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いつからだろう。
この硝煙と砂塵の入り交じる砂漠で銃を持って駆けるようになったのは。
手榴弾か何かの衝撃で吹き飛ばされた先で寝転びながらふとそう思う。
だが、そう思えたのも一瞬だった。
「なにしてんだ!!そんなとこで寝てる暇は無いぞ」
寝ている俺を横切って少年兵が先を行く。
...そうだ、こんなとこで寝てる暇はないんだ。
次第に走馬灯に近いものを見ていた俺の思考が回復してくる。
手と足の感覚も奇跡的にある。
俺はすぐさま起き上がり、近くの堀に走りようやく安堵する。
だがその間も数の知れない自動小銃の奏でる不規則な死の狂奏曲は止むことを知らなかった。
「よく生きてたな」
堀にいたもう一人の味方のおっさんが小銃を射ちながらそう言う。
「生憎、悪運だけは強いからな」
さっきの地雷を踏む時にちょうど装填をしていたから吹き飛ばされた時と合わせてもう予備の弾倉は無い。
戦況を確認しようと、壕からわずかに顔を出し、
回りを見渡していると、隣から酷い喚き声が聞こえてくる。
どうやらおっさんに敵の流れ弾が当たったらしい。
もう一度周りを見渡し、おっさんのほうを向く、
急所に被弾したのかおっさんも今死んだようだった。
あまりいい気分ではないがこのおっさんの小銃を貰うとしよう。
死人に口無しとは言ったものだが、動く体も持ち合わせてはいないからな。
残弾は、おっさんの残りがそこそこあった。
多分さっき補給でもしていたんだろう。
俺はおっさんの小銃に弾を詰めながらふと思う。
今日は何人殺しただろうか。
地雷で吹っ飛ばされる前に四・五人当たり殺した覚えがある。
そう思いながらを小銃を握る。
前で機関銃をうち回してる敵兵が三人。
恐らく三人一組なのだろう。
前には数えきれない程の死体が広がっていてさっき声を掛けてくれた少年兵の骸も転がっていた。
敵兵は…もうあの機関銃を打っている奴らしかいなさそうだ。
あいつらを殺したらもう今日は拠点に戻ろう。
奴らはまだ機関銃を連射していた。
もう味方兵もそういない。
仕掛けるなら弾が尽きた一瞬しか無いだろう。
そして、数秒間機関銃の奏でる独奏曲はなり続ける。
バクバクとなり続ける心臓の鼓動。
緊張は唐突に終わりを迎える。
それと同時に突撃を決行する。
昔どっかの国も突撃を得意としたらしいが、その国は合衆国に降伏して今は戦争しない国になったらしい。
だが、羨ましくもなんともない。
いつ死んでもいい。
多分もういろいろと遅すぎたんだ。
生きる術を戦う以外知らない。
堀の中から機関銃を撃っていた三人はこちらに驚き一瞬膠着する。
間合いを詰めるには十分すぎる程の時間だった。
三人は三者三葉の挙動を見せる。
あまり実践を積んではいないようだ。
一人は自動拳銃を撃ったが照準の定まっていない乱射だった。
もちろん当たらない。
「死ねっっっっっ」
···
今日もまた生き残った。子供時代から育ってきた部隊は数日前に壊滅し、俺は身寄りもなく反政府軍のゲリラ部隊を転々としていた。
この部隊に来てもう何日目だろうか。
元の部隊では俺のような少年兵がいたからそこそこ居心地は良かったが、
この部隊でもあまり馴染めない、そろそろ潮時だろう。
明日、明日も生き残ったらこの部隊も辞める。
そう心に決め寝床に着いた。
カーン、カーン
なんだこんな時間に騒がしいな。
外はまだ暗かった、早朝の叩き起こされる起床時の鐘の音ではない。
テントの入り口側に耳を傾ける。
「敵襲ー敵襲だー」
その一言を聞いて飛び起きる。
単に敵の奇襲かそれとも昨日壊滅させた部隊の連中の仲間かなにかの報復か。
だが、別にそんなことは知らなくてもいい。
問題は、こんなところにいたら間違えなく敵の餌食になるっていうことだった。
俺はすぐさま寝床の近くに置いておいた元おっさんの小銃を手に取り、
昨日の戦利品の自動拳銃を腰のホルスターに入れ、残弾を適当に弾薬入れに放り込む。
「新人ー早く来ないと明日には鳥の餌になってるぞ」
俺の分隊のリーダーの声が聞こえてくるから、その方向へ駆ける。
その近くからは死のリズムが響いてくる。爆発音も聞こえた。火薬庫に使っていたコテージが爆破されたんだろう。
そうなると最早戦況は絶望的なのは目に見えていた。
リーダーの所に行ったらそれこそ鳥の餌だろう。
俺は足を逆の方向へ運ばせる。
死ぬとわかっていて死にに行く馬鹿は居ないだろう、ここは戦場なんだ。
・・・
俺はそんな戦場を駆ける放浪人。
これはそれを綴った死神と呼ばれた男の物語。
ーTo.be.Continuedー
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