第4章 第4話 『会談』
20191004公開
会談はカシバリ邸1階に在る18畳くらいは有る大きな部屋で行われる。
この部屋は会議、懇親会、秘密の図上演習などを行う目的で作った部屋らしく、カシバリ郡の重要な会合によく使われる場所らしい。
集まったカシバリ郡の有力者は20人だ。
有力者の他には、同じ数のお付きの者が有力者の後ろに、壁に沿って立って参加している。
彼らには発言権は無い。
もし、どうしても発言したい場合は、メモを発言権の有る有力者に渡す形式だ。
映画のシン・ゴジ●で会議中に官僚が大臣にメモを渡すシーンを思い浮かべればイメージが掴めると思う。
「さて、これで全員揃ったな。早速、会談を始めるぞ」
カシバリ郡の領主ヘアナンド・ダン・カシバリが開会を宣言した。
ちなみに、テーブルはロの形に並べられていた。
ちょい悪オヤジと俺たち3人が上座に当たるテーブルに横並びに座って(意外と日本的な感覚で部屋の奥側が上座になる)、有力者たちは残りの3つのテーブルに割り当てられて座っている。
「まず最初に、俺の力不足で、みんなに心配を掛けた事を詫びる。まさかここまで完敗するとは思いもせんかった。むしろ傭兵まで雇った今年こそ砦を落とせると考えていたぐらいだ。慢心だな。すまんかった」
そう言って、ちょい悪オヤジは頭を下げた。
有力者たちが一様に驚いた顔をした。
まあ、強気一辺倒のワンマン社長がいきなり従業員に頭を下げたらこんな反応になるかもしれないな。
だが、頭を上げた時には殊勝な表情は無かった。
「だが、失った物よりも得た物の方が多かったという点では勝ちを拾ったと言える」
そこで一旦、有力者たちを見渡した。
これは、決して強がりを言っている訳では無い、と云う事を強調する為だな。
まあ、ちょい悪オヤジ程の眼力が有れば、目だけで不平を持つ人間を黙らせる事は可能だろうし、その目が本心を語っていると分からせるツールになる。
ましてや口元がニヤリと云う感じで曲線を描いている。
この表情を負け惜しみだと誤解する人物がこの席に居る筈も無い。
「うちの家令を通して、領民に午後から中央広場で重要発表をする旨を告知しているところだ。そこで発表する事は、1つ目がカシバリ郡がカシワール郡に全面的に降伏する事。2つ目が俺が愛してやまないアディの婿にカシワール家の次男を迎え入れる事。3つ目がその婿殿の披露だ。ここまでで何か質問が有るか?」
一瞬、顔を見合わせた有力者たちだったが、一番年上の60歳くらいの太り気味の男性が発言した。
「全面的な降伏と仰られましたが、降伏の条件は決まっているのですか? 余りにも過酷な条件ですと、反発が起こって郡が荒れたり割れたりすると思いますが?」
まあ、当然の質問だ。
さりげなく脅しも掛けている。
「という意見が出たが、どう答える?」
そう言って、ちょい悪オヤジが俺を見た。
どうでも良いが、俺たちの紹介もせずにいきなり振って来るのか?
そう云うのは日本では『無茶振り』と言うのだが。
「どうやら、カシバリ卿は紹介をしてくれなさそうなので、自己紹介を先にしましょう。自分はカシワール郡が領主、カズン・ダン・カシワールの第1子、ディアーク・ダ・カシワール、こちらが第2子、ヴァーレット・ダ・カシワール、そして第4子のアンウォルフ・ダ・カシワール」
俺の紹介に合わせて、長谷川二曹と山中士長が軽く頭を下げた。
俺たちの顔を見たのは初めてだろうが、少なくとも名前は知っているのだろう。
何となく納得した表情があちらこちらに有った。大体半数と云うところか?
「今、カシバリ卿が言った様に、第2子のヴァーレットがアダリズ嬢と婚約をしてアダリズ嬢の成人に合わせてカシバリ家に婿入りします。その段階でカシバリ卿は家督をヴァーレットに譲ります」
俺の説明に合わせて、有力者たちの間に?マークが飛び交った。
余りにも好条件なのだ。
この乱世では、降伏イコール負けた領主家の根絶やしも当然の様に起きる。
後々火種になりそうな血を残すような甘い処理はしない。
「ここまでだけなら、カシワール家の処置は甘いと思うでしょう。ですが、ここからがきつい処置になります。軍制の改変及び奴隷制度の撤廃も婿入りまでに行います。これに協力出来ないと言う場合、先ほどの発言が有った通りに過酷、いや苛烈な処置に移行します」
空気が変わった。
この若造が! とか、青二才が調子に乗りやがって! と云う感情が一気に膨らんだのだ。
軍制の改変はまだしも、奴隷制度の撤廃は有力者にとっては財産を手放せ、と言っているのと同義だからだ。
俺は敢えて、さっきのちょい悪オヤジの真似をして全員の顔を見渡した。
「あー、念の為に言っておくが、この小僧を舐めない方が良いぞ。なんせ、再来年の予定だったらしいが、侵攻を粉砕した後に逆襲してカシバリ郡を攻め落とす計画を練っていたくらい喰えないヤツだ。降伏した後で聞かされた時にはゾッとしたね。どう考えてもその通りになっていたからな」
一変した空気が更に一変した。
ちょい悪オヤジの癖にアシストが上手い。
そう、俺たちは秘匿名称『オレンジプラン』と呼んでいたが、計画に沿った軍備も着々と進んでいた。
最大の軍備が俺たち金銀4騎の装備品だったんだが、鋼鉄製の特製の長剣、新規開発のコンパウンドボウモドキは完成していて、神恵鉱石を使った無線機の改善と士官学校の同期9人による中隊新設もほぼ出来上がっていたからな。
結果的には『オレンジプラン』を前倒しで実施したと言える。
「それらの政策を行う事で、カシバリ郡の大樽高は最終的に実質1.5倍になると見込んでいます」
俺が示した飴に対する反応は薄かった。
いや、理解出来ないと云ったところか?
第一、併合した地域は搾取する為のもので、発展させる為のものではない。
次に、1.5倍も実質的な大樽高が短期間で上がると思えないのだろう。この20年、カシバリ郡の大樽高はゆっくりとだが下がっていたからな。
「まず最初に、軍制改革の目的はカシワール郡と共同で軍事行動が取れる様にする事が第一、そして退役年齢を引き下げて田畑の開墾に従事して貰う事が第二の目的です」
カシバリ郡はこれまで、現役のゴムル遣いを増やす為に、成人前のヒヨコと退役してもおかしくない年齢の大ベテランを正規戦力に組み込んでいた。
これをカシワール郡準拠にするだけで退役するゴムル遣いが10人も発生する。
これを開墾の仕事に回すだけで、現在の農作業専従者15人とは別に開墾専従者10人が産み出される。
「そこに、今回の紛争で捕虜にした傭兵団11人も追加する事で、21人の開墾専従者を捻り出せます。これだけの人数を投入すれば、手付かずだった場所の開墾も進むでしょう」
この頃になると、有力者全員の俺を見る目が変わっていた。
理解出来ない思考回路を持つ、根本的に自分達とは違う生き物を見る目だった。
奴隷制度の撤廃は最後は反対らしい反対も無く、了承された。
まあ、敢えて結婚までにと云う厳しい要求を最初に出しておいて、譲歩する体で10年後を目途に、と移行期間を延ばしたからな。
大人の世界は本当に汚い。
お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m




