第3章 第1話 『僕の初めての戦い』
20190823公開
20190827一部修正
*主人公たちの召喚の特徴と一般の召喚の制約を修正&追加しました。
20190901一部修正
*砲撃から命中までの時間(誤:3秒 正:1秒)など修正
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と或る13歳の男の子の独白(前)
もうすぐ夕方が来る。
長かった1日がやっと終わるんだ…
夜明け前からララ竜に乗ってやって来たけどカシワール郡の砦を落とせなかった。
マーティン班長殿は今年はこれまで以上に力を入れたから楽勝だって言ってたのに…
確かに山道に入る前に集合した時に見たけどこれまでに見た事が無いくらいの大人のゴムル遣いの人たちで一杯だった。
初めて戦いに行く僕たちと違って自信に満ちた顔をしてたし、冗談を言い合って笑ってたし、なんだかホッとして安心したのがもうかなり前の様な気がする。
砦寄りのところに20騎くらいのゴムルが見える。砦を見張ってくれているんだ。
クタクタの身体は今すぐにでも寝たいと言っているが、僕たちは今は待機中だ。
隙を見せたら、もしかしたら砦からカシワールのゴムルが出て来るかもしれないから、ゴムルを出していない時も気を抜くなとマーティン班長殿に言われているから座る事も出来ない。
後方では夕食の為の準備が始まっているみたい。
ああ、おなか、空いた…
「トビー、疲れたね…」
「うん。でも、もう少しの我慢だよ、ベン」
隣村出身の同い年のベンヤミンが話し掛けて来た。
彼と一緒にマーティン班長殿の班になれたのは幸運だった。
同い年で同じような身分だからお互いにぼやいたり相談したりしてつらい事をこの3年間一緒に乗り越えてきたんだ。
それにマーティン班長殿は口が悪いし怖い顔をしているけど、実は面倒見が良くて優しい人だ。
なんでも実家がお金持ちだそうで、訓練を頑張って良い結果を出したら他の班には内緒でお菓子をくれるんだ。
ベンも僕も貧しい農家の子だから初めて食べた時には本当においしくて思わず泣いたのは内緒だ。
いつか下の妹のリザに食べさせてあげたいな。泣き虫だったけど今はもう違うのかな? 3年も会ってないから分かんないや。
あ、打ち合わせに行っていたマーティン班長殿が帰って来た。
ちょっと疲れた顔をしている。うん、珍しい。
まあ、今日は1日僕たち2人のお守りをしたから仕方ないのかも。
でも、僕たちも結構頑張ったと思う。
だって、近くで戦っていた『ヨウヘイ』の人たちのゴムルを倒した敵を僕たちの班は追い払ったんだから。
「よーし、トビアス、ベンヤミン、あと10脈魂(約10分)で食事の準備に加わるぞ。それまで気を抜くこ…」
マーティン班長殿の言葉がいきなり聞こえなくなった。
大きな音がしたから。
音がした方を見たら信じられないものが見えた。
砦を見張っていたゴムルの1騎が腰から2つに千切れて白い粉が飛び散って消えちゃったんだ。
周りに居た大人たちも何が起こったか分からないみたいだ。
誰も言葉を出せないと山の方から雷が落ちた時の音がした。
今のは雷だったの?
でもまた別のゴムルが同じ様に腰から2つに千切れ飛んだ。
「て、敵襲! 各自、ゴムルを出して、敵に備えろ!」
隊長様の叫び声が聞こえた…
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長谷川二曹と大橋三曹が予定されていた計10発の発砲を終えた。
消失6騎、中破2騎、小破2騎の戦果は十二分に満足すべきだろう。
第一、今回の砲撃は1㌔を軽く超えた距離からのものだ。
発砲から命中までには約1秒掛かる。
1秒も有れば、狙われたゴムルは下手すれば5㍍も動けるから、上手く見越しを付けないと命中しない。いくら優秀なFCS(火器管制システム)を搭載していても、最終的に標的を取捨選択するのは乗員だ。読みとセンスが問われる部分だ。
「ヴァル、アル、お見事。完璧だ」
「有難う御座います。とはいえ、最後の方はさすがに当てるだけでした」
「いやいや、十分だ。消失まで行かなくとも、2騎は召喚を解除せざるを得んだろう。実質8騎を一気に無力化したんだ。十分さ」
「そう言って頂けるとホッとします。あ、出て来ましたね」
大橋三曹の言葉通り、ターナベル砦の門が開いて、混乱しているカシバリ領のゴムルを掃討する為に残存する全ゴムルが姿を現した。
「ヴァル、アル、キドセンから見て問題ないか? 無ければ俺たちも討って出る」
俺たちはカシバリ領軍のターナベル砦攻略部隊から200㍍ほど離れた丘の裏側に潜んでいた。
ここや、長谷川二曹と大橋三曹が16式機動戦闘車を潜ませている峰は事前の測量で目星を付けていた候補地の1つだ。
長谷川二曹と大橋三曹が後方に在る峰に配置している16式機動戦闘車のセンサーの情報を精査する為に目をつぶった。
「問題無しです。絶賛混乱中です」
「よし、それでは各自召喚後、敵残存部隊に突撃。各小隊は小隊ごとに纏まって行動する事。第3中隊はデリー・ダン・ドラド4級士の指揮の下、好きな様に暴れて下さい」
「は!」
「各自召喚!」
長谷川二曹と大橋三曹の2人は、一旦16式機動戦闘車の召喚を解除して、改めてゴムルを召喚した。
事前に16式機動戦闘車を後方で召喚後に潜ませてから、本人は前進するという運用は、やはり有効だな。
敵にすれば、どこから撃たれているかを把握する事が困難になるし、発見されても16式機動戦闘車の召喚を解除して俺たちのすぐそばにゴムルを召喚し直せば良いだけだ。
他のゴムル遣いなら、こう云った運用は出来ない。
ゴムルの再召喚には規制が有るからだ。無傷の状態での再召喚に1時間くらい、中破以上の損害を受けている場合は小破レベルまで修復される時間が更に追加される。だからゴムル遣い本人が危機に陥った場合でも簡単に再召喚という手を使えない。
今回は使わなかったが、わざと敵の一部を誘引して、予想進路で待ち伏せして横撃という手も有効だ。長射程の火器とゴムルと16式機動戦闘車という2種の召喚対象を持っている者の強みだな。
「突撃、前へ!」
俺たちはカシバリ領のゴムル部隊を蹂躙する為に突撃を開始した。
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と或る13歳の男の子の独白(後)
「トビアス、ベンヤミン、俺の側を離れるな! こういった時は3人で固まった方が良い! 分かったか?」
「は、はい!」
周り中から叫び声の様な命令が聞こえていた。
こんな事、訓練でもなかった。
だって、自分から10歩(約7㍍)も離れていないすぐそばにゴムルが居て戦うなんてした事ない。
今までだったらもっと離れた場所で戦ってから。
なんとかここを離れなきゃ。ゴムル同士の戦いに巻き込まれてしまう。
だから僕たちは自分の目から見える正面だけを見て走っている。
「くそ、思ったよりも敵の動きが早い。もうあんなところまで来てるのか!」
マーティン班長殿が後ろを振り返っていた。
「仕方ない、ここで迎え撃とう」
走り出して30脈(約30秒)もしない内に、敵のゴムルが迫っていた。
3人で木の裏に隠れた。
「いいか、ゴムルをやられそうになっても、やけになって飛び出すなよ! お前たちの命の方がゴムルよりも遥かに価値が高いんだからな!」
「は、はい!」
「よし、良い返事だ。さあて、最初のお客さんだ。可愛がってやろうぜ!」
ゴムルの目には1騎だけで走って来る敵が映っていた。
昼間に戦った時のゴムルよりも弱そうに見える。
僕たちは、マーティン班長殿のゴムルの左右半歩下がった定位置に自分のゴムルを動かした。
「昼と同じ様に3人で相手をすれば、どうってことねえ。分かったか?」
「はい!」
あと20歩(約14㍍)という時に敵ゴムルがいきなり剣を左の方に振った。
違う班の2騎が横から仕掛けたんだ。
今なら僕たちの3騎と合わせれば1対5で余裕で勝てると思った瞬間、味方の2騎が同時に腰の部分から2つに切り裂かれた。
「え?」
何が起こったのか分からずに3人とも声を上げたけど消えつつある味方のゴムルの向こうに大きな金色のナニカが居た。
『ウードー10級士、落ち着け。頭に血が上った兵ほど先に死ぬぞ』
『あ、ハイ!』
『初陣だから仕方ないが、味方のフォローをするのもされるのも生き残る為には重要だ。いいか、生き残れたら食堂名物のアンパンがまた食べられるんだぞ。生き残りたくなったか?』
『はい!』
『よろしい。で、そこのカシバリ郡の3騎に確認だが、降伏する気は無いか?』
全身を現した敵のゴムルは巨大で変な鎧を着てしかも全身が金色だった。
それ以上に怖いと思ってしまう雰囲気をしていた。
「くそ、まさかもう前線に出て来てやがったのか!? くそ!」
マーティン班長殿が信じられないという声で呟いた。
「いいか、トビアス、ベンヤミン、俺がやられたら降伏するぞ。お前たちの手に負える相手じゃねえし、さっきの動きから考えて逃げ切れるもんじゃねえ。分かったか?」
「は、はい」
「よし、いい子だ」
そう言ってマーティン班長殿が僕たちの頭を撫でてくれた。
『マーティン・ダン・グド7等騎士だ。一騎打ちを希望する。それとヒヨコ2人は降参で良い』
『フム。承った』
30脈(約30秒)後、マーティン班長殿がぼやいていた。
「やっぱり化け物じゃん。まあ、噂のカシワールの金銀4騎の、しかも金色と一騎打ちをしたってだけでも箔が付くってもんだ。で、どうだった、俺の雄姿はカッコ良かったか」
「すみません一瞬過ぎて良く分かりませんでした」
「ひっでー」
本当に勝負は一瞬だった。
でも・・・
「でも、勝負する時の後ろ姿は最高にカッコ良かったです」
「おう、最高の褒め言葉だ。帰ったら、お菓子を一杯食べさせてやるぜ」
こうして僕の初めての戦いは終わった…
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お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m




