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4.呼び合うネックレスとブレスレット

 魔術学校の進級試験には合格していたので、進級する春までの間に選択科目を決めたり、出された課題をこなすだけで、ある程度イサギは自由な時間が取れるようになった。働きながら魔術学校に通うものが多いので、進級試験が仕事が忙しい時期と重なるものも少なくはない。自分たちで学費を払いながら通っているものも進級でき、魔術師になれる機会が増えるよう、領地の魔術師の才能を潰さぬようにという領主の考えの元での年末と学期末の試験は、成績がギリギリのものへの救済措置でもあった。

 制御されない魔術師が、正規の教育を受けず、生命の(ことわり)に反するような魔術を教えられて闇社会で活躍する。前国王が妃を失った悲しみの余り、政治から離れて喪に服してばかりいた時期に、王都の退廃は酷かった。挙句の果てに国外追放されたはずのイサギとツムギの母親が戻ってきて王宮の工房に紛れ込み、国王に取り入って後妻に入ってしまった。

 あのようなことが繰り返されてはならないと、元々は王都を見習って作ったセイリュウ領の魔術学校の制度が、王都にも取り入れられているという。


「テンロウ領にも魔術学校はあったんですが、学費が払えないことを理由に、裕福な貴族の子息しか通えなかったんですよね」


 そんな状態では生徒の質も悪く、教育も行き届いていなかったので、テンロウ領の領主の息子、エドヴァルドとクリスティアンは王都の魔術学校に通っていた。王都の魔術学校には魔術学校の整備されていないモウコ領、コウエン領からも生徒が来るので、その中で切磋琢磨することがまだできた。


「ジュドーさんが言っとったけど、モウコ領も魔術学校を作ろうて、セイリュウ領にお役人さんが見学に来てはるんやって」

「そのうちに、コウエン領からも来るでしょうね。父も、魔術学校の制度を変えようとしているようですし」


 優秀な魔術師を国が育てることは、才能ある魔術師が闇に流れないための最良の策でもある。教育改革に乗り出した各領に、王都からも支援がなされるという噂なのだが、コウエン領も資金援助があればとようやく重い腰をあげたという。


「ジュドーさんからも、レンさんからも、コウエン領のいい話は聞かへんからなぁ」

「魔術師の才能の低い場所と聞いていますから、才能のあるものが出ると、領主の立場が弱くなるのかもしれませんね」

「領主より魔術師として上やったら、領主の立場がないもんなぁ」


 食事時に話す内容も、エドヴァルドとの間では、政治の話や他の領地の話など、勉強になることばかりだった。いずれ、領主の御屋敷で薬草係として本格的に勤めるのならば、イサギも国政について無関心ではいられない。

 何より、エドヴァルドと並んで劣らない男性になりたかった。


「お弁当、作ってますよ」

「ありがとう。今日も早く帰れるはずやから、着替えたら薬草畑の方に行くな」

「お待ちしています」


 出かけようとして玄関で立ち止まったイサギに、エドヴァルドが首を傾げる。


「エドさんは、働かんでも、使用人が何でもしてくれるし、お金に不自由したこともあらへんのよな……毎日薬草畑で、つらくない?」

「少しも。最近は、カナエちゃんがよく遊びに来てくれるんですよ。薬草の成長を見るのも楽しいですし、本で読んだだけの知識が活かされるのは、嬉しいものです」


 領主の息子として何不自由なく暮らしていたエドヴァルドは、セイリュウ領では家事もしてくれるし、薬草畑でも働いている。テンロウ領でも、厨房に入り込んでは料理を作っていたというエドヴァルドは、知識として蓄えたことを実践してみたかったと言ってくれた。

 結婚してもいないが、婚約者として苦労を掛けているのではないかというイサギの不安を吹き飛ばす答えに、安心して、イサギは魔術学校への道を急いだ。

 進級試験がまだ終わっていない生徒は授業を引き続き受けているが、進級試験に合格している生徒は今の学年の復習をする課題が出されて、それを出すのが中心になっていた。

 古代語の辞書を片手に、空き教室でマユリとジュドーとヨータとイサギで集まって、課題を仕上げていく。それぞれ分からないところは教え合うが、全部丸写しだと自分のためにならないと分かっているので、できる限りは自分で解いていた。


「ここの単語、意味、なんやったっけ?」

「ヨータ、辞書引く癖付けないと、覚えないよ」

「マユリ、厳しい……」


 辞書を渡されて唸りながら古代語を訳していくヨータに、ジュドーがレポート用紙を覗き込む。


「そこ、助詞が間違っとるよ?」

「ほんま!? ってことは、こっちも?」

「あぁ、それもちゃうな」


 古代語、算術、薬草学、その他、座学はほとんど苦手なヨータは、積み重なる課題に潰れそうになっていた。


「俺、終わったから帰るけど、ヨータ、大丈夫か?」

「俺は、頑張る……全部教えてもろたら、ええ成績はもらえるかもしれへん。でも、学校を出たら、俺は俺の力で魔術師としてやっていかなあかんのや」


 薬草学者や魔術具制作を目指すイサギ、マユリ、ジュドーと違って、ヨータは魔術騎士という実践中心の職を目指していた。それでも、魔術を発動させる基礎として座学が欠かせないこと、相手の魔術を読み解く能力が必要なことをしっかりと分かっている。


「もうちょっとだけ私も付き合うわ。ジュドーとイサギくんは仕事でしょう? 課題提出して帰ったらいいわよ」

「それじゃ、お先に」

「頑張れよ、ヨータ」


 成績優秀者で学費免除もされているマユリが見てくれるというので安心して教室を出て、教授の部屋に課題を提出しに行く途中で、ジュドーが壁の掛け時計をチラチラ見て、時間を気にしているようにイサギには感じられた。


「急用か?」

「モウコ領からお役人が来とるっちゃろ? レン様の工房にも来るけん、早く帰れたら準備を手伝ってほしいって言われたっちゃん」


 特別ボーナスを支給するから、早めに仕事に入って欲しいと言われて、お金がなくて毎日カレーを自炊しているジュドーは、工房に行きたいと正直に答えてくれた。面倒見のいいジュドーがヨータの勉強を見るのにも残らなかったのは、今日はそういう理由があったからだ。


「ええよ、俺が出しとくわ」

「ありがとう、イサギくん。よろしくね」


 課題を受け取って、廊下を走り去るジュドーを見送ったところで、イサギは年上の青年に腕を掴まれた。驚いて振り払うと、イサギの手から課題のレポート用紙が落ちる。

 素早くそれを拾い上げようとする青年に、イサギはどうにかレポートは死守した。


「それ、貸せよ。課題なんてやってる暇ないんだよ」

「貸すって、どないするつもりなんや?」

「写してちゃんと教授には渡しとくからさ」


 課題をやりたくない気持ちは、ヨータのように苦しんでいる生徒もいるので分からなくもないが、丸写しでは自分のためにならないし、それが発覚したらイサギとジュドーの課題も提出し直すはめになるかもしれない。


「あかん。絶対そんなん、あかん」

「堅苦しいこと言うなよ」

「あんさんのためにもならへんのやで?」


 ヨータのように実践を重視する職に就くにしても、古代語の文献を読む機会は必ずあるはずだ。王都で王宮の文献を読ませてもらって、自分の力不足を痛感したイサギは、古代語の大切さは他の誰よりも知っているつもりだった。


「タダじゃダメってことか……そういえば、お前、領主の従弟で、男と婚約してるんだって?」

「タダじゃダメとか、そういう問題やない」

「分かってる、ご褒美が欲しいんだろ。そうか、男が好きなら、ちょっとだけなら相手してやってもいいよ。お前、ちょっと可愛いし」

「は?」


 言われていることの意味が分からずに固まってしまったイサギのパンツのベルトに、青年が手をかけようとする。慌てて身を引くと、不思議そうな顔をされたが、すぐに納得したように頷く。


「ここじゃ目立つか……トイレ行くか」

「な、何するつもりや?」

「気持ちイイコト。大丈夫、付いてるもんは同じだから、抜き方くらい分かるだろ」

「ぬき……ほへ?」


 精通は来ているがイサギはエドヴァルドに反応して勃たせてしまったときも、落ち着けば治まったし、エドヴァルドと再会するまでは生きること自体に興味がなかったので、自分でそこに触ったりしたことはない。

 そういうことをする場合もあるのだと知識として知らないわけではないが、具体的にどういう風にするのかも分からないし、名前も知らない課題目当ての青年にして欲しいわけがない。


「い、いややぁー!」

「怖くない、怖くない。気に入ったら、もっとイイコトしてやるから」

「してもらわんでええ! あっち行って……びゃー!?」


 お手洗いに連れ込まれて、パンツの上から股間に触れられて、イサギは半泣きで叫んでいた。

 刹那、転移の魔術が間近で発動したのに気付く。お手洗いのタイルの壁に押し付けられて逃げられないようにされていたイサギが魔術の気配に顔を向ければ、笑顔のままでエドヴァルドがタイルの壁に拳をめり込ませていた。

 砕けたタイルと壁の破片がぱらぱらと床の上に落ちる。


「レンさんが作ってくださったブレスレットと、このネックレス、本当に役に立ちますね。それで、そこの無礼者、顔面がこうなるか、イサギさんを置いて立ち去るか、どちらか決めてくださっていいですよ?」

「す、すみましぇん!」


 座り込んで震える青年の足元に水たまりができているのを無視して、エドヴァルドはイサギとお手洗いを出た。震えるイサギの肩を抱いて、教授の部屋に課題を出しに行ってから、エドヴァルドは移転の魔術で一気に家まで戻って、しっかりとイサギを抱き締めてくれた。


「へ、変なこと、されそうになった……俺、そういうの、したこと、ないし、分からへんし……」

「分からなくていいですよ。結婚したら、全部私が教えてあげます」

「エドさん……好きや」


 胸に縋り付いて泣き出したイサギをエドヴァルドはずっと抱き締めていてくれた。

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