選ばれていた。

 それを知るのはリリスただ一人。悪魔となっているので一柱と呼んだ方が正しいのだろうが。

 あまりにも長い間神を封じていた剣ではあるが、封印が解かれるのは時間の問題だとリリス自身は気が付いていた。


「もうあまり時間がないのね。」


 少しずつ封印が破られていくのが分かるリリスは、残された時間をアダムの魂を持つ存在の傍で終えたいと考えた。

 今までのようにただ、魂のまま寄り添うのではなく同じ人間として終わりたいという願いだ。

 アダムの魂を持つ者には記憶など残されてはいない。それぞれ人格も違えば考え方や行動も違う。だが、リリスにはその全てが愛おしい。

 例え姿形が違ってもリリスにとっては唯一愛した存在だからだ。

 僅かな時間とは言ったが、それは人の考える僅かではない。永劫の時を生きてきたリリスにとっての時間的感覚は人のそれとはまるで違っている。

 何百年どころの話しではない。長きに渡る年月をアダムの魂を持つ者の傍で見守って来たリリスはこうして転生をするに至った。

 アダムの魂を持つ者と違うのは記憶を引き継いでいるという事だけ。すでに精神体であったリリスの魂には相応の力が残されており、それは記憶や力を継承するには何の問題もなかったのだ。

 勿論、リリスの力は徐々に失われてきているが、人にはそれでも大き過ぎる力に変わりはない。

 転生するたびにリリスの力の片鱗は発揮され、それは人々に喜ばれもしたが恐れられもした。

 リリスはアダムの傍で生きていられるだけで満足だった。例え彼が自分を選ぶことは無くても構わない。

 それはもう随分と昔に諦めてしまっている事だから。そんなリリスにも残された時間が僅かだったからなのか奇跡は起きた。

 傍にあり続けたというのが大きいのだろうが、リリスはアダムの魂を持つ者に愛の言葉を初めて貰った。

 それはリリスにとって驚きは大きく、そしてこれまでで初めて本当の意味での幸せな時間だった。

 それが長くは続かないと分かっていても、リリスはそれで良いと考えていた。


 その命が唯一愛した彼の刃に貫かれようとも。

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