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3.心を込めた贈り物

 王都での新年の式典には、エドヴァルドとイサギで出席して、サナとレンもカナエを連れて行って、ローズとダリアに紹介していた。魔術の才能があるだけではなく、年の割りに賢いカナエは驚かれていた。

 お正月が終わって、仕事に戻るようになると、すぐに冬休みも終わって、イサギの魔術学校も再開する。出かける前に玄関でマフラーを巻かれて、手袋をつけられて、イサギは目を丸くした。


「これ、俺のやない……」

「マフラーは持っていないようでしたし、手袋とお揃いで学校用に買ったのですよ。私のものと色違いですよ」

「プレゼントか!? お礼せな」

「試験前に庭で勉強してたという話を、マユリさんがしていたじゃないですか。風邪を引きますから、防寒してくださいね」


 試験が終わった後の打ち上げでヨータの店に行って、マユリはエドヴァルドに親しげに話しかけていた。恋をしているから分かるのだが、マユリがエドヴァルドを恋愛対象として見ているわけではないというのは確信できる。さすがにイサギとエドヴァルドの関係性に萌えを見出しているなど想像もつかなかったのだが。

 図書館は上級生に使われていて、まだ2年生のイサギとマユリとヨータとジュドーは中庭でベンチに座って勉強したこと、図書館でイサギが上級生に絡まれたことなど、マユリはよく話していた。


「エドさんは、俺が冷えてるって気付いてくれるんやな」


 魔女騒動で王都に行って、テンロウ公爵の別邸の庭で一晩過ごそうとしたときも、エドヴァルドはイサギを暖かな部屋に連れて行って、お風呂に入れてくれた。自分のことには無頓着なイサギは、湯の中に入って手足が痺れるような感覚に、体が冷え切っていたことを知ったものだった。

 同じようにエドヴァルドは、イサギを守ってくれる。


「お礼なんていりませんからね。風邪引かず、元気に帰ってきてくださいね」

「風邪は引かんようにする」


 送り出されて、イサギはふわふわのマフラーに顔を埋めて学校に行った。イサギもマユリもジュドーもヨータも、年末の試験で進級は決まっているので、次の学年に備えての準備期間となる。

 3年生からはもっと専門的な勉強もするので、選択科目を決めるために、上級生の授業の見学に行くことになった。


「俺は薬草学って決めてるんやけど、そのために、古代文字の上級と算術の上級も取らなあかんかなぁって」

「攻撃魔法と防御魔法の上級に進むのは決まっとっても、座学がどれも嫌やー!」

「攻撃魔法でも、目標までの距離、目標の大きさ、目標に当てる魔術の編み方は、算術の範囲じゃないの」

「算術は俺の敵やー! イサギ……一緒に受けような?」


 縋り付かれてしまって、イサギは次の試験もヨータに頼られる気配を感じ取った。


「俺は薬草学も魔術具の構成についても学ばないけんね。算術も必要やし」

「実家の近くに薬草畑ができたから、私もできればそっちに進みたいのよね」


 上級の古代語と算術は全員が、イサギとマユリとジュドーは薬草学、ヨータは攻撃と防御の実践、ジュドーは魔術具の構成についての講義を追加で申し込むことにして、申請書を出した。

 4年からは本格的に専門分野でゼミに別れるので、今年までが一緒に授業を受けられる最後かもしれない。

 なんとなく、4年になっても一緒にいるような気はしているのだが、それでも進級は大きな節目だった。

 見学を終えて申請書も出してしまうと、昼食の時間になった。中庭でお弁当を広げたところで、イサギは外に出るので自然と巻いていたマフラーを外した。


「寒くないんか?」

「お弁当、こぼして汚してしもたら、泣くに泣かれん」

「エドさんは、つけてて欲しいと思うけど?」

「な、ななななな、なんで、マユリ、エドさんからもろうたって分かるんや!?」

「それだけ大事にしとったら、俺でも分かるよ。つけとき」


 ジュドーにも笑われてしまって、イサギはマフラーを巻き直した。首元を温めているだけで、こんなにも暖かい。お礼をしたいのだがいくら考えても浮かばない。

 テンロウ領の領主の長男で、何人もの使用人に傅かれて生きてきたエドヴァルド。セイリュウ領に来てからは薬草畑で働き出したが、それまでは働いたこともなかったのではないだろうか。

 後継者は弟のクリスティアンと決まっているのだから、政略結婚の道具にされ兼ねない状況だったが、結婚も断り続けて、エドヴァルドは何を考えて、何をして生きてきたのだろう。

 家族の話などしてくれるようになったが、イサギはまだまだエドヴァルドのことをよく知らないのだと思い知る。


「マユリ、ジュドーさん、ヨータ、相談があるんやけど」

「勉強のこと以外なら任せろ!」

「お金の無心は無理やけんね」

「なになに? エドさんのこと?」


 心強いのかどうなのか分からないヨータと、正直なジュドー、興味津々のマユリにイサギは相談してみた。


「マフラーと手袋のお礼に、エドさんに何か贈りたいんやけど、マフラーも手袋も、エドさん、専用の良いやつ持ってはるんや……」

「他のものは? 靴下とか!」

「ヨータ、防寒具で考えたんでしょうけど、プレゼントに靴下はないわよ。イサギくんの贈るものなら、エドさん、なんでも喜ぶと思うけど」


 参考にならないヨータと、具体的な内容のないマユリに、更に迷ってしまうイサギ。救いの手を差し伸べたのは、ジュドーの一言だった。


「イサギくん、午後は暇ね?」

「うん? 授業も入ってないし、畑に行くだけやけど」

「工房に来てみんね」


 領主の屋敷の敷地内にあるレンの工房で、ジュドーは下働きをしている。同じ敷地内に薬草畑もあるので、エドヴァルドに声をかけて行くことは可能だった。


「行って、どないするんや?」

「エドさんにプレゼントするんやったら、並みのものは渡せんけん。レン様も、イサギくんやったら、協力してくれると思うっちゃん」

「俺が、エドさんに作るってことか?」


 手作りの品など、食べ物くらいしか思い浮かばなかったが、装飾品を恋人に贈るというのは悪くない話である。それに守護の魔術がかかっているならば、尚更だ。


「ジュドーさん、ありがと! 行かせてもらうわ!」

「俺がレン様の工房に入れたのも、イサギくんのおかげやけん、恩返しせなね」


 お弁当を食べて、課題をもらって学校から変えると、着替えてイサギは領主の御屋敷に向かった。薬草保管庫で働いているエドヴァルドに、途中で声をかけておく。


「ちょっと用事ができたから、遅れるわ」

「どこか出かけるんですか?」

「ジュドーさんと……えっと……」

「お友達の仕事風景を見てくるんですね。仲良しで素敵ですね」

「そ、そうや。行ってきます」


 工房は炉を使っているので室内が常に高温になる上、細かい破片が飛んだりするので、作業着でいなければいけない。コートとカバンとマフラーと手袋は屋敷の休憩室に置いて、イサギはレンの工房を訪ねて行った。

 先にジュドーが話を通してくれていたようで、レンがイサギに作業用の防護服の上着を貸してくれて、靴を履き替えて、明るい部屋に通される。中ではヤットコやペンチなどを使って、魔術具を組み立てる作業が行われていた。


「こういうときに俺を頼ってくれて嬉しかね。効果はどんなんが良いと?」

「怪我をしないような」

「色は?」

「青がええ!」

「素材は? 金属? 革紐? 編み紐?」

「えっと……ずっとつけて貰えて、簡単なのはどれ?」


 注文を聞きながら、サンプルを見せてもらって、イサギは魔術の込められた青いビーズと編み紐でネックレスを作ることにした。金属は薬草保管庫で薬液で変質するのでつけていられないが、紐ならばつけていられる。

 ビーズを通して、紐を編んで固定して、またビーズを通す。結び方を間違えて解いて、また結んで、気の遠くなるような作業も、続けていればいつかは終わる。

 夕方には出来上がったそれをレンに見せると、褒めてもらえた。


「上手にできとうよ。愛情がこもっとるね」

「ほんまか? ジュドーさんは?」

「あっちで、薬草瓶を洗っとるよ」

「ジュドーさん、できたで!」


 声をかけてネックレスを掲げて見せると、作業着を着て手袋を付けて薬草瓶を洗っていたジュドーが振り返って、親指を立てて「頑張った!」と示してくれる。

 集中して同じ体勢で編んでいたので、肩も首もバキバキだったが、嬉しくてスキップで薬草保管庫まで行ったイサギを、ポチとタマとぴーちゃんが足元に纏わり付いて迎えてくれた。乳鉢で薬草を擦っているエドヴァルドも顔を上げて、「お帰りなさい」と言ってくれる。


「え、エドさん、渡したいもんがあるんや」

「ちょっと待ってくださいね」


 作業を中断して乳鉢をテーブルに置いたエドヴァルドが立ち上がる前に、イサギはその首にネックレスをかけた。初めて編んだので、結び目が歪だったり、微妙にビーズの位置がずれていたりもするが、何時間もかけた力作だった。


「綺麗な青……イサギさんが選んで、作ってくれたんですか?」

「エドさんのお目目は、俺の大好きな綺麗な青やから」

「ありがとうございます。大事にしますね」


 カフスボタンを入れた巾着をイサギが肌身離さず首から下げているように、エドヴァルドもそれから毎日そのネックレスを付けていてくれた。

 後からレンが作ってくれたブレスレットは、同じようなデザインで、青いビーズがはまっていた。


「これは、頑張ったイサギくんに俺からのオマケ。エドヴァルドさんのネックレスと連動して、お互いに危険が迫ったときには分かるようになっとるけん」


 イサギのカフスボタンとエドヴァルドのラペルピンも同じような効果があるのだが、仕事中はネクタイをつけるような格好をしないので、レンの好意に感謝して、イサギはそれを肌身離さずつけることにした。

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