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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
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⑧ 納得がいかなかった

「ゾンビアについて君に詳しく話すにはまだ時期早々だな」

 ゲイルはそう言ってニッと笑う。安谷さんのそれと比べるとはるかに醜く、嫌悪すべきものに見える。それは単にゲイルというこの白衣の男への印象が最悪であることが起因しているかもしれない。

「それは構わない。けど俺が重要なキーを担っているという事については何か教えてくれるんだろうな」

 気付いてはいるがついつい語気を荒くしてしまう。満足いかない応答の連続に苛立ちを感じていたのは確かだ。

「もちろん。そう慌てなくとも順を追って説明すると言っただろう?」

 そう言っていたかどうか思い出せないが、ゲイルがそうと言うのならそうだろうと納得するしかない。

「さて、その君の叔父である入嶋博だが数年前に突如失踪したのだ」

「その話はさっき聞いた。叔父は海難事故で亡くなったと見せかけてこの島に来たんだろ」

「早とちりは止めたまえ。失踪したのはこの島からだ」

 叔父が二度も失踪した。この驚くべき事実に入嶋はただ目を大きく開いてそれをゲイルに伝えることしか出来なかった。日本から、私たちから失踪した叔父がまたこの島からも失踪した。それはまるで叔父がこの島に元々来ていなかったというトリックを暗に示しているようでもあった。

「彼の研究分野である微生物学はゾンビアをより強靭かつ無敵にするには重要なピースだったのだ。しかし彼は最後のデータにロックを掛けたまま失踪した。計画を遂行する上で彼のデータは必要不可欠なのだ。わかるかい」

 分かるはずもない質問を急に投げかけられて辟易する。もしかすると叔父はそのゾンビアとやらが関する計画を止めたかったのかもしれない。それはそれで勇敢な話ではないかと空想した。二度の失踪を遂げたある男のストーリーの主演は誰にすべきだろうか。

「大変困った我々はどうにかロックを解除できないかと動いたのだ。すると驚いたことに彼の生体認証によるロックを解析すると何故か君のそれでも解除できるように登録してあったのだ。これは彼なりの遊びだったのかもしれないが、そのおかげで君はここに来る羽目になったわけだ。恨むなら叔父を恨むがいい、入嶋君」

「つまり叔父のそのデータのロックを解除するために俺はここに呼ばれたのか?」

「そうとも。君は理解が早くて助かる。多くの研究員は頭が変に堅くて私は君に研究員になって欲しいと思うばかりだ」

 そう言ってゲイルはまたニッと笑った。それはジョークを交えて返せたことに満足しているような笑顔であったが、入嶋にとっては世界一醜い笑顔の一つに見えた。

「そんな理由で?俺が?」

 納得がいかなかった。いや、いくはずがないだろう。

 日本での活動を急に、そして極めて個人的な理由で打ち切られ、望んでもいない環境に無理矢理連れてこられ、しかもその理由と来たら叔父が残したデータを手に入れるためだと。

「全く笑わせてくれるじゃないか、叔父さん…」

 それは届くはずの無いどこに消えたのか消息不明になった叔父に向けての小さな恨言だった。入嶋を包み込んだのは燃え上がるような怒りではなく、あっさりとして冷たい諦観だった。それはこのロストワールドという島に漂う悲哀にどこか似ていた。

「煮え切らない所があるだろうが、こちらはこちらの理由があって君をここに連れて来たのだ。その責任や影響が最小限であるように工夫をこれでもしているつもりだ。私たちの最大の計画の為だ。その名誉を少しでも君に自覚してもらえると有難いものだがな」

「そうか」

 入嶋はそう短く返したがゲイルの言っていることは一つも理解していなかった。もうどうすることも出来ないこの状況に陥ってしまった自分の不運とその惨めさに苛まれて頭が爆発する寸前だった。目の奥が、頭が、チカチカするような感じがする。身体的に、精神的に、我慢が効かなくなっているように感じる。

 虚ろな目をしたまま入嶋はゆっくりと床にへたり込んだ。そして緩やかに意識を失っていく。最後に見たのは目の前のゲイルという男がそれほど驚いた顔をしていなかったという現実だった。視界が朧げになり、やがて色を失っていく。

「薬が効いたようだな。彼の角膜をコピーしろ。くれぐれも丁重に扱うように」

 ゲイルは右手を短く上げて周りのアンドロイド達にそう命じた。寸前までただの静物と化していたアンドロイド達が生を授けられたように急に動き出した。

 それはぎくしゃくしているようで無駄のない動きであった。

(筆者のひとこと)

改稿したかった1番の場面がここでした。入嶋がロストワールドに呼ばれた理由を明らかにする場面です。改稿前は入嶋とその叔父しか分からない謎の暗号にしていたのですが何となくしっくりこなかったので生体認証という形を取りました。科学って便利ですね。

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