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「世界の終わりや。ああ、世界の終わりや。世界の終わりがやってくる」

「真冶。新興宗教でも興したんか。ちょっと不気味やで」

「バカも休み休み言いたまえ。寝言は寝てたら聞こえません。てか、なんで、それ何の話や、って訊いてくれへんねん」

「呪文唱えてただけやろ」

「そやねん。呪文唱えてただけやねん、って違うやろが。てかさぁ、春樹。俺ら後一ヶ月で高校卒業なんやで。このまま卒業したら、なんも青春あらへんがな」

「ついさっき、ひとりでやってたやんか」

「ん。ひとりで。ああ、そやった。それや、それ。世界の終わりやねん」

「何の話や、って、絶対訊いてやらへんで」

「よう訊いてくれました。さすが親友」

「二階級どころか、五階級特進並みの称号やな。すげぇインフレ」

「誰が日銀目標やねん、ってか。いやそんなことより、かすみや。かすみが、かすみが、東京の大学行く、言うねん。なんとかしたってえな」

「ええやんか、東京行ったかて」

「あかんやろ。そりゃ、あかん。絶対あかんに決まっとるがな」

「なんであかんねん」

「そりゃ東京やで。東京。ナンパの街やで。言葉巧みに誘われて、あんなことや、こんなこと、そしてまたそんなこと。あああああ、絶対、あかん。断固阻止や」

「お前がナンパせんかっただけでもめっけもんやと俺は思うがな」

「なんでやねん。かすみに釣合う男は、世界中に俺だけやんか」

「むやみに胸張るな。さらにや。その胸より出てる腹、へこまし。ほんまにそれで現役の高校生かよ。ほんで尻突き出して、惰性で屁こくのもやめてくれへんかな。掻くな、そこ」

「せやけど神戸にかて、京都にかて、いや、この大阪にかて、大学はぎょうさんあるやんか。なんでわざわざ東京なんて恐ろしい街に行かなあかんのんや」

「かすみには夢があるんや。絶対叶えたい、って思う夢が。それを手に入れるにはどうしたらええのんか、考えて考えて、悩んで悩んで、そしてようやく出した結論なんや。かすみは、東京に、行くんじゃない。東京に住まわれている尊敬できる先生の教えを受けに、その先生が住まわれている町に行くんや。なっ、応援したろうな」

「嫌や。絶対、嫌や。夢なんてもん追っかけたら絶対不幸になるって。そんなもん追っかけたらあかん。そんなことで人生のレール踏み外したらあかん。絶対あかんがな。ほら、鈴木のおっさんみたくなったら不幸やろ」

「おっちゃんかぁ。おっちゃんが不幸。不幸なぁ。ちょっと違う、思う。ようわからへんけど、けして社会的な成功者やないけど、それでも、少なくとも、おっちゃんは自分がやってきたことを後悔してへんと思う」

「お前みたいなガキんちょに、そんなことわかるわけあらへんやろが。威張りくさって何言うてんねん」

「そやな。わからへんな。そんなもん、よう分からん方が楽しそうや」

「だったら止めてやってくれ。それがわかっとるんなら、止めたって。春樹。お前、なんで小説なんてもん書いてんねん。こんなときかすみのような迷える仔羊を救うためやあらへんのんか。同じモノカキやろ。後生やから救うってやってぇや」

「なんなんや、その死語の嵐は。てめぇ、ババアかよ」

「そこ、せめてシジイやろ。あっ、おネェでもいけるか」

「いける口なんや」

「なわけあらへんやろ。そんなことよりかすみや。かすみのやつ、お前も小説書いてるから、俺よりお前の言うこと聞くやろ。俺じゃあかんねん。小説書かへんから、俺の言うこと聞いてくれへんねん」

「真冶より俺の言うこと、かすみが素直に聞くのは、そういうことやない。それに、かすみの書く小説と、俺のらくがき、比べたらあかん。そんなことしたら俺がかわいそうすぎる。徹底的にかわいそうや」

「自分のことより、かすみのこと考えてやってえな」

「せやから、ずっと、かすみのことしゃべってるやんか。あいつ、俺なんかが千回逆立ちしたかて手に入れられへんすげぇ才能持ってるんや。あいつはホンモノや。ホンモノが、もっと、ずっと、ホンモノになりたい思うの邪魔したら、地獄に落ちるくらいじゃすまへんで」

「止められへんのんか」

「止められへんのんじゃない。止めたらあかんねん」


 かすみちゃんが決心したらしい。

 それでいい。それでいいんだ。

やってみて間違っていたなら、それも宝だ。

己の信じるものを、己が信じてやらないで、誰が信じてやれる。

怖さはあるだろう。不安もあるだろう。己の才能に自信が持てなくなることだってあるだろう。だがそんなことは大した問題ではない。何かを成そうと努力した、そのことこそが大切なのだ。

そして何より、君にはあふれるほどの才能がある。それは間違いない。

 師匠と、こんなわたしのことをきょうまで呼んで、慕ってくれて、ここまで小説を真っ先に読ませてくれて、ありがとう。

あしたからは君の読者に向かって思いっきり書いてくれ。

 わたしは君の本が出たら真っ先に買いにいく。必ず、真っ先に買いにいくから。

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