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「真治、聞いてんのかよ」

「ん? ああ、悪い。なんやったっけ」

「まったく。こんなこと、何回も言えへんちゅうねん」

「だったらよかったんじゃね。問題は解決したんやろし」

「何も解決なんかしてません」

「ふへっ。高校生にもなって、男のスネ坊って嫌われるで。なんやねんな、そのふてくされた顔は」

「誰がスネてるって」

「ん? 春樹じゃね」

「まったく。スネてへんわ。だからさぁ、ケイタイが充電でけへんかったんや。かすみのやつが学校の電気を無断で使うな、ってコンセントから充電器勝手に抜きよったんや」

「ん? 春樹。今、かすみの悪口言わへんかった。俺、かすみの悪口言うやつは全部ぶっ壊すことにしてんねんやけど」

「たとえば何?」

「ん? 春樹のiPadとか。そんな感じ」

「あれ壊したの真治だったのかよ」

「覚えてへんなぁ」

「都合が悪いことは忘れる口か」

「ああ、そや。そのコンセントにも都合があったんやない。充電器ぶら下げれへんような」

「どんな都合だよ」

「コンビニに行って弁当買うとかさ」

「コンセントがコンビニ行って、弁当温めてもらってりゃ世話ないな」

「よかったやん。一見落着やんか」

「何も解決してないやろ」

「解決さしたりぃや。いいやん、コンセントが弁当温めてもらったかて」

「嫌じゃ。ありえへんやろ、そんなこと」


『しあわせのカタチ』と題したブログ記事をながめながら「このおっさん、すげぇ屈折してんなぁ」と和瀬道夫はあきれて首を左右に振りながらつぶやいた。


 和瀬道夫とは私のことだ。戸籍上は、鈴木一郎太という別の名前があるけれど、より私らしい私は和瀬道夫の方だ。メールアドレスもネット上の様々なサービスのアカウントもIDも、すべて和瀬道夫で統一している。今眺めているブログも私のものだが、そのブログのプロフィールも和瀬道夫である。和瀬道夫を名乗り出して、もう二十二年になる。


 お前の余命を四十五日とする。人生最後の四十五日でおまえは何をする?


 命尽きるまで小説を書いて過ごします。


 それがおまえに許されようか?


 たとえこれで最後であろうとも、やはり許されざることでしょう。それでも、その真贋を確かめて逝くしかないのです。


 もう一度、ブログの文章に目を通し、自分で書いたものであるにもかかわらず、苦笑する。これのいったいどこが『しあわせのカタチ』なのだろうか。しかも大げさに過ぎる。だが、私にとってこのしあわせは、たぶん最高に価値あるものだ。

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