行商エルフ(仮題)
(仮題)です。
(仮題)のまま良いタイトルが思い浮かばず、そのまま(仮題)です。ついでに、人によっては胸糞と受け取れる表現が微量にありますのでそこにはご注意を。
それと、笑える要素はほとんどありません。むしろ皆無かもしれませんが、読んで楽しんで頂けたら嬉しいです。
「……よし、通れ!さあ次の者!公都が祭で人が多すぎるから、サクサク行くぞ!」
「お?エルフの行商人か、しかも徒歩なんてこりゃあ珍しいな。200年は昔、エルフの『行商神』に憧れて里から出て商人になったが、エルフの容姿故に色々酷い目に……ってあまりにも有名だし、エルフ相手に言うことじゃないな。すまん」
「本当にすまんな。それでこの公都へは……商売だよな。じゃあ荷物の確認をさせてもらって良いか?」
「……は?この護身ナイフの紋章は……まさか本物の『行商し……宰相』様で?」
「失礼しましたっ!!どうぞすぐお通り下さい!ようこそ公都へ!!(おいっ急いで城へこの事を連絡してこい!)」
ふぅ……門を潜るこのやり取り。どこの街もですが、周りの騒ぎも合わせて気疲れします。
どうも、先ほど門番さんからご紹介に預かりました『行商神』や『行商宰相』と不本意に呼ばれています、齢500歳を軽く越えたエルフでございます。
簡単に自己紹介しますと、ベタなRPG風要素のあるファンタジー異世界に転生して、行商がライフワークになっているエルフです。
……もう少し詳しく?分かりました。
転生時に【鑑定・世界言語・無限収納】の転生テンプレスキルセットの他に【絶対記憶】をもらって、種族基準での中の下位の容姿をお願いした後にエルフの里で生まれました。
そこで年寄りエルフ達の口伝全てと書物を記憶したら【エルフの語り部】とか言う称号を得て、ハイエルフに進化。【絶対記憶】の力で貪欲に学習し尽くして体も魔法の扱いも鍛えました。
それで自分のスキルで将来何ができるのかを考えれば、商人しか無いのですよ。
なので成人後は里を出て、商業ギルドで登録して行商人へ。
記憶力を乱用しつつ誠実な商売で信頼と実績を積み上げ続け、商売敵や貴族王族から有形無形のあらゆる嫌がらせで苦労しながらも、なんとか今までやってきました。
そんな経緯なので、何百年と行商人を続けていれば、不本意な呼ばれ方をしますよね~。……はぁ(ため息)
今回はこの公都で戴冠式。新しい公王が誕生する祭が行われると言うので、何か面白くて良い商売が出来ないかとお邪魔しました。
見渡せばヒト・人・人・ヒト。普通の人間種以外にも獣人、ドワーフ、竜人、翼人、ノームや他にも色々。お祭りですからね。ヒトが沢山。
背の高い建物から見下ろして、例のセリフを言いたくなってしまいますね。
おや?エルフ達がこちらを見て、一斉に頭を下げました。私はそんな偉い人じゃあ無いんですが……。
……それにこう観光気分で公都を歩き回っていると、アレですね。以前……およそ150年前に立ち寄った頃とはやはり違いますね。
ほら、右手に見える大きな聖堂、あの場所は小さな孤児院が建っていたのですよ。左手の川は、昔は整備されていませんでいたね。……おや、あったはずの住宅地が……。こう言う変化は少し寂しくなりますね。
あらあら、あの鍛冶屋はまだ残っているんですね。随分くたびれた外観になっていますが、当時はお世話になりました。今はどうなってますかね、後で伺うのも良いかも。
おっと、時刻の鐘からそろそろ商業ギルドへ挨拶しないと。
「商業ギルドへようこそ。ご用件を伺います」
「はい。……『行商し……いえ、宰相』様ですね。先程まで商人達は貴女様がいらしたと噂しておりまして、こうしておいで下さって会話もして頂けただけで光栄です。それで……この公都で明日からご商売をして頂けるのですね」
「有難うございます。では『行商宰相』様の動向を逐一追いかけて、情報の拾い逃しが無いよう努めさせて頂きます」
「……おおげさですか?我ら商業ギルドの生きる伝説を、ギルド員が知らない訳は無いですよ。良い話も悪い話も」
「そんなご謙遜を『行商宰相』様の影響力はみんな存じています。この国で結界の大幅改良を行い、治安が良くなった話は有名ですよ」
「……あー、これは不敬罪モノですが、今度の公王様はいささか不勉強で短慮な所がありまして。ええ。もし貴女様に何かがあったら、我らは総撤収の準備に入ります」
「ははは。そうならない事を本気で願いますよ」
なんだか冗談交じりでも恐縮されっぱなしでした。この歳になると皆さんこんな調子で。気安く話し合える、普通の友人が欲しくなります。
……まあアレコレ言ってもどうにもなりませんね。以前も使わせて頂いた『大樹の木陰』と言う宿に泊まりましょうか。
ふう~。この部屋の内装は変わりませんね、落ち着きます。
食事も満足。お腹ぱんぱんで幸せです!やっぱりヒトはお腹いっぱいになれてナンボ、美味しいモン食えてりゃナントカなるなる♪
……ん~、気が緩むと地が出ますね。油断は厳禁。イケナイイケナイ。
しかしまあ考え事は後にして、この満足感のまま寝てしまいますか。身体と着ている物を魔法で綺麗にして、肌ケアの替わりに回復魔法を掛けてから、お休みなさい。
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…………これは随分古い記憶の夢ですね。
ハイエルフ時代最後の瞬間。それまでなんとかやってきて沢山の信頼を勝ち取り、多くの国で城に保管されているような、重要な歴史書物も見せて頂けるまでになって。
そうしたらこのアナウンスが聞こえたんですよね。
『称号【世界の語り部】を獲得しました。それにより古代エルフへと進化し、世界の記録を閲覧する権利を獲得しました』
『なお、称号【異界からの転生者】の効果により元の世界の記録の閲覧権利も同時に獲得しました』
この世界のエルフの寿命は最大でも人間種の2倍程度だったはずが、古代エルフにまでなったら1000年以上は若い姿のまま普通に生きる化け物へ。
ハイエルフの寿命がおよそ400年、インフレが凄い。
しかも進化する度に魔力や身体能力だけでなく容姿も格段に良くなって、厄介事に巻き込まれる率が上がって何のために中の下をお願いしたんだか、と嘆きましたよ。ええ。
唯一喜んだのは、バストサイズが進化の度に大きくなった事。
種族的に小さいヒトばかりで、その中でも私は特別絶壁。それはもうペッタンペッタンで、全ての女性エルフを恨んでいたものです。
今は着る物にも困る位に大きくて、その上で常に肩が凝ってしまって大変なんです(ドヤ顔)
……靭帯?定期的に回復魔法でケアしていますので、きっと大丈夫!こんな大切なものを、絶対粗末になんか扱いませんて!
それでレコードにて真っ先に見たのは、前世の家族のその後。
それぞれがボチボチ幸せに生き抜いたみたいで、ホッとしました。
それから見たのが、思い残していた漫画とか。……結局アレは作者が亡くなるまでに完結せず、遺作扱いですよ。それを知ったら愕然しました。終わらせてから死ねよ!とつい叫びそうになりましたからね。
そんなことをしてから、進化のきっかけになったこの国の王をレコードで確認して、真っ黒と判断。今後の取引で私を騙して、隷属化して好き放題してやろうと画策中、とありました。
これには私もウンザリ。商談を上手くお流れにして、城からさっさと逃げ出したのですよ。
それでレコードに載っている反国王派の、誠実で信頼できそうな貴族様を選び出して、王が今まで主導した悪事を全部書き出したメモをプレゼント。
大規模な政変、混乱が起きる頃には、私はとっくに旅の空。
私は商売人。政治なんて直接商売に悪影響がなければ、どうでも良いの。商売がし易い国になるなら歓迎だけど、し難くなったら逃げるだけ。行商人だから気楽なのよ~。
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なんで私は神とか宰相とか言われるのですかね?私はその場その場で必要そうな商売をして、嫌なことがあればその仕返しをヤり逃げするスタンスでずーっとやっています。
それほど褒められたような、特別な行商人では無いのですが。
っと、おはようございます。今日の朝ごはんは何かな?美味しいと良いな。
鏡……今日も今日とて真っ直ぐな髪質で天使の輪がギラッギラな金髪と、人形じみた整いすぎている顔に濁りの無い碧眼。
ハイエルフになる前の、もっとくすんでいて埋没してそばかすもあった、あの容姿が懐かしい。あの容姿なら、さほどイヤらしい目でみられなかったでしょうに。
……嫌な気分を美味しい食事への期待でなんとか振り払って、身支度を手早く行い、食堂へ。
うん、やはり宿のご飯は美味しかった。公都に滞在するなら絶対にここだよね。連泊の手続きは~……後にするかな。なにか起きるなら今日だと思うし。
今は大通りの露店街。露店に並ぶ様々な物を物色中。
転生時に貰った【鑑定】も、今は【詳細解析】まで成長しまして、品物の価値を見間違うことはありません。混入物から偽物から曰く付きの物から掘り出し物から。
ちゃんとした価値を見抜いてあげますよ。
これは既に亡くなられたお仲間が製作した色物防具。ビキニアーマーですね。
これは呪われていてですね……一度着てしまうと、このアーマーを着た姿を道行く人々に見せびらかしたくなる思考誘導が働きまして、徐々に露出魔へと変貌します。
こんな危ない物を作るなんて犯罪ですよ、タロウさん。
アッチの布は……まだそれを織る結社が生き残っていましたか。手を回して潰して貰ったはずなのに。
アレは強力な守護の魔法が掛かっていて、しかも手触り肌触りが最高な、とても素晴らしい織物なのです……なのですが。
何らかの液体を被ると、透けます。透けるんです。女性に勧めてはいけない代表作のひとつ。
なんでしょうかね、この異常なエロ推しのリビドー溢れる露店は。
――――なんてのびのびと楽しんでいた時でした。
ガヤガヤと音をたてて、私の周りに衛兵ではない、騎士然とした皆様が囲むように並びました。何か来そうな予想が即行で当たりましたよ。私自身もビックリ。
「『行商神』だな!公王様がお呼びである。よってこのまま貴様を連行する!!」
とても失礼な物言いで、私に有無を言わさず縄で打って即連行。ちょっとそこの若い騎士さん、視線が気持ち悪いですよ?ドサクサに紛れて触ったりしないで下さいね?
これからの展開は何度か経験がありますし、荷物を取り上げられる前に、着ている物以外を全て【無限収納】へしまいましょう。
この様子を見ていた周りの方……特に商人の皆様方は、本気で大慌て。……ん?慌ててする事が、店じまいですか?これを話題にして客引きとかせず?あれぇ??
連れていかれたのは、お城の謁見の間。
私は縄を打たれて、しかも膝立ちですよ。あーあ、こんな扱いを私に強いるって。予想よりアレかもしれないですね。
「余が新公王である!」
「貴様が『行商神』か、顔が良くて大きい胸も持っている」
「よし、貴様は今日から余の側室へと入り、貴様の物全てを余に差し出して、国のために尽くせ!」
……なんでしょうかね。この清々しいまでのクズ王ムーブ。本当に、予想よりも実に見事なアレでした。はい。
と感心している場合ではないですね。こんなのに体を好きにされるなんて、考えただけで鳥肌モノですよ。
仕方ない。こんな時の為の契約書を出しますか。
「なに?結界の改良をした時に国とした契約書?」
「それには確かに、貴様の身の自由が保証されている。だから余も保証してやるのだ、側室として身分を保証して、余に尽くして子を産めば良いのだよ!」
「なに、身の自由についての文言に抜けがある?所属は貴様の生まれ故郷から、本人の意思とは無関係に移せない?正当な理由無く捕縛すれば、それは違反事項に当たる?」
「……ふざけるな!契約書に書いていない文面を捏造するなど、真っ当な商人ではない!城内では許可の無い者は魔法やスキルが使えない。反省するまで牢に入れておけ!!」
アレっぷりには感心しましたが、この展開はベタですね。すこしつまらないです。
どうせ何日も食事を与えないで意志を削いで、弱らせたところでヘンな薬を混ぜた物を出して食べさせて、更に意志薄弱になった私をあはーんうふーんの流れでしょ。
レコードなんて見なくとも、簡単に分かりますよ。まったく反吐が出る。
それにしても、当時しっかりと契約書にはそう書かせたのですが……。どこかで部分的に損失して失伝しましたか。
でも契約は契約。違反した貴方達には、相応の代償を頂きますからね。
違反の代償は、結界の停止と結界装置の所有権が私に移り、即座に【無限収納】へ収納される。これは神に誓った上での契約書なので、効力が違います。
部分的にでも失伝させた過去の公王を怨みなさい。……うん。結界装置の収納を確認。
それでは【絶対記憶】から転移魔法の魔法陣を引き出して、記憶の中の映像や音・文字・図形を空中に投影したり、文字や図形を物に焼き付けられる【投影魔術】で床へ瞬時に投影して、脱出しましょうかね!
普段、旅の醍醐味として転移は自粛しているけど、緊急時だから解禁。……あ。そばで監視している騎士達は、純粋な魔力波で吹き散らかしておかないと、着いてこられちゃう。
こんな時まで心に猫を被ってなんかいられないね。はい、騎士さんドーーン!!今までイヤらしい目で舐め回されて、嫌だったのよ!ついでに私を縛る縄も魔法でスパスパー!
ハイっ、自由の身!膝立ちはやめて、私、謁見の間に立つ!そして起動!転移魔法っ!
「あやつは城内でなぜ魔法を!?おい待てっ!」
待ちませーん。こんな公王が居るあいだは、2度とこの公都に来ませんよーだ!おしーりフーリフーリ、ペンペーン!
……おっと。してませんよ?そんな幼い子供みたいな、恥ずかしい真似なんてしてませんからね?
いくらボンクラなボンボンに気持ち悪い事を言われたからって、その反動で幼児退行なんておこしてませんからね!?
絶対ですよ!!ぜーーったいに!アッカンベーなんかもやってませんからねっ!?
~商業ギルドにて
「新公王が『行商神』様を捕縛しやがった!」
「「「「「…………」」」」」
「こりゃヤベーぞ。この国は報復が軽く済んだとしても、必ず傾く」
「あのバ○王、やりやがったか……」
「商業ギルドの規則その1だぞオイ。行商神様は誠意には過大な誠意で、悪意には報復で返す。何事にも誠意であたれ。って」
「あのヒトから気に入られたヒトや組織は、間違わなければ繁栄確実とか言う女神様だぞ!」
「本当に運が良いと、この世では考え付かないような新技術をポロっと漏らしてくれる女神様だぞ!」
「回復魔法の効率的かつ効果的な運用の為にって、無償で知識と技術を広めた女神様だぞ!」
「神呼ばわりは恥ずかしい……って照れたご尊顔で、ヒトを倒した事があると噂のあの女神様だぞ!」
「そこらの国の宰相よりも確実に国の発展に寄与する、本物の女神様だぞ!」
「契約を破って、酷く痛い目を見たはずの商人に、顔を真っ赤にさせて『新しい扉が開いちゃったかも……』なんて気持ち悪い事を言わせたお方だぞ!」
「この常識すら知らねぇって、それでも公王かよ……」
「受付ぇ!他のギルドへの連絡は!?」
「総合生産ギルドと、ハンターギルド。両方へ向かわせました!」
「よしっ!!ギルド員は全員荷造り!ここにいる商人達は公都にいる他の商人や住人達に伝えろ!!」
「荒れるぞ!後継ぎがアイツしか居なかったこの国だからなぁ!のんびり商売してる場合じゃねぇ!!」
「前公王様は病でお伏せだ!フォローは期待できねぇ!!」
「急げえっ!重要書類とギルド運営に必要な物、それと私物を魔法の鞄に入れて撤収するぞ!馬車の用意も忘れるなぁ!!」




